2013年02月25日(月)08時31分

(18) 中国のビジネス機事情

要    約

 

1.中国は2010年、名目GDPで日本を抜いたが、購買力平価で見たGDPでは既に2002年に日本を抜き、5年後の2017年には購買力平価で日本の3倍に成る事が予測される。

2.中国は人口の1%が富の60%を抑える「超格差社会主義国家」。2016年には人口の1%が日本の購買力平価で見たGDPの3倍近い富を持つが、富の集中度、規模でも日本人の発想を遥かに超え、ビジネス機もこれら富の象徴として内外に誇示される。

3.従って、ビジネス機の品揃え、所有機数、これに加えビジネス機の自己技術による生産、欧米企業の中国での組立て、航空機リ-ス、Fractional Ownership等必要なノウハウも米国企業より丸ごと一括購入する手も打ち終わった。

4.日本の場合、ビジネス機は一般ビジネスマンの足として普及の努力が続けられたが、中/遠距離飛行には大量輸送による低コストの定期商用便のサ-ビスが行き届いて居る為、日本の大手企業幹部もビジネス機を利用し無い。利用可能な超富裕層、セレブは日本では数も限られ、中国の如き圧倒的な「富の集中」もない。

5.更に、日本の名目GDPと購買平価ベ-スのGDPの2011年度差額$1兆5400億㌦(¥90/$で換算して128兆円)は日本人には自覚症状が無いが、TPPでも論議される日本の農業、医療の保護、国民皆保険、弱者保護の諸施策、その結果としての高度の治安維持と言ったものの対価でもある。その是非を論ずるのが目的では無いので割愛するが、日本の高い規制コストの一部である。航空業界で言えば、羽田の国際的にも高い利用料は地方の赤字空港の補填財源である事は広く知られている。善悪是非の論議は脇に置き、超格差社会の対極の1億総中流社会実現にはそれなりの対価が有る。航空産業もその規制コストの一端を担って居るに過ぎず、日本の高い人件費、これを反映した高コスト体質から逃れられない事は認識すべき。因みに、消費税引上げによる国民の税負担増は1%アップに付き2兆円にしか過ぎない。(5%で10兆円)

6.本サイトは国政を論ずるものでは無く、日本は格差の少ない事を誇りとし、海外への中/遠距離飛行には大量輸送による利用者へのコスト軽減を国策とした結果、ファ-ストクラスのフルフェア-でもビジネス機の何十分の1と言う理想的な結果を手中にした。相対的な平等社会と企業幹部も経済合理性を追求、地位と企業の富を「権力と富」の誇示しない節度が有る事は誇るべき事。コンプレックスを抱くいわれは無い。

7.日本は中国の主要空港に定期商用便を使い、そこから交通の便の悪い地域に現地のより安いコストのビジネス機を使えば済む問題で日本のチャ-タ-業者も中国の主要運航会社と既に10年近く、種々の形態で実際に連携関係を保って来た。

中国のビジネス機事情

リ-マンショック後の世界的な経済減速は世界のビジネス機業界にも大きな打撃を与えた。2012年のビジネス機の受渡はリ-マンショック以前の2008年の約半分に落ちたが、金額的には20%減程度に留まった。これは、リ-マンショック後の経済低迷の中でも超富裕層が高額のHeavy Jetを買い続けたからと言われている。原油高が続く中で、産油国や経済発展が著しい中国、インドの超富裕層は世界的な経済不況等「何処吹く風」とHeavy Jetを発注し、不況に喘ぐビジネス機業界からは、「地獄に仏」と感謝された。その中でも中国は、ビジネス機不況で大きな痛手を受けたMid/Lightジェット機やタ-ボプロップ、ピストン、回転翼機製造業者に満遍なく接触し、企業買収、中国での現地生産と言った結果を引出し、一気にアジアに於けるビジネス機の揺るぎない地位を確立する足固めを行った。経済大国として日本の遥かに後塵を拝して来た中国が、如何にその様な事を成し遂げたのか、日本のビジネス機事業の今後の在り方を含め読者と共に考えたい。

 

マクロ的環境

 

