2013年01月14日(月)02時04分

(9) ビジネス機の利用コストのイメージと実態の乖離

要  約

 

1.過去16年日本では、ビジネス機を受け入れる為のインフラはそれなりに整備が進んだが、肝心のビジネス機の利用は殆ど見るべき進展が無い。

2.これは一般ビジネスマンのビジネス機利用の実態が正確に認識されて居ない事に基本的な要因が有る。

3.一般的なビジネスイメ-ジはビジネス機は「高嶺の花」で一般ビジネスマンの手の届かぬもの、恰好の好い機材、豪華な内装、金髪の美女がシャンペンとキャビアを供する別世界と思われ勝ち。こう言うビジネス機も無論存在するが、米国でも一般ビジネスマンの利用対象には成らない。分かり易く言えば、一般ビジネスマンは出張でタクシ-を利用する場合、バ-付きの豪華なストレッチリモジンでは無く、汚い(日本の標準から見れば)中古車のタクシ-を利用する。

4.流石に、ビジネス機は小奇麗で機能的ではあるが、特に高級感は無い。1回の利用時間もタクシ-代りで20~40分位なので頼めば空港の売店からサンドイッチや飲物位は買って呉れるが、タクシ-同様特別な機内サ-ビスは無い。

5.利用料も全てのコストを含め5~7万円/時位。片道30分と見れば往復で5~7万円とビジネスマンでも社費として落とせる範囲。田舎で有れば、更に割安となる。。

6.日本でも、まず利用者が払えるコストから必要な機材やサ-ビス提供方式を割り出すと言う、ボトムアップの方式が不在の儘、海外のエアショ-に並ぶ高額な最新鋭機が導入されたが、これでは一般ビジネスマンが利用出来ないとしても不思議は無い。インタ-ネット上でVIP送迎用と看板を塗り替えたのが何よりの証左。

6.Legacy   CarrierもLCCの追い上げに直面し、ビジネス、ファ-ストと言った高単価顧客の取り込みに注力し、ビジネス機の利用コストより遥かに安い運賃で、ビジネス機を上回る高度のサ-ビスを提供し始めた。

7.米国の一般ビジネスマンがビジネス機を利用するのはそれ以外に交通アクセスの選択肢が無いという事もあるが、富裕層にサ-ビスを提供する旧来のLegacy Business Carrierに対して、一般ビジネス利用者を対象にしたBusiness LCCの出現で、一般ビジネスマンでもビジネス機が利用可能と成った事実を理解しなければ成らない。参考迄に、LCCとBusiness LCCの類似点にも触れた。

 

 

日本ではビジネス機の利用は限定的で利用コストの開示も充分に行われない為今日でもその普及は16年前と比してさして変わりはない。寧ろ、名古屋空港のビジネス機基地としての整備、関西空港の容量増強、北九州空港、神戸、静岡、茨木空港の開港、首都圏空港の容量増強等インフラ面の強化は目覚ましいものが見られたが、肝心のビジネス機の利用面ではさしたる変化は見られない。

(1)  日本の規制コストが高く日本でビジネス機を保管・整備する事も、駐機場所も満足に無い事、首都圏空港の開放が行われても使い勝手は必ずしも良くない事、海外で保管し必要に応じ呼び寄せるのではコストが懸り過ぎる為、トヨタ、ソニ-等の大手オ-ナ-も拠点を海外に移し、現在JA機で欧米の主要都市は勿論、東南アジア、中国全域、ハワイ辺り迄飛べる機材すら1機もない。

(2)  僅かに、樺太、ロシア領沿海州、韓国、中国東北部の南部地区等限られた地域に飛行出来る機材は有るものの、中国、ロシア、インドの台頭、特にビジネス機の成長が顕著なこれら諸国の飛来機に取って代わられて居る。2010年には、ビジネス機とは無縁と思われた対馬空港に韓国機が244機飛来し、日本でも上位のビジネス機利用空港と成った。中国、韓国を始めとするアジアのビジネス機が既に欧米を抜いて日本への外国機の飛来数の半分を越えている。下記の中国は(香港、マカオ、台湾を含む) 既に飛来機数515機と米国の356機を抜き、韓国の323機も米国に迫り、欧州の89機を遥かに凌いで居る。(2010年実績)

