2012年12月08日(土)12時25分
はじめに 01
日本でのビジネス機の利用を一般ビジネスマンにも、有益なビジネスツ-ルとして普及させる事を目的として1996年5月にJBAA (日本ビジネス航空協会)が設立され16年間の組織化された活動が進められた。この間、協会のメンバ-の方、或いは政府・関係業界の献身的なご努力でビジネス機を利用するのに絶対不可欠なインフラの整備も大きな進展を見せた。特に最近の首都圏空港の容量増強とそれに伴う首都圏空港のビジネス機への開放により、JBAA設立の大きな目的でもあった、首都圏空港への外国機の受入れも大きく前進し,未だ改善の余地は有るにしても、おおむね所期の第一段階の目標は達成された。
然し、世界は大きく変動し、過去十数年間で日本を取り巻く環境は大きく変化した。バブル崩壊後の「失われた20年」と言う日本の経済の停滞とその間の新興国の目覚しい経済発展、特に発展が著しいアジアでは、日本の相対的な地位低下は否めない。中国がGDPで日本を追い抜き日本は経済的に世界第3位に後退したのに続き、本年か来年インドが日本を抜き日本は4位に後退する事は確実視されている。経済力の相対的地位低下、政治の混迷は、尖閣諸島、竹島、北方領土でも見られる通り、周辺各国の領土問題の主張を助長する結果に迄発展して居る。ビジネス機業界では、経済大国としての日本のビジネス機利用が余りにも遅れて居る事が大きな課題と指摘されて来たが、今では、中国、インドの目覚しい発展と、従来よりもビジネス機の活用が盛んな、オセアニアに加え、日本同様の島嶼国である、インドネシア、フィリッピンもビジネス機の利用で日本と同列に並んで来た。日本でビジネス機の利用が定着しない要因は様々指摘されて来たが、此処で一旦問題点を白紙に戻し、「越し方、行く末」を関係者の方々にお考え戴く事を目的に筆を取った。
始めにお断りすべきは、筆者は航空機業界の関係者でもなく、航空機に関連した業務で生業を立てた者でもない。寧ろ素人と言うべきだが、仕事の関係でビジネス機を利用して来た利用者の観点から意見を述べさせて戴く。「傍目八目」と言われる様に、業界より距離を置いた方が問題が見える事もある。更に、商社マンとして海外で活動する事が多く、日本人はビジネス機を利用しないと言われ乍ら、海外では日本人がビジネス機を利用する実態も見聞して来た。又、ワシントンで仕事をした折には、日米航空協定の改定、それ以上に日本の空港を諸外国のビジネス機に開放する手助けを頼まれ、1999年以来NBAA (米国ビジネス航空協会), EBAA (欧州ビジネス航空協会)、IBAC (国際ビジネス航空評議会-現在日本を含め15カ国がメンバ-)との橋渡しや種々の交流で「門前の小僧」に成った。従って、外から見た日本と言う違った視点からも何か示唆出来るのではないか。航空機の専門家でない特色を生かし、難しい技術論は避け、素人にも分かり易い常識に沿った平板な記述とした。専門的な立場からは「素人臭い」とのご批判もあろうが、ご容赦戴きたい。
本稿の目的は、広くビジネス機に関心を持たれている方に、如何にすれば日本でもビジネス機が一般のビジネスマンでも利用戴けるのか、その為にはどの様な選択肢が有り、その実現にはどうすれば良いのかをお考え戴く材料として本稿を提供する。読者のブレ-ンスト-ミングを目的にして意識的に巷間流布されている事柄とは異なる記述を思考を刺激する為、やや誇張、挑戦的に書いたが、これに触発され、賛否・是非或いは新たなご意見を寄せて戴く事を期待して居る。「百家争鳴,百花斉放」自由闊達、創造的なコメントやアイディアをネット上で披露し合う事で目的とするビジネス機の日本での普及の夢を実現する事を期待する。長いのでシリ-ズとして何回かに分けてお送りする。
(1)「空の自由化」と航空業界の再編
1978年に端を発した航空業界の自由化で往年の覇者パンアメリカンやTWAが没落し、90年代にはAmericanを除く全ての米国大手航空会社 (Legacy Carrierと呼ばれる)がChapter 11(日本の会社再生法に相当)と言う「駆け込み寺」に避難、さらに最近では、最後のAmericanでさえも、破産法のChapter 11の適用を申請、日本のJALもまさかの破綻。劇的な転換期にワシントンで歴史のうつろいを目の当りにした。専門家の皆様は熟知の事柄故、駆け足で走り抜け乍ら、ビジネス機との関わりに留意して簡単に触れる。
(2)ビジネス機のコンセプト
