2016年06月11日(土)09時13分
(16-08) LCC (Low Cost Carrier-格安航空)に学ぶ
日本では比較的聞き慣れないLCCと言う言葉も現在はすっかり定着、日本に於ける需要も安定的に伸びている。国土交通省の調査でLCCが占める割合は国際線で2013年7%が2014年8%、国内線で2013年6%が2015年10%、2020年度目標値17%と順調な伸びを予測している。これ自体は望ましい進展ではあるが、6月7日成田で開催されたLCCサミットを機会に、日本の「世界での立ち位置」やLCC出現の経緯や意義に就き総括する。
LCCの創始企業Southwest Airlinesの創業の経緯
1LCCの創始企業Southwest Airlinesの創業は1967年3月、Texas州Dallasが本拠。
2.Texasの一銀行家が業務上Dallas, Houston. San Antonioに出張する機会多かった。
3. Dalas-Houston 392㎞, Dallas-San Antonio 272㎞, Houston-San Antonio 597㎞。
4.日本のスケ-ルに引き直せば羽田―大阪514㎞、大阪―高知300㎞丘珠―釧路282㎞。
5.Southwestの運航許可はBraniff, Trans-Texas, Continenntal既存3社の差止申請で頓挫。
7.州内航空路は飽和状態でこれ以上の新規参入は必要なしと地元の有力政治家を動かした。
8. Southwestは州地裁、高裁での熾烈な法廷闘争に敗訴したものの州最高裁では勝訴。
9.反対3社をこれを不服として連邦最高裁に上告したが連邦最高裁は上告を却下。
10.法廷闘争に当初集めた資本金の全てを費した資金難を乗り越え1971年6月運航を開始。
11.1973年黒字転換を果したのを機会にHouston-San Antonio 597㎞の運賃を$13に設定。
12. $13を\100/$で換算597㎞で除せば\2.18/㎞。日本の商用便運賃平均\19/㎞の僅か13%。
13.この驚異的な「価格破壊」にはその後も既存航空会社の妨害が続き州外飛行は禁止。
14.運航開始より7年後の1978年カ-タ-政権は航空自由化政策(Diregulation) を断行。
15.これによりSouthwestも州外飛行が可能と成りHouston-New Orleans便を運航させた。
日本LCC利用に就いての「世界での立ち位置」
1.過去40年間航空業界を根本より揺さぶり革新が行われた「歴史認識」が必要。
2.急成長を遂げ安定した収益基盤を構築した大手航空企業にLCC (格安航空) が挑戦。
3.米国は1978年より「空の自由化」を推進、「新規参入」による「競争原理」を導入。
4.Pan-Am,TWA等は姿を消し米国の大手航空企業は例外なく破産裁判所の下で再生。
5.最大手は3グル-プに統合され欧州も同様に大手3グル-プに集約・統合。
6.更に2000年代に米国・欧州の3大グル-プを核に世界的な3メガアライアンスが誕生。
7.この様な業界革命を齎したのは「新規参入LCC」の破竹の進撃と市場シェア-の拡大。
8.LCCの成功の鍵は言わずと知れた低格運賃の提供により一般の利用裾野を拡げた。
9.但し「低価格運賃」のみに焦点を合せると事の本質を見失う。
10.LCC成功の本質は「利用者本位」の立場に立ち「収益最優先」の大手企業に挑戦。
11.大手企業の経営者は「資本の論理」の収益極大化に注力、市場・利用者のニ-ズを看過。
12.日本では航空業は「規制産業」の保護の下世界の潮流に乗遅れJALも会社更生法申請。
13.「収益極大化」の実現の為Hab-and-Spokes戦略が業界のスタンダ-ト成った。
15.ハブ幹線空港以外の中小空港には乗り継ぎが必要と成り直行便は大幅に削減された。
16.リストラの要員削減で顧客サ-ビスは大幅低下、定時離発着悪化で乗継ぎミスも多発。
17.LCCはこの虚を突き、定時離発着、2点間直行を低価格で供与利用者のニ-ズに対応。
18.百貨店の「過剰包装」同様過剰サ-ビス廃止でコスト合理化、利用希望者は受益者負担。
19.LCC市場占有率は東南ア50%、欧州40%、北・中南米30%、日本8%、2020年目標17%。
20.日本は低コストの競合交通手段が高度に発達、LCCは商用便提供企業の傘下にある。
21.結果として、世界で最もLCCの導入が遅れ他地域との落差も際立って大きい。
22. 日本は2012年よりLCCが就航,Southwestの就航開始1971年より41年が経過。
23. 一般が利用可能な低運賃Air Taxiは日本に殆ど無いが欧米では半世紀の利用歴史あり
