2013年02月25日(月)08時31分
(18) 中国のビジネス機事情
要 約
1.中国は2010年、名目GDPで日本を抜いたが、購買力平価で見たGDPでは既に2002年に日本を抜き、5年後の2017年には購買力平価で日本の3倍に成る事が予測される。 2.中国は人口の1%が富の60%を抑える「超格差社会主義国家」。2016年には人口の1%が日本の購買力平価で見たGDPの3倍近い富を持つが、富の集中度、規模でも日本人の発想を遥かに超え、ビジネス機もこれら富の象徴として内外に誇示される。 3.従って、ビジネス機の品揃え、所有機数、これに加えビジネス機の自己技術による生産、欧米企業の中国での組立て、航空機リ-ス、Fractional Ownership等必要なノウハウも米国企業より丸ごと一括購入する手も打ち終わった。 4.日本の場合、ビジネス機は一般ビジネスマンの足として普及の努力が続けられたが、中/遠距離飛行には大量輸送による低コストの定期商用便のサ-ビスが行き届いて居る為、日本の大手企業幹部もビジネス機を利用し無い。利用可能な超富裕層、セレブは日本では数も限られ、中国の如き圧倒的な「富の集中」もない。 5.更に、日本の名目GDPと購買平価ベ-スのGDPの2011年度差額$1兆5400億㌦(¥90/$で換算して128兆円)は日本人には自覚症状が無いが、TPPでも論議される日本の農業、医療の保護、国民皆保険、弱者保護の諸施策、その結果としての高度の治安維持と言ったものの対価でもある。その是非を論ずるのが目的では無いので割愛するが、日本の高い規制コストの一部である。航空業界で言えば、羽田の国際的にも高い利用料は地方の赤字空港の補填財源である事は広く知られている。善悪是非の論議は脇に置き、超格差社会の対極の1億総中流社会実現にはそれなりの対価が有る。航空産業もその規制コストの一端を担って居るに過ぎず、日本の高い人件費、これを反映した高コスト体質から逃れられない事は認識すべき。因みに、消費税引上げによる国民の税負担増は1%アップに付き2兆円にしか過ぎない。(5%で10兆円) 6.本サイトは国政を論ずるものでは無く、日本は格差の少ない事を誇りとし、海外への中/遠距離飛行には大量輸送による利用者へのコスト軽減を国策とした結果、ファ-ストクラスのフルフェア-でもビジネス機の何十分の1と言う理想的な結果を手中にした。相対的な平等社会と企業幹部も経済合理性を追求、地位と企業の富を「権力と富」の誇示しない節度が有る事は誇るべき事。コンプレックスを抱くいわれは無い。 7.日本は中国の主要空港に定期商用便を使い、そこから交通の便の悪い地域に現地のより安いコストのビジネス機を使えば済む問題で日本のチャ-タ-業者も中国の主要運航会社と既に10年近く、種々の形態で実際に連携関係を保って来た。 |
中国のビジネス機事情
リ-マンショック後の世界的な経済減速は世界のビジネス機業界にも大きな打撃を与えた。2012年のビジネス機の受渡はリ-マンショック以前の2008年の約半分に落ちたが、金額的には20%減程度に留まった。これは、リ-マンショック後の経済低迷の中でも超富裕層が高額のHeavy Jetを買い続けたからと言われている。原油高が続く中で、産油国や経済発展が著しい中国、インドの超富裕層は世界的な経済不況等「何処吹く風」とHeavy Jetを発注し、不況に喘ぐビジネス機業界からは、「地獄に仏」と感謝された。その中でも中国は、ビジネス機不況で大きな痛手を受けたMid/Lightジェット機やタ-ボプロップ、ピストン、回転翼機製造業者に満遍なく接触し、企業買収、中国での現地生産と言った結果を引出し、一気にアジアに於けるビジネス機の揺るぎない地位を確立する足固めを行った。経済大国として日本の遥かに後塵を拝して来た中国が、如何にその様な事を成し遂げたのか、日本のビジネス機事業の今後の在り方を含め読者と共に考えたい。
マクロ的環境
中国の広大な国土、世界最大の人口を抱え乍ら「眠れる巨象」と揶揄されて来た中国が「世界の工場」と成り日本を抜いて世界第2位の経済大国にかくも早く成るとは誰が予測したであろうか?中国の隣国で最も関係の深い日本でも中国の急成長を過小評価して来たのではないか?冗長な論議は避け、以下の統計が全てを語っている。
名目GDP (IMF World Economic Outlook 2012年度は推計値)(単位:10憶㌦)
2008 |
2009 |
2010 |
2011 |
2012 |
|
日 本 |
4,849 |
5,035 |
5,489 |
5,867 |
5,984 |
中 国 |
4,520 |
4,991 |
5,930 |
7,298 |
8,250 |
2010年中国は名目GDPで日本を抜いた
購買力平価で見るGDP 出典等上記同様)
2002 |
2003 |
2004 |
2005 |
2006 |
2007 |
2008 |
2009 |
2010 |
2011 |
|
日本 |
3,405 |
3,535 |
3,706 |
3,890 |
4.083 |
4,294 |
4,343 |
4,139 |
4,384 |
4,444 |
中国 |
3,701 |
4,158 |
4,697 |
5,364 |
6,240 |
7,329 |
8,214 |