中国の広大な国土、世界最大の人口を抱え乍ら「眠れる巨象」と揶揄されて来た中国が「世界の工場」と成り日本を抜いて世界第2位の経済大国にかくも早く成るとは誰が予測したであろうか?中国の隣国で最も関係の深い日本でも中国の急成長を過小評価して来たのではないか?冗長な論議は避け、以下の統計が全てを語っている。

名目GDP  (IMF World Economic Outlook 2012年度は推計値)(単位:10憶㌦)

2008

2009

2010

2011

2012

日 本

4,849

5,035

5,489

5,867

5,984

中 国

4,520

4,991

5,930

7,298

8,250

2010年中国は名目GDPで日本を抜いた

購買力平価で見るGDP  出典等上記同様)

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

日本

3,405

3,535

3,706

3,890

4.083

4,294

4,343

4,139

4,384

4,444

中国

3,701

4,158

4,697

5,364

6,240

7,329

8,214

9,049

10,128

11,300

購買力平価で見ると日本は既に2002年の時点で中国に追い抜かれている。日本ではしばしばビジネス機業界も含め、規制コストが問題にされるが、規制コストが購買力平価に反映される全てでは無いが大きな要因では有る。TPP,FTAで論議されるコストは2011年の名目/購買平価のGDP表示差$1兆4,230億㌦(¥90/$換算128兆円)に表れる。農業や医薬業の保護、国民皆保険、高い治安、相対的な所得格差の是正コストとして適正な額か否かは論じないが、航空規制緩和或いは消費税率引き上げもこの文脈の流れの中で語られるべき。

             今後の購買力平価で見たGDPの推移推測値 (成長率 日本1%/年 中国5%/年)

2011

2012

2013

2014

2015

2016

日 本

4,444

4,488

4,533

4,578

4,624

4,671

中 国

11,300

11,865

12,458

13,081

13,735

14,422

中国の上位1%の超富裕層の購買力平価で見たGDPの占有金額 (占有率60%と仮定)

2011

2012

2013

2014

2015

2016

中 国

11,300

11,865

12,458

13,081

13,735

14,422

60%

6,780

7,119

7,475

7,849

8,241

8,653

 

IBAC(国際ビジネス航空評議会)に於ける中国側のプリゼンテ-ション

  •   中国のビジネス機の成長は年率25%強。
  •  正味資産額1,500億㌦超 (¥90/$換算13.5兆円)の富豪が3~5,000人。
  • 中国は近く世界第2位のビジネス機市場と成り更にその後1位に成る可能性も。

     (2010年10月NBAA ConventionでのAsBAAのプリゼンテ-ション)

アジア市場に於けるビジネス機

  •   アジア、大洋州のHNWI (High Net Worth Individual) は2010年3.3百万人に達し世界シェア-の30%。
  •  2010年のHNWI人口の増加率は、香港33.3%、中国12%、インドネシア23.8%、シンガポ-ル21.3%。
  •  アジア、大洋州のHNWIの21.2%が中国人,富の30.9%を所有。アジア特に中国が将来のCorporate Jetの市場。

(2011年5月のAsBAAのレポ-ト。2011年のNBAA Conventionで披露。但し統計値の出典は2011 World Wealth report, Merrill Lynch 及び 2010 Global Wealth report, Credit Suisse)

 

AsBAA (アジアビジネス航空協会)は1999年アジア15ヶ国の参加で結成されたが、アジア諸国の足並みは揃わず、その後中国の企業40社から成る中国を代表するビジネス航空協会として生まれ変わった。日本も発足時のAsBAAの発起国であり、現在も接触は保たれているが完全に中国主体の組織と成った。ビジネス機の的を超富裕層に絞り、日本の目指す一般ビジネスマン利用のビジネスツ-ルと言う概念とは判っきり目的を異にしている。

中国の富裕層は人口の1%で国富の60%を独占し、購買平価で換算すると2011年の日本のGDPの1.5倍の富を137万人が所有して居る事と成り、貧乏性、平均化社会の日本では想像も付かない社会が存在る事を先ず認識しなければ成らない。

