2013年01月28日(月)07時49分
(13) 低価格帯ヘリコプタ-
低価格帯ヘリコプタ-
要 約 (1)ヘリコプタ-も事業営利目的で利用される限りれっきとしたビジネス機。その割にビジネス機としては二流市民扱い。この見直しが出発点。 (2)世界的には日本は世界第7位のヘリコプタ-機保有国でそれなりの機材はある。 (3)ビジネス機として利用されないのは種々の理由は有ろうが一義的にはコスト高 (4)対応策は低価格の機材を商用便のアライアンス方式で共同利用する事。これにより機材の高稼働率を図りコストの合理化を図る事。 (5)コスト以外に様々な課題が山積するが関係する各団体の個別の活動では事態の打開は図れない。団体間の「協働」が絶対不可欠。 |
ビジネス機の「定義」でも述べた通り、ヘリコプタ-も事業営利目的で利用される限りれっきとしたビジネス機。ビジネス機と言えば、航空ショ-で展示される格好の良い高額の機材とのイメ-ジが強いが、一般に利用されるのは、経済合理性が有る遥かに安い機材。2億5千万㌦するエアバスA-380もビジネス機では有るが、その1千分の1の価格のRobinson R-22も利用形態により、立派なビジネス機。今一度、下記のコスト比較を参照され度い。
機 材 |
成田-New York 往復 |
利用距離 |
㎞当りコスト |
Heavy Jet 商用便ファ-スト |
¥35~40,000,000 ¥2,000,000 |
20,000㎞ 20,000㎞ |
¥1,750~2,000/㎞ ¥100/㎞ |
機 材 |
利 用 料 |
利用距離 |
㎞当りコスト |
Light Jet 商用便ファ-スト |
¥700,000/時 羽田―新千歳 ¥80,000 |
巡航速度700㎞/時 往復2,000/㎞ |
¥1,000/㎞ ¥40/㎞ |
新幹線グリ-ン車 タクシ- ハイヤ- |
東京―大阪 ¥20,000 ¥300/900m ¥25,000/日 |
400㎞ 500km/日 |
¥50/㎞ ¥330/㎞ ¥50/㎞ |
機 材 |
利用料 |
巡航速度 |
㎞当りコスト |
乗客数 |
㎞当りコスト/人 |
Robinson R-44 |
¥200,000/時 |
200㎞/時 |
¥1,000/㎞ |
5人 |
¥200/㎞/人 |
EurocopterAS-350 |
¥350.000/時 |
200㎞/時 |
¥1,750/km |
5人 |
¥350/km/人 |
米国での凡例
機 材 |
利用料 |
巡航速度 |
㎞当りコスト |
乗客数 |
㎞当りコスト/人 |
VLJ Cirrus SR22 |
$1,500/8時 |
300km/時 |
$0.625㎞ |
3人 |
¥25/km |
Robinson R-44 |
¥36,000/時 |
200km/時 |
¥18,000/時 |
5人 |
¥36/km |
紙の上では低格帯ヘリコプタ-のみが地上交通機関と競合し得る可能性を残しているが後述する様に各種の課題が山積して居り、一段の徹底的な工夫が必要。特にビジネス機先進国である米国と比較して日本のチャ-タ-料は余りにも高いが故に利用されないと言う最も基本的な問題が看過され、責任が日本の規制コスト(これも一要因ではあるが)に転嫁されているが、徹底したコスト分析で利用料を如何に米国に近付けるかの努力が為されなければ成らない。上記のCirrus 22は未だこれでも高いと本年1月15日第5世代の5人乗りの新機種を発売したが、1人当たりのコストは上記表より更に下がる可能性もある。富裕国且つビジネス機利用が商慣行として定着して居る米国でさえ利用層拡大の不断の努力が続くが、遥かに遅れた日本では「協働」による徹底的なコスト見直しで、一般ビジネスマンが利用可能な利用料の提供を行わなければ、低価格帯機材と言えどもビジネスマンの足としては使われない。
一例を挙げれば、ビジネス機を含め航空機産業は資本集約的産業であるが故に機材の有効活用がコスト管理の鍵。利用者が居ないと嘆く前に、如何に利用者が利用出来る利用料を提供するか?一般に米国ではヘリコプタ-の機材にもよるが年間300時間利用が採算分岐点と言われ平均稼働時間は5~600時間を越えて居るが、日本では200時間はおろか、100時間と言った事例も見られる。利用者が少なければ機材をプ-ルし稼働率を高める便法もある。利用者が居ない故に利用料が高くなる、利用料が高いが故に利用者が居ないと言う「いたちごっこ」「悪循環」と真っ向より取り組まなければ事態の改善は望めない。
ヘリコプタ-の民間用途に就いては古いデ-タ-で申訳ないが下記の西川渉氏の資料参照。
1998年度実績 |
年間稼働時間 |
比率(%) |
薬剤散布 |
22,405 |
24.0 |
物資輸送 |
18,716 |
20.0 |
送電線パトロ-ル |
13,534 |
14.5 |
その他 |
12,000 |
12.8 |
