2014年03月21日(金)09時44分

(14-06) アジア・オセアニア圏に於ける日本の回転翼機の位置付け

要   旨

1.アジア・オセアニア圏の回転翼機のグロ-バルシェア-は14.4%%と比較的小さい。

2.その中で豪州、ニュ-ジランド2ヶ国のシェア-は54.7%と半分以上を占める。

3.日本のグロ-バルシェア-は2.5%、アジア・オセアニア圏内では17.1%と域内第2位。

4.インド・中国が近い将来、日本に追い付き追い越す事は想像に難くない。

5.回転翼機の重要な用途は海上石油・ガス油田開発に必要な資機材・要員の搬送。

6.尖閣諸島に象徴される中国の東シナ海の領有権の主張は回転翼機の動向にも影響する。

7.東南アジア諸国も海上油田・ガス田の数多くのプロジェクトに関わっている。

8.従って、これら諸国も日本を追い上げて来る事は確実。

9.他方、日本の今後の成長可能な領域は;

a.海洋資源開発。石油・ガスは期待出来なくてもメタンハイデレ-ト等海底資源開発。

b.ドクタ-ヘリに象徴されるEMS (緊急医療システム) の更なる深化。

c.東日本大震災、海上遭難、雪山事故に象徴される人命救助、救援資機材・要員の搬送。

d.企業マンの「ビジネスツ-ル」としての「手の届く「2点間輸送」のサ-ビス提供。

e.オリンピック東京開催に象徴されるイベント訪問客の国内移動の足の確保。

10.上記a.b.c.は国/地方自治体の「公的」支援・過去の経緯もあり本サイトで深入りしない。

11.従って本サイトの本年度の焦点はd,e項の「旅客の2点間輸送」に重点を置く。

12.全ての国は地理的、社会的背景や交通事情も異るので彼我の善悪是非の比較は無意味。

13.日本は狭い国土に効率良く、低コストの交通機関が高度に発達、空運の出番は限定的。

14.交通機関が広域に低密度で分散する国は選択肢が少く航空機に依存せざるを得ない。

15.従って、北米、EU, 豪州、アジア領ロシア、中国の大陸国と日本の対比は意味が薄い。

16.急成長する国は所得に貧富差が生じる。日本とて明治・大正期は同様であった。

17.日本では現在「階級格差」「所得格差」による「特権階層」のビジネス機利用は少ない

18.これは国家の成熟度を示す事象で有っても恥じる事も劣等感を感じる必要もない。

19.ビジネスマンの足として利用可能なモデルを構築、途上国への範を示めせば良い。

 

アジア・オセアニア圏の回転翼機のグロ-バルな位置付け

                           Forecast International 2013

北米

欧州

アジア・大洋州

中南米

その他地域

合計

機数

18,501機

5,475

4,624

1,775

1,758

32,133

比率%

57.6%

17.0%

14.4%

5.5%

5.5%

100%

 

アジア・オセアニア圏回転翼機数

Forecast International 2013

順 位

国  名

2013

比率%

1

豪  州

1,808機

39.1

2

日  本

789

17.1

3

ニュ-ジ-ランド

723

15.6

4

中  国

465

10.1

5

インド

265

5.7

6

インドネシア

115

2.5

7

タ イ

82

1.8

8

フィリッピン

81

1.8

9

韓 国

80

1.7

10

マレ-シア

60

1.3

 

その他

156

3.3

 

アジア・オセアニア圏計

4,624

100.0

l  日本の機数は日本航空機全種2013記載の数値で補正。

l  中国の機数はAsian Sky Groupの2014年2月版レポ-ト記載の数値で補正。

 

日本のビジネス機市場の特徴

/遠距離飛行用Mid~Heavy   Jet

1.本サイトで繰り返し述べて来たが、日本の民間には過去数年1機も存在しない。

2.理由は、全世界主要都市へ各国の商用便でビジネス機の1/50~1/100の運賃で飛行可能

3.これは中国を含めアジア諸国では得る事が出来ない日本の持つ利便性の特権。

4.日本列島は2~3,000㎞で端から端迄カバ-可能でMid-Jetの必要性もない

5.日本も超富裕層、セレブ、VIPは存在するが機材所有・運航の経済基盤としては不足。

6.逆に、近隣諸国は「階級・所得格差」に加え人口も大きく、ビジネス機利用者の数も多い。

7.従って、近隣諸国よりの呼寄せで「特権階層」のニ-ズを過去10年充足、問題はない。

8.アジア地域で1200~1500機の存在も指摘され今後の急成長を考えれば呼寄せで充分。

「狭義のビジネス機」(双発タ-ボ機+ジェット機)

