2012年12月23日(日)11時43分
ビジネス機のコンセプト
要 約 1.ビジネス機は法律上の厳格な定義は無く他の航空機との境界線にグレ-ゾ-ンが介在する為統計上の齟齬や不都合さも生ずるが、日本でも概ね踏襲されるNBAAの「旅客機及び軍用機を除く全ての航空機の中で、企業・団体又は個人がビジネス遂行の為に使用する航空システム及び航空」と言う定義を流用する。 2.ビジネス機にはプロペラ機、回転翼機等も包含されるが、この種航空機の利用実態を把握する事が困難な為、双発タ-ボプロップとジェット機に絞ってビジネス機と呼称するのが慣し。日本の航空機総数は概略2,000機、その内軍用・公共の機材と、更に定期商用機、コミュ-タ-機、を除いても約1,000機が残る。他方、双発タ-ボプロップとジェット機を含めた民間のビジネス機は約40機なので約960機がグレ-ゾ-ンとして検討の対象から除外されて居る。これがどの程度ビジネス的に利用されて居るか分からないが、相当な機数が日本に有る 3.本稿ではビジネス機は超富裕層、セレブ、特権階層がステ-タスシンボルとして誇示するものか、一般ビジネスマンでも利用するのかを論ずるが、その何れも正解との記述に成って居る。 4.ロシアでは国富の2/3を7人の人間が握って居る。中国では純資産が15億㌦(1200億円)以上を有する富豪が3~5,000人居ると宣伝して居る。米国では人口の10%の富有層が富の60%を抑えて居る。従って、ビジネス機の利用料が高いと言っても物ともしない。 5.その一方、米国ではビジネス機の利用者の2/3は上級管理層、スタッフ、専門職掌、プロフェッショナル (流石に兵隊は余り使えない)でこれを一般ビジネスマンと呼んでいる。何故彼らが使えるかは本シリ-ズで詳述するが 特別な秘密等は無い。ビジネス機と言ってもトップブランドの1千分の1のコストの機材もあり、分相応の機材を利用し、短時間の利用(タクシ-でも10分乗るのと1時間乗るのでは料金に大差が生じる)でコストを懸けない。日本で言えば新幹線で(定期商用便)目的地に近い駅迄行き、駅から路線バスかタクシ-(ビジネス機)を利用するかの選択に過ぎない。米国の利用者の33%の利用時間が1.1~1.5時間/回 (但し往復時間)、24%が1.6~2.0時間/回、平均1.8時間。一般ビジネスマンが大西洋/太平洋間の長距離飛行にビジネス機を利用する事等あり得ない。2010年度の米国より日本への商用客は約40万人、ビジネス機の飛来は357回、特権階層の一部しかビジネス機は利用しない。 |
ビジネス機の定義
ビジネス機はジェネアビ (General Aviation) の中の一分類だがジェネアビはGAMA (General Aviation Manufacturers Association) で下記の様に定義付けられて居る。
“General aviation (GA) is defined as all aviation other than military and commercial airlines” 即ち、軍事用及び商用便以外に使われる全ての航空機。
ビジネス機の定義は種々あるが、本稿では米国のNBAAが流用して居る
「旅客機及び軍用機を除く全ての航空機の中で、企業・団体又は個人がビジネス遂行の為に使用する航空システム及び航空」と言う定義を利用するが、JBAAも概ねこれを踏襲して居る。但し、法制上の厳密な定義が為されて居ない為、グレ-ゾ-ンが残りこれが業界や各種統計に齟齬を生ずる不都合もあるが、本稿は法制定の提言でも、学術論文的な厳密性を追求するものではなく、大まかな全体像を思考の材料として提供する事が目的なので敢て細目には拘らない。国際的に利用される各種定義で一致して居る点は;
3. 不定期航空便(チャ-タ-便が主体)及びコミュ-タ-機を除く。
4.上記を除いたジェネラルアビエ-ション(General Aviation)の内レジャ-用を除く
5.上記1~4項目を除いたビジネス遂行を目的とした航空機
と言う事だが、それでは企業・個人が所有するビジネス機をレジャ-旅行に使用した場合はどうするのかと言った線引きが出来ない為、この辺がファジ-の儘残されるのは已むを得ない。海外のビジネス機の統計でも数値は一致しないが、全体像を左右する規模では無いので、「誤差範囲」と割り切って戴く必要がある。
更に、米国では、小型機やヘリコプタ-も多数使われるが、これらの航空機がビジネス目的として使われるのか、自動車で言えばレジャ-や「生活の足
として利用されるのか等と区分するのは不可能なので、これらの小型機やヘリコプタ-は総数が統計として纏められても、ビジネス機の年鑑と言った類の刊行物には収録されない。この為、日本ではビジネス用に利用される双発タ-ボジェット、ジェット機が先進国としては異常に少ない事が問題にされ勝ちだが、日本でも小型機やヘリコプタ-が多数利用されて居り(国土面積が狭隘の為)この辺にも本稿は留意し光を当てる事にした。日本航空機全集は小型機、回転翼機は勿論、滑空機 (グライダ
) 迄全て収録されている。
ビジネス機の利用は金持ちの道楽かビジネスツ-ルか?