ビジネス機は慣習的な呼称で法律的に厳密な定義が無い為、概念上の混乱が生ずる。ビジネス機は「金持ちの道楽」か一般ビジネスマンでも利用する「有益なビジネツ-ルか」と言う「神学論」にも挑戦した。結論は両者共正しく、多くの利用者は便宜的に使い分け、中間に広範なグレ-ゾ-ンが介在する。一番分かり易い説明は、自動車でも1台5千万円するフェラ-リも存在するが、庶民でも手の届く軽自動車も原付き二輪車も存在する。その間に幅広い中間車種も存在する。超富裕層は2.5億㌦するAirbus A-380をビジネス機として利用するし、底辺には、その1千分の1の価格の回転翼機Robinson社のR-22も存在する。日本ではこの様な問題が掘下げられない儘、議論が空回りして居る事例に遭遇する。又、「有益なビジネスツ-ル」なら如何なる利点があるのか。米国の様な突っ込んだ費用対効果の評価も行われない儘概念論のみが先走りして居る。最終的には、利用者が自ら判断を下すべき性格の問題故、判断材料と成る客観的事実 (Hard Facts) を出来るだけ多く提供すべく心掛けた。
(3)ビジネス機利用の現状
(1)~(2)項が一般論・概念論とすれば、本稿以降は実際の統計数値や利用実態の紹介等事実(hard facts)に基いた現実論に移行する。 観念論・当為論・抽象論の弊を避けるには「事実を持って語らしめる」事が鉄則。欧米では健全な競争助成の為、情報の公開、共有が大原則。日本では「企業秘密」扱いされ勝ちな情報も堂々と公開され相対的に閉鎖的な日本の慣習からは「こんな事迄公開されて居るのか」と戸惑うかも知れない。筆者もコンサルタントの端くれ故、「公知の情報」以外は情報として流さないと言うプロフェッショナルとしての掟を守る義務を有し、本稿で使われる情報は全て「公知の情報」を流用して居る。世界に於けるビジネス機の利用状況、その中でのアジア(日本的なマラッカ海峡以東では無く、ウラル山脈、トルコ イスタンブ-ル以東のアジア大陸と日本では西アジアと呼ぶインド等も含む)、アジアの中の日本の位置付けも試みた。
(5)ビジネス機の利用コスト
サ-ビス提供者としては余り触れ度くない、利用者としては一番気に成る点だが、インタ-ネットで航空運賃を検索すれば、JAL/ANAと言った日本の代表的な航空会社でもIATAの規定運賃、通常の航空運賃・各種割引、格安運賃等直ちに表示される。格安運賃の比較サイトもある。残念乍ら日本では、ビジネス機の利用が一般的ではないのか、ビジネス機に就いてはこの様なサイトは殆ど見当たらない。米国では、ビジネス機の価格サイトは数え切れない程あり、利用日時や出発地・目的地、利用人数等所定のインプットを終えれば、即提供される機材、所要飛行時間、運賃が表示されその場で予約可能。米国はおろか全世界の主要ビジネス機運航会社(含む日本)の所有機、時間当たりのチャ-タ-料を記載した年鑑も市販されて居るが、その様な情報に頼らなくとも、インタ-ネットで自由に検索可能。勿論一般的な参考値と利用の実態に合せた料金が異なるのは当然。海外では、どの様な状況下で利用者がビジネス機の利用を選択するのか考察の材料を提供する事が目的。日本で一番知られて居ないのは、チャ-タ-料もピン錐で然もビジネス機のチャ-タ-料は当然競合交通機関より割高なので、利用時間が短い程絶対的なコストの負担が軽減される。米国で中間管理層や専門職掌がビジネス機を利用するのは平均で1.8時間、1回の往復時間故、片道1時間足らずに過ぎない。利用する機材も中古のタ-ボ-プロップ等。この辺の現実の実態や実例を交えご紹介する。日本とて、タクシ
を10~20分利用しても3~5時間と言う長時間は利用しない。日本の企業幹部が欧米往復に25時間懸る遠距離飛行にビジネス機を使わない事は、考えて見れば「当たり前」の事。欧米とて日本にビジネス機で飛来するのは一握りの特権階層。階級・所得隔差が顕著なアジア近隣諸国では利用者は一部特権階層に限定される。
(6)ビジネス機の利用実態
米国で何故一般ビジネスマン (と言っても上級管理層、スタッフ、専門職、プロフェッショナル) がビジネス機を使えるかを出来るだけ実例も挙げて記述する。何も難しい理屈は無い。安い機材 (タクシ-は普通車或いは小型車が使われアルファロメオやロ-ルスロイスは使われない) を短時間 (タクシ-で東京―青森を走る人は居ない。平均的には20㎞以内の短距離) 然も競合交通機関の運賃との兼ね合いで使われる。欧米とて、日本-欧米間で使われる超デラックスのHeavy Jet を往復25時間も利用出来るのは一握りの特権階層。片道15~30分位のエアタクシ‐として安価な小型機を使うのが一般ビジネスマンの利用実態。
(7) 日本人のビジネス機利用の可能性
(3)~(6)項を参照すれば日本でビジネス機が利用されない事由が分かるが、物事は壁にブチ当って工夫する処より始まる。「必要は発明の母」。障壁があるから乗り越える方策が考え出される。最終的にビジネス機を利用するか否かは利用者の判断。今迄は利用者不在。利用者の参画が最初の出発点。本稿の最大の目的は利用者の参画で日本でのビジネス機の将来の在り方を共に考えて戴く為の試み。最後に上記(1)~(6)項を下敷きに日本のビジネス機の将来の利用イメ-ジを皆様に考えて戴く為の示唆 (素人考えと笑われるかもしれないが) も試みる。
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