1.2013年末、日本に双発タ-ボ機11機、ビジネスジェット機24機計35機が存在する。

2.ビジネスジェット機の内、10機が地方のオ-ナ-企業、5機が報道関係の所有機。

3.一般利用者がチャ-タ-可能な機材は3~4機、最大限数機。

4.利用料は商用機、コミュ-タ-機の50~100倍と一般利用者の検討の対象にも値しない

5.従って、利用者は海外ビジネス機利用者の国内移動或いは「VIP送迎用」と限定的。

6.2013年10月末より海外ビジネス機利用者の国内移動のカボタ-ジュ制限が大幅緩和。

7.問題点は単純に機材のコストが高く一般利用者の「手の届く」利用料の提供は不可能。

8.「狭義のビジネス機」は何れも「固定翼機」で全国98の空港以外では使えない。

9.幹線或いは準幹線航路には商用機、コミュ-タ-機が就航、ビジネス機の出番は少ない。

10.僅かに地方空港の横から横への移動に使われるにしても限定的で採算に乗り難い。

11.従って、より機材コストの安い「広義のビジネス機」が日本のビジネス機の95%以上。

12.「広義のビジネス機」は0.3~2.5億円程度と遥かに安いが後記の価格表参照。

小型固定翼機

1.小型固定翼機は「固定翼機」故に離発着に98の空港しか使えない構造的限界がある。

2.偶々訪問先が空港近隣で有れば良いが、地方企業の訪問も公共交通機関の方が便利。

3「大量輸送」の公共交通機関と小型機と言えども個人利用では大きなコスト差が生じる。

4.地上タクシ-より安い利用料もあるが、利用統計で利用者が殆どいない事が検証可能。

5.小型単発ピストン機を個人がレジャ-として利用する場合にはビジネス機の範疇外。

6.多くの個人或いは個人企業でも「趣味と実益」を兼ねた利用が多かろう。

7.個人企業の場合は経済性が悪くても経費として「節税」に利用される事例もあろう。

8.然し、大手企業が機材を所有・運航するケ-スは殆ど見られない。

9.米国では発祥地の田舎町に本社を置く企業は、商用便がある空港迄シャトル便運航。

10.日本の様に大企業の本社が都市圏に集中するのとは基本的に異る。

11.米国の大農園、牧場経営者は空港へのアクセス、播種、農薬散布等業務上にも必要。

12.米国は国土が広く都市圏ではマイカ-は必須。地方では自家用機のニ-ズが高い。

回転翼機

1.国土が狭く山岳の多い日本では空港建設の用地も少なく回転翼機の利用がより便利。

2.「広義のビジネス機」に占める回転翼機の比率が高いのはこの様な状況を反映している。

3.但し、回転翼機でも3億円以上する上位機種は「公用機」が多くビジネス機の範疇外

4.一般利用には0.3~2.5億円程度の低価格帯機材が利用されて来た。

5.然し、1億円以下の低価格帯回転翼機でも「旅客の2点間輸送」には殆ど使われない。

6.おそらく最も見過されて来たのは企業マンの2点間輸送の足としての視座で有ろう。

7.「見過ごされて来た」と言っても関係者は各種航空機の利用料は先刻承知している。

8.欧米を含め「大陸国」との国情の違いは語られず、「特権階層」と一般利用者を混同。

9.それ以上に、航空機の「ワンランク」上の「付加価値」を付けた利用への期待と願望。

10.「ワンランク」上と言っても2~3倍ではなく50~100倍程度と現実離れの期待/願望。

11.全航連の月遅れの小型機/回転翼機の「2点間輸送」実績が事実を全て語り尽している。

12.本サイトはこの「期待と願望」と現実の乖離を如何に埋めるかを共に考える事が目的

ビジネス機の価格

ビジネス機の価格は利用者の大きな関心事だが、秘密のヴェ-ルに包まれたものではなく製造業者は一様に販売価格を公表している。但し、公表価格を見る場合には幾つかの留意点がある。

1.自動車同様価格は標準仕様である。ビジネス機は特注が多いので顧客の要請で多くの改良や追加の装備が必要と成り、結果として公表されている価格を大きく上回る事が多い。

2.運航業者特にFractional Ownershipの運営会社は200機以上のビジネス機を纏め買いして大幅なデイスカウントを享受する。分割所有するオ-ナ-は通常価格で分割所有が出来るが、通常価格とデイスカウントの価格差が運営会社の利益と成る。

3.自動車と同じく価格はインフレ率や改良種で大きく変動する。業界誌等に記載される価格もいつの時点で何処から拾ったかで異る。従って、出典の異る価格を拾い集めて比較するのは余り意味がない。業界誌や一流コンサルタント業者は同一時期の公示価格を並記する様努めている。