最も多く聞かれる議論だが、設問にやや問題が有る。取り方によっては、その何れかと言う二者択一の設問共取れるが、正解はその何れでもあり、その中間に幅広いグレ-ゾ-ンも存在する。
一番分かり易い説明は、自動車でロ-ルスロイスやキャデイラックのリモジンや一台5千万円するフェラ-リを一般サラリ-マンが利用するか、或いは一般庶民は普通・小型・軽自動車を利用するかと問えば自ずから答えは出る。但し、一般庶民でも、趣味やステ-タスシンボルとして高級車を購入する事もある。自動車の利用には、「ステ-タスシンボル」と「生活の足」の実用性の2面性を有し、その両者を適当に使い分けている人も多い。ビジネス機の価格もAirbus A-380と言う新鋭の商用便で使われる超大型機をビジネ機として発注する(ドバイの首長)事例もあり、小型ヘリコプタ-を利用する人も居る(原付き2輪車)。リストプライスも、A-380は2.5憶ドル近く、米国Robinson社の小型ヘリコプタ-R-22で有れば新品でも20万ドル強で、A-380の千分の一以下の価格。自動車同様中古機市場も発達して居り、更に安い出物も買える。自動車同様ロ-ンが使え(機材の価格が高いのでリ-ス業務が発達している)更に、カ-シェアリング同様機材の共同所有・利用(ビジネス機ではFractional Ownership,)やチャ-タリング(Block Chartering, Time Sharing, On-Demand Chartering)と利用者の便宜を考えた高度のシステムがビジネス機利用のインフラとして整備されているが、後述する。日本でビジネス機が「高嶺の花」と目されるのは、日本が欧米の中心地より遠隔の極東に位置し、これを繋ぐビジネス機はHeavy Jet と言う高額の大型機を利用する必要があるから。因みに、一般的に使われるHeavy JetはGulfstream社のG-550 (56百万㌦)、G-650 (64.5百万㌦)、Bombardier社の新鋭機Global Express G-6000(58.5百万㌦)等があり, 天皇や首相が海外訪問に利用する政府専用機のBoeing 747-400 2機は1987年、米国との貿易黒字の削減策として360億円の予算で購入された。
ビジネス機は超富裕層、セレブが多く利用するか?