中国 : 飛来機数515 (成田211、新千歳75、羽田71、関西70、中部25、名古屋18)

韓国 : 飛来機数 323 (対馬244、成田43、羽田13、関西6、名古屋5)

これが意味する事は、日本のビジネス機市場は既に新興アジア勢力に席巻されつつある事を如実に示して居る。ビジネス機の需要の急増が見込まれる中国では自国開発のビジネス機製造の計画をブチ上げて居り、米国セスナ社はタ-ボプロップ機の合弁による現地生産、ヘリコプタ-製造メ-カ-の雄Eurocopter社は今後需要が急増すると見られる低格帯価ヘリコプタ-EC 120を中国で委託生産し、低コストの利を生かして日本市場でも対抗馬の米国Robinson社と拮抗すべく手を打ち始めた。Eurocopter社は、日本では既に神戸空港に本拠を移し、神戸空港に飛来するビジネス機の日本国内でのシ-ムレスサ-ビスの提供を念頭に置き始めて居る。

(3)  LCCの市場参入は利用層がビジネス機の対極にあるとその影響は看過されて居るが、LCCも高単価のビジネス客の取り込みに目を付けビジネスクラスを設ける検討を始めた。一方、Legacy Carrierと呼ばれる伝統的な大手定期商用便航空会社もLCC事業に参入する一方、従来の事業を高単価、高付加価値、高品質のビジネスモデルへと移行して居り、ビジネスクラス、ファ-ストクラス顧客の取り込みに注力を始めた。激震は新興Legacy Carrierのエミレ-ツ航空がAirbus A-380をプライベ-トビジネスジェットとして購入したのに続き、全席ビジネスクラスとファ-ストの商用機として発注した。同社は昨年7月に成田にA-380を投入、ファ-ストは平らなベッドの他、戸を閉めれば個室に成る仕様。シャワ-付き。ラウンジではアルコ-ル類は勿論High Tea (日本のお八つ)、スナック類も好きな時に食べ放題。これで、ドバイ往復100万円 (ビジネス機利用で有れば約3,000万円)。日本人の頭には浮かばないかも知れないが、ビジネスマンにとって最大の魅力は広々としたラウンジで乗客のVIPとの社交の場が提供された事。間違いなく、寛いだ商談 (ワシントンでは昼の会食はPower Lunchと呼ばれる強力なビジネスツ-ル) やロビ-活動を展開出来る絶好の場。ビジネス・ファ-スト専用のA-380はエコノミ-だけで800席強の機材を260席に限定する事で従来では考えられないスペ-スが提供される。

因みに、成田に就航させたA-380はファ-スト14席、ビジネス76席、エコノミ-439席で計529席。将来、他のLegacy Carrierが対抗上成田-欧米主要都市にファ-スト150~200万円の運賃で類似の高品質サ-ビスを提供したら、従来でも35~40百万円はするビジネス機を利用しない日本のビジネス幹部が、Legacy Carrierに殺到する事は理の当然。Legacy Carrierも新しいビジネスモデルの構築に傾注して居り、LCCの市場参入は, Legacy Carrier 対 LCCから、Legacy Carrier 対 ビジネス機運航業者との玉突きに発展する様相さえ呈して来た。

(4)  国内では、外国機との競合は当面ないが, 既にEU 域内、豪州・ニュ-ジランドの2国間航空協定に見られるカボタ-ジユ規制の全面廃止と言う歴史の潮流も念頭に置く必要がある。中国、韓国、極東ロシアのビジネス機が自由に日本の空をカボタ-ジユ規制なしで飛べる時代の到来もあり得る時代に、欧米に比しても競争力が劣る日本のビジネス機の生き残りを賭けた方策の確立が必要。