LCCのビジネスモデルの利点
1.Southwestの創業の理念は「顧客本位」「社員本位」でデマンドサイドの顧客最優先。
2.リ-マンショックの嵐の中社員のリストラは行わずその忠誠心を顧客対応に振り向けた。
3.「顧客本位」の実践は定時離発着、2点間直行、短距離輸送、過剰フリルの削減。
4.カウンタ-のチェックイン廃止、切符は社内で販売、満席に成れば直ちに出発。
5.これが実行可能な都市周辺二次空港を利用。空港使用料は格安、乗客の駐車場も豊富。
6.折り返し時間は10分、途中の空港の寄港も利用客の乗降時間は徹底的に短縮。
7.単距離・短時間飛行で飲食は一切廃止、無論希望があれば有料で希望者受益者負担。
8.単距離飛行の特性を活かし持込み荷物を制限、大型荷物も積載するが超過重量受益者負担。
9.機内サ-ビスは必要最低限に抑え人件費を合理化するも従業員に顧客奉仕の信条は徹底。
10.利用すれば即実体験出来るが無駄は全て省かれて居るが必要サ-ビス、安全性は確保。
11.逆に、社内飲食、ゲ-ム機器レンタル、超過荷物の支払額が正規運賃を上廻る事もある。
12.”As you like” (お客様のお望み次第) の顧客本位に徹底している。
13.元々時間が貴重な企業マンが標的、添乗員はタイツ姿、酒類の景品等の小道具も用意。
14.米国故のユ-モアや遊び心も交え、堅苦しいビジネスマンの心を擽る配慮も。
15.無論ビジネスマンの出張旅費削減、定時離発着による約束時間のキ-プで顧客を掴んだ。
16.日本は格安航空は学生や長距離バスの乗替え需要と考え勝ちだが生い立ちの実態は異る。
17.LCCとは市場・利用者の大手商用航空会社 (Legacy Carrier) への抗議と反乱の産物。
18.企画中のAir Taxiも「時間は最大の経営資源」と認識する企業人や観光客が最大の標的。
19.ヘリコプタ-であれば最寄り鉄道駅、空港よりの輸送も不要な究極の「2点間輸送」。
20短距離 (25~100㎞)、短時間 (8~30分) で利便性供与、所要時間節減にも大きく寄与。
21.地上タクシ-代の1.5~2倍内にAir Taxi運賃を抑えれば企業の社内精算の許容範囲内。
日本での参考指針と成り得る点
1.最重要点はLCCの創業の理念は「顧客本位」「社員本位」のデマンドサイド重視。
2.市場・顧客あっての航空業と言う「当り前」の常識と事業目的への「原点回帰」
3.市場・顧客は巨大企業の「驕り」と「傲慢さ」に抗議LCCはその顧客反乱の産物。
4.自動車市場は”Big 3”への反乱で低コスト、高性能の日本車輸入で「競争原理」を導入。
5.コンピュタ-のIBMの独占体制にマイクロソフト等が分散方式で挑戦一般に普及した。
6.JR,NTT,郵政民営化、ユニクロ・良品無印の消費財迄「顧客・消費者本位」が今日の潮流。
7.20年の歴史が日本で誰も商用機の50~100倍のビジネスジェット機を利用しない事を立証。
8.低価格ヘリを利用したAir Taxiの「価格破壊」的運賃でも商用便の30~35倍とは成る。
9.地方工場や顧客の訪問、山間・離島等の観光等には時間が懸ると諦めている顧客が多い。
10.「経営資源」は「ヒト・モノ・カネ」に「時間軸」と言う重要な次元が存在する。
11.欧米では”Time is More Than Money” と人件費の合理化は骨の髄迄浸透している。
12.又サプライサイドの巨大企業の「驕り」やエゴに対抗するデマンドサイドの動きも早い。
13.この種新陳代謝が経済・社会の絶えざる革新と成長に貢献して居る事は見逃し得ない。
14.LCCの台頭で世界の航空産業が如何に活性化・成長したか誰でも知る通り。
15.欧米では無論「格安運賃」提供の貢献もあるがビジネスマンへの利便供与が原点。
16.Southwestは州内のDallas,Houston,San Antonioのビジネス拠点を結ぶ路線を提供。
17.ビジネスマンのニ-ズは時間節減、それに必要な定時離発着、2点間直行便と見抜いた。
18.交通網が高度に発達している日本でも幹線より外れた地域の移動には時間が懸る。
19.幸い、これは短距離、短時間利用のAir Taxiで充分補完・充足が可能。
20.デマンドサイドの地方自治体、市場関係者、企業利用者のニ-ズに応える対応が不可欠。
21.過去20年官民挙げての努力でビジネス機利用の普及しないのは市場顧客の参画不在故。
22.米国でも「顧客本位」の信条に欠けた多くのLCCが市場に参入、消えて行った。
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