4.日本の場合、海外からの機材輸入に輸送費、関税、業者手数料等様々な経費が加算され2割程度コストアップする。一番大きな要因は外貨/邦貨の外国為替交換率の変動で本サイトでは計算簡便化の為、\100/$を流用しているが円高/円安で邦貨換算では大きな変動がある。

5.あらゆる取引に共通する事だが、メ-カ-リスト価格と実取引価格は当然の事乍ら異る。

6.現実志向に徹すれば、一般利用者の手の出ない高額の機種を羅列しても意味がなく,0.3~3億円(0.3~3百万㌦)で且つ日本で使われ保守・修繕も国内で充分に行える回転機の機種に絞り価格を提示する。ビジネス機の代表的上位機種のBombardier Global Express, Gulfstream G-IV,G-V, G-550は1機数十億円する。機材は日本にも存在するが民間で使える筈もなく、国交省、海上保安庁、防衛省の軍用・公用機のみ。国交省はこの種上位機種の退役と数分の一の価格のLight Jetへの買替えを昨年12月に決定している。

7.但し、概念的な比較の資として、現在国内で使われているCitation機の価格は下記に表示。日本の保有するLight Jetの大半がCitation機。Citation 510はマイクロジェット機で個人企業の所有機だが一般利用者がチャ-タ-可能なコストの一番安いCitation 501でも利用料は商用便、コミュ-タ-便の50~100倍するのでビジネスマンが「ビジネスツ-ル」として国内出張の足として利用する事は出来ない。内外のVIPや「特権階層」に陪乗する程度。

8.出典はTeal Groupのレポ-トで2013年後半と2014年初めの製造業者の公表リスト価格による。邦貨への換算は\100/$、輸入コストは含まず。

Teal Group資料

機種

501

510

525

560

680

価 格

515百万円

343

723

1,310

1,820

JA機数

1機

2

8

8

航続距離

3,260㎞

2,696

3,260

3,685

5,222

巡航速度

713㎞/時

709

713

730

826

 

9.回転翼機の主流はAirbus Helicopter, Bell. Robinson社製の機種で、日本での整備、保守施設も整っている。整合性を図る為出典はTeal Groupのレポ-ト。

10.航続距離、巡航速度等の性能に神経質に成る必要はない。航続距離は搭載燃料量、搭載人員・持込み荷物量、風向き(逆風・追い風)等で変動するが、利用料との見合いで短距離,短時間に利用で往復でも100~200㎞程度を想定して居るのでどの機種でも充分な裕りがある。片道50~100㎞であれば離着陸の時間も想定し飛行速度を200㎞/時と丸めても、飛行所要時間は15~30分でこれも何れの機種を利用しても大差はない。

 

Teal Group資料

機種

価 格

JA機数

航続距離

巡航速度

Airbus Helicopter

EC-120

AS-350/EC-130

191百万円

250

4機

82

771㎞

632

228㎞/時

225

Bell

206L

205 Jet Ranger X

229

100(?)

55

0

595

644

203

232

Ribinson

R-22

R-44

R-66

27

44

83

66

99

3

422

557

648

176

216

230

 

205 Jet Ranger Xは本年2月のHeli-Expo 2014に試作機が展示された僅りで、市場に出回るのは2016年以降と成るが、世界的にも又日本でも人気のあるAirbus Helicopter AS-350 シリ-ズ、Robinson社のレシプロ機R-22+R-44とタ-ビン機のR-66の既存機数は下記。

JETNET資料

機種

R-22+R-44

R-66

AS-350B

AS-350B1 AS-350B2 AS-350B3 AS-350BA

既存機数

10,564機

493

464

73

1,309

1,115

587

 

将来を予測する事は難しいが、日本で使われて居る製造メ-カ-、人気機種に的を絞った。

(1)  Airbus Helicopter : 世界最大の回転翼機メ-カ-で日本ではEurocopter, Aerospatialeとして親しまれて来たが、本年1月組織を改変、共通の親会社の傘下でAirbusの名を冠した。日本でも多くの機材が利用されて来たが、日本では、本社は六本木ヒルズ(ビル屋上にヘリポ-トもある)関西では伊丹空港の整備施設を神戸空港の移し、空港と共同でビジネス機の受入れ施設、ハンガ-、保守・整備施設も整備、同空港島内のヒラタ学園共提携パイロット養成も出来る。外国国籍のビジネス機客を内陸にヘリコプタ-で輸送するシ-ムレスサ-ビスも提供可能。東京では、六本木ヒルズ―成田間のヘリコプタ-サ-ビスを森ビルと運航会社が提供している。同社は、ヒマラヤ山頂へのヘリコプタ-による着陸や東日本大震災で同社機12機を提供被災地への応援を支援した他、被災地を見舞われる天皇陛下のヘリコプタ-の「お召し機」も納入、日本での存在感を高めている。ヘリコプタ-も一億円前後の攻防戦が展開され様として居る現在、中国ハルピンでEC-120を2013年末より生産すると発表している。(欧米での生産ではコスト的に太刀打ち出来ず)