中国市場への欧米の進出と中国の最近の欧米企業との関係強化

中国の共産党一党独裁下のあからさまな所得格差と(超格差社会主義国)、特権階層の超富裕化による高額なビジネス機の購入は、ビジネス機を一般ビジネスマンのビジネスツ-ルとして利用・普及を図る各国のビジネス航空協会より批判の声もあるが、世界的な不況下でビジネス機、然も高額の高級機種を購入するアジア諸国の超富裕層とオイルマネ-が溢れる中東の富豪は正に「地獄に仏」「救世主」」視されるとしても不思議では無く多少の批判は圧倒的な購買力の誇示の渦中では掻き消されて仕舞う。

  •   中国はかって欧米の植民地であった香港(英国)、マカオ(ポルトガル)等に欧米のビジネス機運航会社や、製造メ-カ-が拠点を設け進出して来た歴史を持つ。欧米の大手ビジネス機運航会社Jet Aviation, TAG Aviation等は代表的な事例である。
  •   中国への欧米のビジネス訪問客や現地の欧米企業が地域での足として利用する以外に、中国の富豪も海外訪問に利用する。中国の富豪の子弟は欧米に留学する事が多くビジネス機利用のメリットにも習熟している。アジアの富豪は自らビジネスディシジョンを即く決断を下せるが、日本の場合はコンセンサス社会。一流企業のトップと言えども組織内のコンセンサスに従い独断は下せない。最近ロッテの重光会長 (日本では日本名を使い製菓企業、球団オ-ナ-として知られるがれっきとした韓国の大財閥) がインドネシアを訪問、ユドノ大統領と50億㌦の石油化学プラント建設で合意した。欧米で言うGolden Hand-Shakeだが、アジアの富豪は相互にこの様な事が出来るが、日本は相対的に身分・所得格差が存在しない為この様な真似は出来ない。アジア全域に拡がる華僑の人脈網とカリズマ的企業トップの存在が高価なビジネス機の利用を正当化する。
  •  中国は無論漢民族主体の国では在るが55の少数民族も並存する多民族国家。歴史的にも漢民族は、蒙古、満州等の異民族に統治され、欧米が植民地を有して居た。その意味では、グロ-バル化の世界には適応し易い。閉鎖的・排他的な日本に較べ欧米の企業を受け容れる素地が在り、欧米企業を買収しても経営を可能にして居る。これが、以下に列挙する諸施策を結果的に結実させて居る。
  •   2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博に併せてビジネス機利用のインフラの整備、ビジネス機の品揃え、Part 135の準用等ビジネス機対応の諸施策を講じ、一気に日本を抜き去った。日本は2020年のオリンピック招致に力を入れているがその為のビジネス機受入れ体制の整備は話題にも上らない。中国は、ビジネス機利用のインフラの充実、国力の強化と相前後して欧米企業とビジネス機関連の事業提携に積極的に乗り出した。
  1. GA(General Aviation)の代表的な米国企業のHawker Beechcraft社は中国のSuperior Aviation Beijin Companyに17.9憶㌦で身売りされたが、国防上の懸念とそれ以上に年金支払い義務を履行するかの懸念で買収計画の認可は下りずカナダ資本が再建に乗り出し破産裁判所もこれを認可した。
  2. 他のGA企業のCessna社は昨年3月仮の覚書(MOU-Memorandum of Understanding)を中国と交わし、その後Avic 傘下のCaiga (China Aviation Industry General Aircraft Company)と日本でも人気のあるCalavanシリ-ズとCitation XLS+の中国での組立を行う事で合意した。これとは別個にAvicとCitation Latitudeの中国での組立の商談も進めている。
  3. ヘリコプタ-メ-カ-の最大手Eurocopter社は瀋陽で中国資本と合弁でEC-120を生産すると発表したが、前提の中国側の150機の引取条件は満たされと伝えられる。
  4. 昨年12月AIGは世界2位の航空機リ-ス会社のILFC (International Lease Finance Corporation)の90%の株式を中国ファンドに売却した事を明らかにした。
  5. 昨年11月、Warren Buffet傘下のビジネス機のFractional Ownership提供企業の最大手NetJetsが中国企業と合弁で NetJets China Business Aviation , Ltdを設立したと発表した。
  6. これに続き、スイスを本拠とするビジネス機運航会社のVistaJetが中国への本格的進出を宣言した。
  7. 一方、急成長する中国での航空機の需要に対応する為、北京の第2空港と成る大興の建設計画が発表された。4本の民間用と1本の軍事用滑走路を第1期計画として2018年を目処に完成予定。他に広州、上海、深圳を始め北京空港の滑走路の増設等空港インフラ拡張の計画も次々と発表されて居る。

