2013年02月05日(火)06時35分
(15) 日本に於けるビジネス機事業の将来 I
(15)日本のビジネス機事業の将来 I
要 約 1.日本に於けるビジネス事業の将来像を描くのに太刀を大上段に振り被ったり、座禅を組んで無念無想の瞑想に耽る必要は無く、深遠過ぎるブリリアントな大構想も不要。肩の力を抜き自然体で臨む。 2.歴史の流れ、世界の潮流の流れに素直に乗り、敢て逆らわない。 3.本稿で「事実が語った」現実の姿と向き合い、素直に現実を受け容れる。 4.諸外国の先例を虚心坦懐に評価し、先入観や過去のしがらみは忘れ、ゼロ発想で臨む。 5.本稿で示唆する将来の方向は、既にその萌芽が「個」の単位では見られ道筋も見え始めている。深耕・改善の余地は残されて居るが、既に実行に移されて居るものもある。「個」の努力を結集し「協働」による「面」展開とする。 6.ビジネス機の一般普及は市場、利用者が決める事。利用者の声に謙虚に耳を傾けその真のニ-ズを汲み上げる。 7.将来像は、中/遠距離海外飛行と、短距離の国内飛行に分けて論じたが後者が開発の本命。 8.国内ではかなりの数のプロペラ機、単発タ-ボプロップ、回転翼機がビジネス機として利用されて居ると目される。従来はこの種航空機はビジネス機として真剣に検討の対象と成らなかったが、日本でビジネス機を一般に普及させるには一般ビジネスマンが手の届く利用料を提供しなければ成らず、この種低価格帯の機材で無ければ目的は達成出来ないとの認識が必要。 9.米国とて同じ事。一般ビジネスマンが利用可能な低コストの機材が提供されて居る。日本が学ぶべきは、如何に米国では日本では想像して来なかった低コストのビジネス機が存在し、如何にして懸る低コストが可能なのかを仔細に検討する。更に、これを咀嚼し、日本人の最も得意とする小型化、低コスト化、それでいて高度な性能・サ-ビスを自家薬籠中のものとする事で所期の目的であったビジネスマンが利用可能なシステムを構築する。 10.幸い、米国でも高性能のマイクロジェット(日本のホンダが先頭集団に居る)や100万ドルを切る低価格帯回転翼機が上市され始めこの活用が遅れを取って来た日本に残された最後の選択肢と目される。 |
中/遠距離海外飛行(富裕層、特権階層利用) コストは副次的問題で、今後ともニ-ズに併せて利用され様。過去に於いても市場の自由に任せ都度運航業者、チャ-タ-仲介業者、旅行代理店等が利用者と直接話し合って来たが、将来も従来の方式を踏襲。 |
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中/遠距離海外飛行(日本の一般企業幹部) 1.日本には必要とする機材は皆無。周辺諸国よりの取寄せでは取寄料のみでも一般企業の手の届かぬコスト。 2.過去25~50年、遠隔地への飛行は大手企業幹部と言えども現地主要空港迄定期航空便が利用して来た。 3.近年ビジネス機利用の為の様々な広報活動が展開されたが、目に見える変化が無かった事も「事実」が立証。 4.理由は単純明快。ビジネス機利用に、定期商用便のファ-ストのフルフェア-の何十倍と言う利用料を払う利用者は居ない。定期商用便は大量輸送による乗客一人当りのコスト負担を軽減すると言う原点を思い起こす。 5.寧ろ定期商用便航空会社が高単価利用者の囲い込みを策して高品質サ-ビス提供に血道を挙げて居る。 a.ルフトハンザはFrankfurt空港に高単価利用客専用タ-ミナルを建設ビジネス機以上の高品質サ-ビスを提供 b.エミレ-ツ航空は7月より成田にA-380を就航させビジネス機以上の機内サ-ビスを提供。然も運賃はファ-ストでドバイ往復100万円とビジネス機利用の何十分の一。更に、オ-ルビジネス、ファ-ストクラスのA-380を発注。 c.定期商用便航空会社は挙って機内食の高級化、180度倒れる座席やスペ-スの拡張等を競い、サ-ビス内容でビジネス機のそれを凌駕しつつあり、然も運賃はビジネス機の何十分の一。 6遠距離飛行用のHeavy Jet価格は定期商用便機材の1/3。但し、利用客は前者は1~5名平均3名。後者は200~250名と置けば、ビジネス機の利用客の頭割の運賃負担が定期商用便の何十倍に成る事は誰でも計算出来る。日本が戦後国策として大量輸送による利用運賃単価の引下げの努力をした理由。利用航空機を少人数で専有すれば利用者単価が上がる事は誰でも理解出来る。 7.日本の企業幹部が遠隔地の主要空港に定期商用便を利用するのは永年の経験に基く合理的判断で利用企業に定着している商慣習。利用者の企業幹部は定期商用便のサ-ビスに満足して居り、今後定期商用便のサ-ビス内容のの高品質化・充実化でビジネス機の出番は一層遠退くとの現実を認識すべき。 8.日本では海外の大手ビジネス機の販売代理店を勤める大手商社の幹部や、ビジネス機の普及を唱える直接の関係者すら、内外の出張にビジネス機を利用する事は殆どないと言う「事実」を想起すべき。 9.海外でも遠距離飛行にビジネス機を利用するのは、一握りの富裕層、セレブ、特権階層であるとの統計実績が語る「事実」を受け容れる。(日本だけの特異現象ではない) 10. 喋々と論議を重ねるより下記比較が定期商用便に代えてビジネス機が中/遠距離飛行に利用されない理由。