9,049 |
10,128 |
11,300 |
購買力平価で見ると日本は既に2002年の時点で中国に追い抜かれている。日本ではしばしばビジネス機業界も含め、規制コストが問題にされるが、規制コストが購買力平価に反映される全てでは無いが大きな要因では有る。TPP,FTAで論議されるコストは2011年の名目/購買平価のGDP表示差$1兆4,230億㌦(¥90/$換算128兆円)に表れる。農業や医薬業の保護、国民皆保険、高い治安、相対的な所得格差の是正コストとして適正な額か否かは論じないが、航空規制緩和或いは消費税率引き上げもこの文脈の流れの中で語られるべき。
今後の購買力平価で見たGDPの推移推測値 (成長率 日本1%/年 中国5%/年)
2011 |
2012 |
2013 |
2014 |
2015 |
2016 |
|
日 本 |
4,444 |
4,488 |
4,533 |
4,578 |
4,624 |
4,671 |
中 国 |
11,300 |
11,865 |
12,458 |
13,081 |
13,735 |
14,422 |
中国の上位1%の超富裕層の購買力平価で見たGDPの占有金額 (占有率60%と仮定)
2011 |
2012 |
2013 |
2014 |
2015 |
2016 |
|
中 国 |
11,300 |
11,865 |
12,458 |
13,081 |
13,735 |
14,422 |
60% |
6,780 |
7,119 |
7,475 |
7,849 |
8,241 |
8,653 |
IBAC(国際ビジネス航空評議会)に於ける中国側のプリゼンテ-ション
(2010年10月NBAA ConventionでのAsBAAのプリゼンテ-ション)
アジア市場に於けるビジネス機
(2011年5月のAsBAAのレポ-ト。2011年のNBAA Conventionで披露。但し統計値の出典は2011 World Wealth report, Merrill Lynch 及び 2010 Global Wealth report, Credit Suisse)
AsBAA (アジアビジネス航空協会)は1999年アジア15ヶ国の参加で結成されたが、アジア諸国の足並みは揃わず、その後中国の企業40社から成る中国を代表するビジネス航空協会として生まれ変わった。日本も発足時のAsBAAの発起国であり、現在も接触は保たれているが完全に中国主体の組織と成った。ビジネス機の的を超富裕層に絞り、日本の目指す一般ビジネスマン利用のビジネスツ-ルと言う概念とは判っきり目的を異にしている。
中国の富裕層は人口の1%で国富の60%を独占し、購買平価で換算すると2011年の日本のGDPの1.5倍の富を137万人が所有して居る事と成り、貧乏性、平均化社会の日本では想像も付かない社会が存在る事を先ず認識しなければ成らない。
中国市場への欧米の進出と中国の最近の欧米企業との関係強化
中国の共産党一党独裁下のあからさまな所得格差と(超格差社会主義国)、特権階層の超富裕化による高額なビジネス機の購入は、ビジネス機を一般ビジネスマンのビジネスツ-ルとして利用・普及を図る各国のビジネス航空協会より批判の声もあるが、世界的な不況下でビジネス機、然も高額の高級機種を購入するアジア諸国の超富裕層とオイルマネ-が溢れる中東の富豪は正に「地獄に仏」「救世主」」視されるとしても不思議では無く多少の批判は圧倒的な購買力の誇示の渦中では掻き消されて仕舞う。
2011年のピストン機、回転翼機、タ-ボプロップ機、小型ジェット機
中国 日本
|
軍用 |
民間 |
総機数 |
軍用 |
民間 |
総機数 |
ジェット |
26 |
162 |
188 |
63 |
27 |
90 |
タ-ボプロップ |
9 |
9 |
59 |
17 |
76 |
|
ピストン |
不詳 |
統計無し |
552 |
|||
回転翼 |
不詳 |
120 |
120 |
699 |
出典 : ジェット・タ-ボプロップ機 jp Biz-Jet年鑑2011年数値
日本のピストン機、回転翼機は 日本航空機全集2012 (2011年民間機登録統計)
中国の回転翼機は Forecast International 社2011年末集計値
2011年の中国のビジネスジェット機
航続距離 中国 日本
Heavy Jet |
7~12,000㎞ |
欧米迄の飛行可能 |
なし |
Medium Jet |
3.5~6,000km |
中国全域カバ-可能 |
なし |
Light Jet |
2~3,500km |
数か所の基地で中国全域カバ- |
極く近距離 |
国土面積
中国は米国とほぼ同じ面積、東西5,000㎞、南北5,500㎞。中国の国土面積は日本の25.4倍.米国は国土面積の世界ランキングで第3位、中国は第4位、日本は62位。一方日本は、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、熊本、那覇にヘリポ-トがあれば半径150㎞で地域全域を30~40分 (ヘリコプタ-の巡航速度200㎞/時)でカバ-可能。
米 国 |
9,628,000㎢ |
中 国 |
9,600,000㎢ |
日 本 |
378,000㎢ |
空港数