(5)  そもそも欧米の航空ショ-に展示される様なビジネス機が一般に利用されて居ると言ってもビジネス機の極く一部にしか過ぎない。2010年の全世界のビジネスジェット機数19,211機+タ-ボプロップ11,537機=30,748機に対してアジア― 欧米間を飛ぶ Gulfstream G-550, Bombardier Global XRS, 日本国内で飛んで居る Light Jet Citation Ultra, Citation CJ2これに、2000年代半ばより途上したVLJ (マイクロジェット)の機数をjpiz-Jet  2012年版で調べると全体に占める割合は微々たるもの。更に膨大な数のプロペラ機、ヘリコプタ-がビジネス機として利用される事も考えれば航空機ショ-に展示されるビジネス機が恰好良く世界の空を飛び回って居るとのイメ-ジとはかなりの隔たりがある。然も数年前に登場したVLJ (Very Light Jet)が既成のビジネス機の人気機種を抜き始めて居る。米国でもしばしば大手ビジネス機メ-カ-のカタログ掲載の写真の豪華な内装、金髪の美女がシャンペンとキャビアをサ-ブして居るのは誇大宣伝との批判もあるが、その当否は別として、一般ビジネスマンが利用するのは中古のタ-ボプロップで小綺麗で機能的だが特に高級感は無く、頼めば朝食にド-ナッツ・コ-ヒ-、昼飯で有ればハンバ-クかサンドウィッチにソ-ダ-を空港の売店から買って来る程度である。思い出して戴き度いのは平均片道1時間以内。20~30分のフライトが多いので、ビジネス出張で有れば飲食等しないし、通常はチャ-タ-料も$700~1,000/時 (5.5~8万円/時)程度のものなので日本での60~70万円/時の物差しとは根本的に異る。この辺は次回実例で説明する。

 (ビジネス機30,748機を分母とした比率)

機 種

登録機数

比率(%)

VLJ

登録機数

G-550

336

1

Citation   Mustang

386

Global   XRS

159

0.5

Phenom100/300

299

Citation   Ultra

276

0.9

Eclipse   500

264

Citation   CJ2

239

0.8

(6)  ビジネス機の一般的な普及には、日本におけるビジネス機の利用コストが幾らなら利用者の「費用対効果」が正当化されるのか。その為には何が為されなければ成らないか。次項を参照戴きたい。

 

デザインベ-スでのビジネス機利用コスト

最初に向き合わねばならなかった現実はそもそもジェネアビと言う海外では当り前の概念もその為の法制も無いと言う常識では考えられない現実で、ビジネス機運航に必要なFBOすら殆ど無かった。空港も空き容量が無く、米国機は新千歳や三沢、横田の米軍基地を使って凌いだ。戦後、世界の旅も「空の旅」と成り、日本は戦後暫く民間航空機も無かったので、空白の期間のキャッチアップに全力を投入しなければ成らず然も大量輸送により増大する利用客を捌き、利用可能なコストの引き下げの努力も並大抵では無かった。従って、ジェネアビに迄手が回らなかった事は致し方無かったし、大量輸送による日本の航空会社の育成、利用客のニ-ズの充足と言う国策も評価出来る。又、JBAAが空港能力アップと規制緩和、法制整備に注力した事も正しい方策で有った。

但し、並行してビジネス機利用の要と成る利用コストの掘り下げを行うべき処、当初より利用者不在、参加企業は外国機メ-カ-の販売代理店で競合関係にもあり、利用コストをテ-ブルに載せる事には抵抗が有った。その内、現実のビジネス機利用料では一般ビジネスマンの許容コスト範囲外で有る事に気付き、ビジネス機運航会社のウェブサイトもVIP送迎を強調し、当初の目的であった一般ビジネスマンに普及させる目的は霞んで仕舞った。現在の日本のビジネス機利用コスト帯でビジネス機の利用が普及するのかの論議は不毛と言わざるを得ない。16年の歳月を経て、空港の容量もFBO,CIQ等のインフラの更なる充実も望むべき点は多々あるが、それはビジネス機利用促進の一要素ではあるが、主たる障害とは言い難い。既に指摘した通り、欧米の主要都市にファ-ストのフルフェア-でも2百万円の定期便利用と35~40百万円のビジネス機、札幌・福岡迄ファ-ストのフルフェア-で8万円がビジネス機ではウン百万円では誰が考えても比較に成らない。無論ビジネス機の運航会社もベストを尽くし、機材の固定費や、運航の変動費、オ-バ-ヘッドを加算して積み上げた結果ではあるが、これは脇に置き逆に利用者が利用可能な利用料は幾ら位か、利用者/ユ-ザ-の立場よりデザインベ-スで逆算し,このニ-ズにマッチする方策を模索する以外、解決策は見当ら無い。