運賃は種々の条件の下で変わるが、商用便とビジネス機の利用料に決定的な格差が有り、変動要因で逆転はしない。 これが大量輸送方式と個別飛行の格差。地上公共交通機関と運転手付き社有車のコスト比較と同じ理屈。
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近隣諸国へのビジネス機の利用 1.近隣諸国も前項と全く同一。韓国、極東ロシア領、中国と言えども大企業の幹部は定期商用便を利用して訪問先近隣の主要空港に飛ぶのが定着した商慣習。 2.既にこれら諸地域では、法制・インフラの整備、機材の品揃え、欧米先進諸国より運航業者が進出を果たして居り、日本との格差は決定的。Eurocopter社は低価格帯ヘリコプタ-の中国での低コストを利用した現地生産、NetJet(世界最大のFractional Ownershipプロバイダ-)の中国での合弁設立等日本では全く考えられない各種展開の「事実」を受容。米国Citation社も一部ビジネス機を合弁で現地組立てを行なう。 3.寧ろ、日本はこれを上手く利用する方向に舵を切る。 a.これら諸国からの飛来機は日本の地方空港の活性化に繋がる。 b.日本企業は、これら諸国の主要空港迄定期商用便を利用し、そこから奥地の航空便のアクセスが悪い地域に現地のコストの安いビジネス機を利用する。 c.低コストで生産された低価格帯ヘリコプタ-を輸入し日本国内でのビジネス機の一般普及に活用する。 d.これら諸国の関係諸団体、諸企業とアライアンスを組み域内でのWin-Winの相互協力、相互繁栄体制を構築する。この様な試みは2000年初期にAsBAA(アジア諸国15ヶ国のビジネス航空協会、日本が中国と共に発起国だがその後中国を代表する協会と成り、日本も関係は細々と保っているが実質的な運営には参画して居ない)の設立に見られた。これら諸国との今後の緊密な連携プレ-は大きく遅れを取った日本としては不可欠 4.実際には、この様な事態を早くより見越して、日本の主要な商社や運行業者、ビジネス機チャ-タ-業者は2000年始め、或いは半ば迄にこれら諸国の主要関係業者と連携関係を樹立し、実際に水面下で上記3.項に述べた事を実質上実行して居る。問題は個別企業が「点」としてその「事実」を「個人情報」「企業機密」として囲い込んで居る事にある。グロ-バル時代、競合各社の相互協力が航空事業の発展に大きく寄与して来た事は本稿で縷々として述べて来た。EUの如く域内の国籍もカボタ-ジュ規制も撤廃し、大手航空会社が連衡合従、更にアライアンスを組む時代に、ビジネス機事業で世界より遥かに取り残された日本の各企業が個々バラバラに水面下で活動しても大した成果には繋がらない。「小異を捨てて大同に付く」事で「3本の矢」の威力を発揮するとの根本に立ち返るべき時。「チ-ムワ-ク」、「協働」は本来日本のお家芸。
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国内でのビジネス機の利用 1.国内は飛行距離が短いので利用する機材も2,000㎞程度の距離で有れば、タ-ボプロップ機、マイクロジェット機、更に2~300㎞の短距離で有ればピストン機、回転翼機で済む。 2.「事実が語って」居る事はVIP(特権階層)や既存の利用形態以外過去十数年、特記すべき新たな展開はない。 3.理由は単純で前記の通り、国内でも企業幹部でも次の様な利用形態が定着して居る、 a.地上交通機関との兼ね合いで航空機を利用する。(700㎞以内で有れば新幹線の方が選ばれる) b北海道、九州、沖縄等の国内遠距離で有れば、定期商用便を利用、現地の着陸空港から必要に応じ地上交通やビジネス機を利用する。現地空港では各種コミュ-タ-機、ピストン機、回転翼機が、待機して居り利用可能。 c.上記の利用形態は永年の利用体験に基いた経験則に基く最も合理的な利用形態として定着して居る。 4.理由は極く単純。羽田―新千歳のファ-ストフルフェア-は往復8万円。Light Jetで最低でも200~250万円はする。海外の中/遠距離、近隣諸国、国内何れを取っても現行のビジネス機利用料は定期商用便利用の何10倍と言う価格で一般ビジネス利用者に取っては真面目な検討対象にも値いしない。