 

2011年のピストン機、回転翼機、タ-ボプロップ機、小型ジェット機

  中国                        日本

 

軍用

民間

総機数

軍用

民間

総機数

ジェット

26

162

188

63

27

90

タ-ボプロップ

9

9

59

17

76

ピストン

不詳

統計無し

552

回転翼

不詳

120

120

699

 出典 : ジェット・タ-ボプロップ機 jp Biz-Jet年鑑2011年数値

日本のピストン機、回転翼機は 日本航空機全集2012 (2011年民間機登録統計)

中国の回転翼機は Forecast International 社2011年末集計値

 

2011年の中国のビジネスジェット機

                   航続距離     中国                 日本

Heavy   Jet

7~12,000㎞

欧米迄の飛行可能

なし

Medium   Jet

3.5~6,000km

中国全域カバ-可能

なし

Light   Jet

2~3,500km

数か所の基地で中国全域カバ-

極く近距離

  •   Heavy Jet の代表的機種であるGulfstream G-IV,G-V, G-450,G-550, Bombardier Global Express,Airbus ACJ-318、 Falcon 7X等を40機所有。
  •   Medium Jetの代表的機種であるBombardier Challenger 604,850 ,Hawker 125-800, 850,900, Gulfstream G-220等を30機余所有。
  •   全体として日本の民間ビジネスジェット機所有数27機に対して中国は162機と圧倒的な格差が有るが、中国はHeavy~Medium Jetの最新鋭機が中心で2012年以降も相当機数を購入、今後はビジンス機の自国生産、海外メ-カ-の中国に於けるビジネスジェット機、タ-ボプロップ機、ヘリコプタ-の組立生産が始まるので中国/日本の格差は決定的と成る。

国土面積

中国は米国とほぼ同じ面積、東西5,000㎞、南北5,500㎞。中国の国土面積は日本の25.4倍.米国は国土面積の世界ランキングで第3位、中国は第4位、日本は62位。一方日本は、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、熊本、那覇にヘリポ-トがあれば半径150㎞で地域全域を30~40分 (ヘリコプタ-の巡航速度200㎞/時)でカバ-可能。

米 国

9,628,000㎢

中 国

9,600,000㎢

日 本

378,000㎢

 

空港数

米国は主要空港660、定期商用便のある空港2,500、個人空港を入れ30,000と言われる。

中国は180の空港の内135が赤字。日本は98の空港の内黒字空港は成田、伊丹、新千歳、熊本、鹿児島、徳島、広島と言われるが、試算の前提や年度で変わるので一般に言われる日本の空港の9割は赤字に留め置く。日本の空港数は今後横這いか漸減、中国は急増予測。

北京空港は2012~13年の何れかの時点で利用者1億人と設計値80百万人を上回り、第2空港の大興計画が発表されたが、完成迄待ち切れず。北京第1空港に滑走路1本を増設検討中。本年中に、北京+上海、北京+珠江デルタ地域のみで2011年の日本全国の空港の国内+国際線利用者の乗降客総数の210百万人を上回る事もあり得る。

順位

空港名

利用客数

順位

空港名

利用客数

北京

78.7百万人

羽 田

63.7百万人

広州

45.0

成 田

26.1

上海浦東

41.4

新千歳

16.1

上海虹橋

33.1

福 岡

15.8

成都

29.1

伊 丹

14.5

深圳

28.2

那 覇

14.0

杭州

17.5

関 空

13.6

                   出典 ; 中国航空局統計2011年実績

                       国土交通省2011年実績

中国のビジネス機事業発展の阻害要因

以上述べて来た事から読者は中国のビジネス機事業は順風満帆、当るべからざる勢いとの印象を受けられるかも知れず、「死角」は無いのかとの疑念を持たれるかもしれないが、無論大きな問題点も存在するが「中国問題」を論ずるのが本稿の目的では無いので幾つかの指摘に留めビジネス機事業発展に直接関係のある阻害要因に的を絞る。