報動取材 |
10,279 |
11.0 |
操縦訓練 |
9,673 |
10.3 |
人員輸送・遊覧飛行 |
5,972 |
6.4 |
2点間旅客輸送 |
916 |
1.0 |
合 計 |
93,495 |
100.0 |
古いデ-タ-で例えば薬剤散布は大幅に減る一方、医療、災害救助等の業務は増えているが、ビジネス航空の観点よりは人員輸送、2点間旅客輸送が最大の関心事。デ-タ-の新旧に関わらずこれらはヘリコプタ-の利用分野としては最下位に位置付けられるが、この点の掘り下げと改善策が喫緊の課題。
世界における日本の位置付け
日本は最盛期1200機を保有し、米国、カナダに次ぐヘリコプタ-タ-大国であったが、現在は900機程度(民間機は700機程度)で世界ランキング7位に後退している。但し、日本のヘリコプタ-機数は2005~2010年の6年間殆ど増減が無いので、世界他地域の増加に伴い、日本の地位が相対的に低下。尚、資料により統計数値に大きなバラツキが見られるが、細かい数値合せよりマクロ的な大掴みな「鳥瞰図」として見て戴き度い。
米国CIA World Factbook Forecast International社2011年末統計
順位 |
国 名 |
保有機数 |
(%) |
順位 |
国 名 |
保有機数 |
1 |
14,296 |
41.6 |
1 |
米 国 |
15,688 |
|
2 |
E U (フランス750) (ドイツ672) (スイス335) |
6,850 |
19.9 |
2 |
カナダ |
2,269 |
3 |
カナダ |
2,350 |
6.8 |
3 |
豪 州 |
1,711 |
4 |
豪 州 |
2,100 |
6.1 |
4 |
英 国 |
1,536 |
5 |
ブラジル |
1,325 |
3.9 |
5 |
南 ア |
787 |
6 |
英 国 |
1,100 |
3.2 |
6 |
ニュ-ジランド |
727 |
7 |
日 本 |
940 |
2.7 |
7 |
フランス |
723 |
8 |
ニュ-ジランド |
750 |
2.2 |
8 |
日 本 |
699 |
9 |
南 ア |
517 |
1.5 |
9 |
イタリア |
692 |
10 |
韓 国 |
510 |
1.5 |
10 |
その他 |
6,199 |
その他 |
3,657 |
10.6 |
||||
計 |
34,395 |
100.0 |
31,031 |
日本の回転翼機数の推移 (航空振興財団資料)
2005 |
2006 |
2007 |
2008 |
2009 |
2010 |
791機 |
778 |
773 |
768 |
777 |
781 |
より留意すべきは、日本の保有機数そのものは大きく変化して居ないが、その中身には下記の表の様な変化が読み取れる。即ち、合計の機数に大きな変化は見られなくとも、低価格帯ヘリコプタ-が静かにシェア-を拡大して居り2011年には353機と総機数771機の45.8%。
ピストン単発では米国Robinson社のR-22,R-44の2機種でピストン単発のシェア-の85.2%、タ-ビン単発ではEurocopter社のAS-350, EC-120 に加えAS-350の後継機EC-130やRobinson社が新たに投入するタ-ビン単発のR-66等の伸びが予測される。
2011年ヘリコプタ-登録機数 (日本航空機全集2012収録)
ピストン単発 |
タ-ビン単発 |
タ-ビン双/多発 |
総 計 |
183 |
170 |
418 |
771 |
内 R-22 69機 R-44 87機 シェア-85.2% |
内 AS-350 82機 EC-120 4機 Bell 206 55機 シェア-83.5% |
資材・貨物輸送等が多いが最近は医療・災害救助等の用途も増加。 |
グロ-バルの2011年末推定登録機数 (Forecast International社資料)
R-22 |
R-44 |
R-66 |
EC-120 |
AS-350 |
3,101機 |
3,452 |
47 |
389 |
2,314 |
次の機材価格を見れば低価格帯ヘリコプタ-に重点移行するのは自明の理。1機数十億円するHeavy Jet、7~10億円するLight Jetでは如何なる努力をしても地上交通機関と競合する事は出来ず、従って一般ビジネスマンは利用しない一方、狭い日本の国土の中では「牛刀を以って鶏を割く」愚を犯す事と成る。
R-22 |
R-44 |
R-66 |
EC-120B |
AS-350 |
$270,000 |
$442,000 |
$830,000 |
$1,400,000 |
$1,950,00 |
Eurocopter社