5.但し、ビジネス機が利用されている代表的な事例としてトヨタとエプソンが広く知られて居る。他企業がこれに追随しないのは、(1)誰かトップが利用を決めねば成らない。トヨタは日本でもビジネス機利用の先駆企業でトップダウンで利用が定着している。エプソンも創業家の服部家(服部時計店)の一族が時計製造のメッカ スイスに留学した折、スイスでビジネス機が自由に使われるのを見聞し、諏訪に工場を建設した際近くの松本空港より庄内,鳥取、八尾に近い企業関連施設への社員移動の足として利用して居る。(2)統計が示す「事実」では年間かなりの頻度の往来が読み取れる。ビジネス機を利用するには採算を正当化する最低限の人員移動が確保されなければ成らない。これに続く企業が余り現れないのは、採算点に乗るだけの利用が見込まれないから。米国では、一つの目安として年間500時間の利用が必要と言われているが、日本は全てのコストが高いので年間7~800時間位の利用が必要ではなかろうか?2010年度の日本国内のビジネス機の利用実績は下記。名古屋-旭川はトヨタ、松本-庄内、鳥取、八尾はエプソンが主たる利用者。これが、日本の地方空港の国内ビジネス機着陸回数の太宗を占める。
但し、以上のデ-タ-のみで日本のビジネス機の利用状況を判断する事は大勢を大きく見誤る事に成りかねない。日本で軍用、公共、商用機を除く民間機としても利用されているピストン機、タ-ボプロップ機、回転翼機が1,000機前後も有る事を忘れては成らない。(この内ビジネス機的利用として特定出来る機数が何機あるかは不明だが)
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空港の利用 1.海外(主として欧米)からの強い要望が有り、首都圏空港の開放が焦点と成った。現実には首都圏空港の容量拡張には時間が懸ったが、その間地方空港の開放が先行した。結果として、韓国、中国を始め、極東ロシア他のアジア近隣諸国は地方空港を利用し、2010年度首都圏空港の開放が実現した時点では、成田/羽田の首都圏空港の利用率は50%を割った。欧米よりの飛来機の減少と(欧米機に限れば31%)、近隣諸国からの飛来機の増加が寄与して居ると見られて居るが、この傾向は今後益々強まる事が予測される。 2.実績統計の「事実が語った」事は下記。全世界よりの飛来機総数3,544機を分母に割り出した数値。
3.上記より更に重要な課題は、そもそも成田・羽田が首都圏のビジネス機利用空港として最適な空港かと言う根源的な課題の検討が為される必要がある。茨城空港完成以前より、ANA総合研究所が成田、羽田、茨城、横田の4空港を持つ東京は世界屈指の空港インフラを備えて居り、欧米ではビジネス機は玄関口の主要空港より二次的周辺空港を利用するとの指摘を行い、国交省も2011年2月同様の指摘を行った。下記が商用便を除いたジェネアビ機(一部小型軍用機も含む)の利用実績。 ACI 1011年統計
c 因みに、ロンドンオリンピック開催前後の3週間、ビジネス機は大混雑が予想される玄関口のヒ-スロ-空港は避け二次的な周辺空港を利用した。関係者による利用実績はLuton 2,285機, Farnborough 1,800. Biggin Hill 1,231, Stansted 770, Oxford 600であった。 d.ビジネス機利用者、運航業者が最も嫌うのは空港の雑踏、混雑による離着陸待ち、セキュリテイ-・CIQの手続時間、主要空港の高い利用料で、自然に周辺空港が利用され様に成った。日本とて早晩同様の棲み分けと成ろう。 e.但し周辺空港である茨城、横田を検討する際には、交通アクセスの手段を考える必要がある。ヘリポ-トを空港に設置する事は問題無かろうが、都心の離発着点が必要。現在の、新木場、芝浦、六本木ヒルズのみでは不十分。かって申請が為された三井物産本社(大手町)、ペニンシュラホテル(日比谷)、伊藤忠本社(青山)を含めた見直しが必要。東京都の認可事項なので、横田空港の利用、オリンピック招致に熱心な石原都前知事、猪瀬知事等への働き懸けが効果的。これも個別企業単位ではなく、都心ヘリポ-ト設置に積極的にワ-クして来た、関係諸団体との連係プレ-が不可欠。海外から何千万円以上懸けて日本を訪問するビジネス機利用者にとり、茨城、横田と都心間のヘリコプタ-利用料金の多寡は問題ではないが、これとて、羽田と茨城/横田空港の空港利用料の利用差額で一部節減可能。 |
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