LCCBusiness LCC

 

ビジネス機とLCCと言えば利用者は対極と考えられる。前者は富裕層或いは大手企業、後者は学生や空の旅の激安運賃を物色して少しでも経費負担を減らそうと言う利用者。然し、本稿でも述べて来たが、米国でのビジネス機の利用者の2/3が一般ビジネスマンと成れば話は違う。況して、最大の利用者は大企業では無く、中小企業と成れば尚更である。大手航空会社の再編成の最大の犠牲者はビジネス利用者と述べたが、これに目を付けたのがBusiness LCC。長い記述は避け、LCCとBusiness LCCの共通項のみ下記の一表に纏めた。

 

項  目

LCC

Business LCC

顧 客

格安運賃利用層

厳格な費用対効果評価を行うビジネスマン

顧客利用形態

随意利用(On-Demand Use)

On-Demand Charteringが多い

2点間直接輸送

Hub-and-Spokesに代えて2点間直接輸送

2点間直接輸送ではLCCを上回る柔軟性

空港のチョイス

定期就航と決まった周辺空港の利用で限定的

ニ-ズに応えて何処からでも何処でも飛行

利用機材

機材を統一しメインテコスト節減

中古機、タ-ボプロップ、回転翼機も利用

オ-バ-ヘッド

小さな政府で間接費節減

運航業者は小/零細企業中心。間接費は安い

パイロット

安いリストラの犠牲者や定退者を利用

安いリストラの犠牲者や定退者を利用

利用空港

利用料が安く混雑の少くない周辺空港

利用料が安く混雑の少くない周辺空港

空港での離着陸

混雑の少くない周辺空港で手早く離着陸

利用客が限定されるのでLCC以上に早い

機内サ-ビス

No frillが原則

短時間、短距離輸送主体でNo frillが原則

セキュリティ-

通常の定期便とさして変わらない

ビジネス機が利用される最大の利点

利用料

大手航空会社の追随を許さぬ運賃設定

短距離(4~500km)で2点間直接輸送の利点を加味。大手航空会社より安く時間節減による人件費の節減を勘案すれば大幅節減

  •   グロ-バルに事業展開をする大手運航会社も多いが、一般ビジネスマンがビジネスの足としてちょこまかと地域周辺で利用する運航会社は小規模で社長兼パイロット等と言う事例もある。事務所も地域の小さなジェネアビ空港のハンガ-脇と言った処。パイロットもリストラで職を失ったか、定年退職者が安い給料でビジネス機を運航。
  •  事前予告(数時間)は必要だが、エアタクシ-なら地上タクシ-同様スポット利用。
  •  日本では成田・羽田の利用が最重視されるが、海外では玄関口の主要空港は空港での人、空の混雑で敬遠されるがこれは別途触れる。一番分かり易いのは今夏のロンドンオリンピック。玄関口のヒ-スロ-空港は選手団、海外観客でゴッタ返しビジネス機は敬遠。オリンピック開催前後3週間の飛来ビジネス機の利用空港実績はLuton  2,285機、Farnborough  1,800機, Biggin Hill  1,231機, Stansted 770機, Oxford  600機と発表されている。オリンピック誘致に熱心な石原前都知事が飛来するビジネス機の受け入れ方策をどの様に考えて居られたのか分からないが、成田・羽田は選手団や海外からの観客受け入れだけで精一杯では無かろうか。寧ろ、横田、茨城空港の出番も有るのではないか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*