1992年、仏Aerospatiale社と独Daimuler-Benz Aerospace社が合併設立された。 Eurocopter社は 2000 年EADS社が設立された時点で、Airbus社の親会社でもあるEADS社の100%仔会社と成った。仏Aerospatiale社自身は1905年創立のBieriot社と1912年創立のLioret-Olivier社が発祥。一方、独Daimler-Benz Aerospace社は1923年創立のMeserschmitt社を祖とする名門の航空機製造会社。AS-350は一般の民間機として安全性、信頼性、低コストを売り物として販売されたが、2005年ヒマラヤのエベレスト山頂の着陸に成功し話題を呼んだ。EC-120はRobinson社の低価格帯ヘリコプタ-を意識して、コストを抑える為、中国で生産される。一方、日本での設備拠点は、神戸空港島に数十億円を投じて昨年完成。日本ではEurocopter Japanを設立、六本木ヒルズに本拠を置き、代理店であった伊藤忠より株式を買い戻し、自社で販売に乗り出しているが、三井物産と共同で日本ヘリコプタ-事業推進協議会を設立、日本でのインフラの整備、規制緩和等ヘリコプタ-の日本での利用推進の活動を展開している。Eurocopter社、日本ヘリコプタ-事業推進協議会は共に日本ビジネス航空協会の会員で有り、ビジネス機としてのヘリコプタ-の事業展開を協働して行わない理由は無い。尚、日本ヘリコプタ-事業推進協議会のヘリポ-ト部会は日本ヘリポ-ト協会と共同で都心ヘリポ-トの設置をワ-ク中だが、日本ヘリポ-ト協会は日本ヘリコプタ-協会(米国ヘリコプタ-協会の日本支部として発足した歴史を持つ)の中に置かれ、両協会は、芝浦のヘリポ-トを運営している日本ヘリコプタ-業界の草分けの東運開発池田社長が主催している。この様な、「点」毎の努力には限界が有り、これを「線」に結び、「面」として構築し業界が一体と成り「3本の矢」として効果的な「協働」を図る事が喫緊の課題。
Robinson社
1973年、Bell Helicopter社とHughes Helicopter社に勤めた Frank Robinson が創立,一般市民の手の届くヘリコプタ-としてR-22を20万㌦、R-44を40万㌦と言う破格の価格で売り出し業界に大衝撃を与えた。但し、レシプロ機として性能はタ-ビン機に劣る為、2007年3月タ-ビン機のR-66を開発、2010年秋、形式証明を取得した。価格は当初77万㌦、本年1月15日現在$830,000だが、対抗馬のEurocopter社のEC-120の価格は1億円を越えるので、Eurocopter社は中国での生産によりコスト合理化を進めている。つまり伝統的なヘリコプタ-製造メ-カ-に対し、Robinson社は「価格破壊」的低価格ヘリコプタ-で挑戦、航空業界のLegacy Carrier対LCCと同じ構図、或いはブランド品専門店対量販店との闘い。多少の時間のズレは有ろうが棲み分けが行われ様。2011年11月、Robinson社は1979年処女機第一号機を出荷してから10,000機出荷の偉業を達成した。特に、タ-ビン機R-66の形式証明取得後1年2カ月の2011年12月23日に100機目の出荷を完了。 2012年の受渡しは517機(R22 40機 R-44 286機, R-66 191機)で生産が需要に追い付かず、工場の大増設を行った。(2012年末の生産能力は12機/週)2013年は、受注残で生産は2012年を上回ると予測され、形式証明取得業務の迅速化に注力する。Eurocopter社は軍用機も生産し世界市場の約半分を抑えているが、Robinson社は一般商用機では世界最大のメ-カ-に成長した。日本でも、R-66の販売が心待ちされるが、生産が出荷に追い付かない事、日本での形式証明を取得しなければ成らないので暫く時間が懸かろう。日本では3社が販売代理店と成っているが、その一つアルファ-アビエイション社は2012年にR-66 1機の日本での仮登録を済している。同社は茨城県下妻でヘリコプタ-の組み立て(機材はノックダウンされて輸入される)整備、保守・修繕、パイロットのトレ-ニング・養成、運航委託も引き受けて居り、一貫したサ-ビス提供が可能。 Eurocopter社も対抗上同様の施設を神戸空港島に2012年に完成させ、パイロットの養成は隣接のヒラタ学園と提携している。
上記の様に世界的にも低価格帯ヘリコプタ-が新たなビジネス機の利用機会を提供し様としているが、ビジネス機利用では日本はアジア地域に於いても他国の後塵を拝して居り、この機会を逃すならば決定的に世界より立ち遅れる。利用者が利用可能な利用料以外にも、騒音・公害、安全性、計器飛行、都心のヘリポ-ト建設問題等課題は尚山積するが業界関連団体、運航業者、利用者の「3本の矢」の「協働」が為されねば何事も成就しない。より詳細な提言は、紙面の都合で後日、本シリ-ズの纏めとして提案する。
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