答えは勿論 “YES”。 話題として、オイルマネ-富豪のドバイの首長がエコノミ-で有れば800席以上も設けられるAirbus A-380の超大型機を「空飛ぶエグゼティブオフィス」としてプライベ-トビジネス機として発注した。(巷の噂では価格は2億6,400万ドル)
日本と関係が深いインドネシアのスマトラ島の北部に位置するブルネイ王国は豊富な天然ガス収入で1960年代より高額のビジネスジェット機のオ-ナ-としてアジアで君臨して来たが、最近のビジネス機年鑑で見ると、Boeing 747-400, 767, Airbus A-340等日本では定期商用便で使われる大型機をプライベ-トジェット機として使用している。利用歴史の長さ、高額な大型機のラインアップ等貧乏性の日本人の発想では考えられない。ブルネイは、領土は三重県程度の広さで人口は40万人。日本が主たるLNGの輸入国で非常に親日的。
富豪層を顧客とするForbus誌は時折富豪のビジネス機を誌面で紹介するが、歌手のダイナ・ショ-は米国の東西岸を公演で往復するので、自家用機の中にボ-リングアレ-を設け、運動と美容を兼ね飛行中にボ-リングに興ずる由。ホテル・カジノ王と言われるトランプ氏は自家用機内に豪華なベッドル-ムとシャワ-を備え、飛ぶ時には美女を乗せ飛行中にセックスを愉しむので有名。
日本人はこれに較べるとスケ-ルは小さいが、ライブドアの堀江元社長(通称ホリエモン)、グッドウイルの折口元会長、マンションの偽装問題で物議を醸した小嶋元ヒュ
ザ
社長等は何れも不祥事の責を取らされ、プライベ-トジェット機を手放す事を余儀なくされた。500億円の遺産を残して亡くなった建築家の黒川紀章氏もビジネス機を駆使して世界を股に懸け活躍した。利用者としては、ゴルファ
の丸山茂樹、野球の松井秀樹、イチロ-選手等が知られて居る。
中国は2011年のNBAA Conventionで中国に於けるプライ-ベ-トジェット機の将来予測の中で中国には純資産が1500億㌦(¥80/$換算で12兆円)以上を有する富豪が3~5,000人は居り、最近は50機/年の割合で増加して居ると、臆面も無くプライベ-トジェット機の照準を超富裕層に絞り込んで居る。ロシアでもプ-チン大統領が、ロシアの国富の2/3を7人の富豪が握って居ると嘆いた様に、共産主義社会を目指した国の「富と権力」の集中は日本人の想像を絶する規模。米国でも貧富の格差は大きい。米国の上位10%の富裕層が富の60%を抑えて居る。
以上の様に、ビジネス機を超富豪層やセレブが利用する事は珍しい事ではなく、ビジネス機は「金持ちの道楽」との指摘も一面の真理として否定出来ない.一般的には、発展途上国等では貧富の差が激しく、富裕層や特権階層がビジネスの為にも「国威発揚」の為にもビジネス機を飛ばしている。
ビジネス機はビジネツ-ルとして一般ビジネスマンも利用するか?
こちらの回答も勿論 “YES”。2000年代後半、Big 3 の救済が米国議会で検討された際、Big 3のトップが揃ってビジネス機でワシントンに乗り込んで大きな批判を呼んだ。NBAAは直ちに、世論調査機関として著名なHarris社に利用者の実態調査を依頼をし、2009年秋のNBAA Conventionでその結果を発表し、ビジネス機を利用するのは大企業の幹部の特権と奢りと言う批判に反論した。日本として見倣い且つビジネス機の利用の実態から学ぶべき事は多々ある。
近年、中国、韓国、インドを始めとする近隣諸国のビジネス機の飛来が増え、訪日外国機の半数を超えているが、これら諸国では所得格差が日本では想像出来ない程大きく、ビジネス機の利用者は人口比、或いは海外渡航者比でも一握りの超富裕者或いは特権階層に限られて居る事に留意すべきである。相対的に所得格差が少なく、決められた規定を几帳面に守り、合理的判断に基きビジネス機に代えて定期商用便を利用する日本のビジネスマンを非難したり、いわれのないコンプレックスに捉われる必要はない。日本でも所得格差が最近社会問題化しているが、冷戦末期のソ連のゴルバチョフ大統領が「日本は資本主義・自由経済の下で共産主義社会の理想に最も近付いた国」と所得格差の少なさに讃嘆の辞を洩らした。ビジネス機が多用されるアングロサクソン系諸国では、耳が慣れれば、喋る英語を10秒間聞けば、その人の出自、生立ち、教育が分かる。(映画マイフェアレディ-で言語学者が最下層の花売り娘に上流階級の言葉を徹底的に教え、社交場でル-マニアの王女と囁かれ快哉を叫ぶシ-ンは覚えて居られ様。主演のオ-ドリ-・ヘップバ-ンのイメ-ジは残っても、英国の文豪バ-ナ-ド・ショ-が書いたピグマリオンを映画化したもので、英国の階級社会を痛烈に皮肉った文学作品と言う事を知らない日本人も多かろう)。フランスで社会主義勢力が強いのも、社会が「聖なる200家族」に支配されて居るから。インドもカ-スト制度がある故にアジアでビジネス機を最も多く利用されている。相対的に格差の少ない日本で遠距離飛行に高額の運賃を払わない日本企業のビジネスマンの合理的選択を恥じる事は全くない。今日でも日本は世界との比較では相対的に最も所得・身分格差の少ない国である。この辺は、ビジネス機の利用と定期商用便のコスト比較で別途詳述する。
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