米国は主要空港660、定期商用便のある空港2,500、個人空港を入れ30,000と言われる。
中国は180の空港の内135が赤字。日本は98の空港の内黒字空港は成田、伊丹、新千歳、熊本、鹿児島、徳島、広島と言われるが、試算の前提や年度で変わるので一般に言われる日本の空港の9割は赤字に留め置く。日本の空港数は今後横這いか漸減、中国は急増予測。
北京空港は2012~13年の何れかの時点で利用者1億人と設計値80百万人を上回り、第2空港の大興計画が発表されたが、完成迄待ち切れず。北京第1空港に滑走路1本を増設検討中。本年中に、北京+上海、北京+珠江デルタ地域のみで2011年の日本全国の空港の国内+国際線利用者の乗降客総数の210百万人を上回る事もあり得る。
順位 |
空港名 |
利用客数 |
順位 |
空港名 |
利用客数 |
1 |
北京 |
78.7百万人 |
1 |
羽 田 |
63.7百万人 |
2 |
広州 |
45.0 |
2 |
成 田 |
26.1 |
3 |
上海浦東 |
41.4 |
3 |
新千歳 |
16.1 |
4 |
上海虹橋 |
33.1 |
4 |
福 岡 |
15.8 |
5 |
成都 |
29.1 |
5 |
伊 丹 |
14.5 |
6 |
深圳 |
28.2 |
6 |
那 覇 |
14.0 |
7 |
杭州 |
17.5 |
7 |
関 空 |
13.6 |
出典 ; 中国航空局統計2011年実績
国土交通省2011年実績
中国のビジネス機事業発展の阻害要因
以上述べて来た事から読者は中国のビジネス機事業は順風満帆、当るべからざる勢いとの印象を受けられるかも知れず、「死角」は無いのかとの疑念を持たれるかもしれないが、無論大きな問題点も存在するが「中国問題」を論ずるのが本稿の目的では無いので幾つかの指摘に留めビジネス機事業発展に直接関係のある阻害要因に的を絞る。
マクロ的「中国問題」
ビジネス機事業発展の具体的な阻害要因
具体的な阻害要因の記述に入る前に相対的に開放的でオ-プンな中国カルチャ-と内に閉じ籠りがちな日本のカルチャ-の差に言及する。現在の中国のビジネス機業界を代表するAsBAAは元々米国のビジネス機製造メ-カ-最大手のGulfstream社を退職した米国人と日本ビジネス航空協会が共同発起人として設立した寧ろ外国企業の設立による協会で当初のメンバ-はアジア15カ国で構成された。中国と言っても当時は香港、上海、マカオ等旧欧州の植民地で外国人居住者の足としてビジネス機を利用して来た。その後、中国のビジネス機事業の発展とアジアの構成メンバ-との格差も開き、足並みも揃わなくなった為、中国を代表するビジネス航空協会に衣替えし、香港、上海、マカオ、そして、北京オリンピック以降は北京のビジネス機関連業者の集まりと成ったが、メンバ-の多くは米国留学経験者や欧米企業との交流経験者により構成されている。衣替えしたAsBAAのトップも元Hawker Beechcraftの従業員で在った。従って、中国でのビジネス機事業進展の阻害要因の摘出にも欧米に指導を仰いでいる。日本でも日本の阻害要因は克明に摘出され国交省に詳細な要望書が繰り返し提出されてはいるが、日本国内の内部資料に留まっている。中国の場合、欧米の専門家が包括的に纏めたレポ-トがNBAA Conventionの場で報告され、グロ-バルな専門家のコメントが寄せられる。即ち、問題点の対応に付き広くグロ-バルな関係者より意見を求めその支援も受けられる。本稿も手詰まり状態の日本のビジネス機事業に対し広く利用者の声を募り、日本により適した低価格帯のビジネス機を製造メ-カ-の支援の下に、拘りを捨てて白紙で臨む事を狙いとしている。此処で紹介するのは2010年10月のNBAA Conventionでのプリゼンテ-ション・ペ-パ-である。
General Aviation in the Asia Pacific Region
Federal Aviation Administration (米国連邦航空局)
総 論
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中国での問題点
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阻 害 要 因
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中国の将来予測
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Aircraft Charter & Management in Asia
Metrojet(香港 の中国大手ビジネス機運航会社)Mr. Bjorn Naf
アジアにおける困難
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総 括
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以上は主として中国市場を意識してのプレゼンテ-ションだが日本としても「他山の石」として汲みとるべき点は多々ある。
日本として参考にすべき事項
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