(2)  Bell : 同社の206シリ-ズは低格帯回転翼機の日本での主流の時期もあったがRobinson社に追い上げられ2007年にカナダでの生産を除き撤収。本年2月のHeli-Expo 2014で後継機Bell 205 Jet Ranger Xのモデル機を展示、2016年目標に生産・型式証明の取り付け・商業的受渡すると発表。日本にお目見得するのは2017年頃に成ろうが1億円台の競合への参画を明言した。日本での知名度、上位機種を含め広く使われて来たので日本での地位に揺るぎは無かろう。但し後継機の飛行実績や欧米での市場の受容動向に就いては今後の注意深いモニタ-が必要。

(3)  Ribonson : 業界の異端児としてヘリコプタ-の「LLC機メ-カ-」として注目され既に出荷10,000機を2年程前に達成83万㌦のタ-ビン機を3年前世に問い大反響を生んだ。日本でも2012年に処女機が輸入され、2013年6月型式証明を取得年内に3機が登録されたが、本年度はRobinson社の供給が許せば(人気沸騰で受注に生産が追い付かず)日本市場にも相当機数輸入され様。民間機に限れば、売上機数ではR-22,R-44を加算すれば既にAirbus Helicopterを凌駕している。下記は、タ-ビン機(R-22,R-44はレシプロ機)に限定した予測値なのでAirbusの方がリ-ドしている。Airbus AS350/EC-130の予測値は高いが、警察、消防等「公用機」にも広く利用されるのでビジネス機としての利用機数はこれより低くなる。デ-タ-の整合性を維持の為、10年間の生産予測値もTeal Groupの数値を援用する。

Teal Group資料

機 種

2014

2017

2020

2023

10年生産機数

Airbus Helicopter

EC-120

AS350/EC130

14機

215

12

220

10

210

0

218

94

2,163

Bell 505 Jet Ranger X

0

50

65

52

447

Robinson R-66

160

145

130

135

1,430

 

編 集 後 記

 

本サイトは航空業界とは関係の薄い筆者が潜在的一般利用者向けに素人分かりし易い記述に重点を置き、業界の有識者、プロでは無い故に、世界の権威あるデ-タ-を集め編集している。然し最も著名なデ-タ-ベ-ス間でも回転翼機で10,000機以上の収録・記載の格差が有る。日本人は几帳面な上、数字に対する信頼と拘りが強いが、業界で最も定評のあるデ-タ-ベ-スでもこの程度の粗さである事に留意する必要がある。先月開催されたシンガポ-ルエアショ-に合せて近隣アジア諸国のビジネス機の機数の推測が行われた。結果は、ビジネス機製造メ-カ-の地域への出荷機数よりの推計で900~1500機、運航業者等の現場の感触で750~1500機、著名な業界誌予測で1200~1500機でその多くはMid~Heavy Jet機と言われた。日本では民間にはMid~Heavy Jet機は1機も無く、Light~Super Light Jet機が24機とアジア市場域内でも誤差範囲内の機数しか存在しない。逆にアジアよりオセアニアを除外すれば回転翼機では域内第1位である。国情に合った機材の利用を見過して来た事がビジネス機論議が空回りさせて来た真因でもある。問題解析に「パレ-ト図‐ABC分析」が使われる事は広く知られている。「20%の要素が80%の結果を支配する」と言うものであるがForecast International 2013のデ-タ-ベ-スで検証すると上位10ヶ国の合計が26,210機。世界の総機数は32,133機で市場シェア-は81.6%。これに続くブラジル、メキシコ、スイス、インド、中国、ロシア等10カ国程度を追加すれば市場占有率は90%を越え様。回転翼機市場は完全に「パレ-ト原則」が支配している。

Forecast International 2013

順位

国名

機数

順位

国名

機数

順位

国名

機数

1

米 国

16,115

5

日 本

789

9

イタリア

687

2

カナダ

2,386

6

南 ア

785

10

ドイツ

679

3

豪 州

1,808

7

N Z

723

10ヶ国計

26,210

4

英 国

1,517

8

フランス

721

総機数

32,133

 

何れにせよ、日本人は細部に対する潔癖性が強過ぎて、「木を見て森を見ず」と言う全体像を見失う事がある。本サイトは飽く迄「天下の情勢」への理解を深めて戴き、「日本のビジネス機の在り方」を共に考えて戴くのが目的。

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