 

マクロ的「中国問題」

  •   「諸行無常」「盛者必衰の理」を歴史的に免れた国も個人も居ない。「欧米より倣うべき事は今や何も無い」とバブル期に誇った日本の最盛期も10年と持たなかった。
  •  中国が抱える最大の矛盾は「鎖以外に失う物なし」とプロレタリア(無産階級)の決起を促したマルクス・レ-ニン主義がプロレタリア独裁で「持てる者と持たざる者」の垣根を取り払い所得格差を失くす事を旗印にし乍ら、一度権力を掌握した時点で一党独裁による「権力と富」の集中により、経済規模が大きく成った事もあり、人類史上最大の所得格差による社会矛盾が生じた。旧ソ連では「ベルリンの壁崩壊」に象徴されるソ連邦の瓦解が見られたが、「共産党一党独裁」、「超格差社会主義国家」の中国が更なる経済発展で所得格差を雪だるま式に膨らまし続ける事が可能か?無論何処かで矛盾のバブルは弾ける。(昨年の地方での暴動は3万回を越えたとも伝えられる)
  •   中国のビジネス機事業は正に「所得格差」を明確にに意識した事業で、格差矛盾が限界に達し始めた中国で何時迄存続可能か今後の推移を慎重に見守る要がある。
  •   経済発展に伴う所得増加で珠江デルタ地域の一人当たりの所得はチェッコ、韓国並みに成ったと伝えられ、低賃金を土台とした「世界の工場」も低賃銀のベトナム、パキスタン、バングラデッシ、ミヤンマ-にシフトし始め、経済成長も目標の8%/年を割り込み始め鈍化傾向が鮮明に成って来た。
  •   世界最大の人口も、少子化・高齢化の日本パタ-ンが急速に進み始め、人口でもインドに抜かれる日が近付いて居る。(2011年中国13.5億人、インド12.2億人)
  •  日本より遥かに国際的な中国人は、アジアの華僑や香港の中国への返還時に香港の中国人が旧英連邦のカナダ、豪州等にも逃れ、米国で成功して居る中国人も多い。又中国の特権階層の子弟は欧米で教育を受けて居る人材も多く、中国の民主化への圧力も中国人の間で高まっている。「共産党一党独裁」と「自由経済」の根本的矛盾をどれだけ維持し続けるか「時間との競争」に成っている。中国内の特権階層の「尊皇攘夷-中国共産党一党独裁」と海外の空気を吸った「文明開化派」との攻めぎ合いも沸騰点に達しつつある。
  •   本稿は「中国問題」を論ずるものではないが大きな歴史の流れを見失っては成らない。

 

ビジネス機事業発展の具体的な阻害要因

 

具体的な阻害要因の記述に入る前に相対的に開放的でオ-プンな中国カルチャ-と内に閉じ籠りがちな日本のカルチャ-の差に言及する。現在の中国のビジネス機業界を代表するAsBAAは元々米国のビジネス機製造メ-カ-最大手のGulfstream社を退職した米国人と日本ビジネス航空協会が共同発起人として設立した寧ろ外国企業の設立による協会で当初のメンバ-はアジア15カ国で構成された。中国と言っても当時は香港、上海、マカオ等旧欧州の植民地で外国人居住者の足としてビジネス機を利用して来た。その後、中国のビジネス機事業の発展とアジアの構成メンバ-との格差も開き、足並みも揃わなくなった為、中国を代表するビジネス航空協会に衣替えし、香港、上海、マカオ、そして、北京オリンピック以降は北京のビジネス機関連業者の集まりと成ったが、メンバ-の多くは米国留学経験者や欧米企業との交流経験者により構成されている。衣替えしたAsBAAのトップも元Hawker Beechcraftの従業員で在った。従って、中国でのビジネス機事業進展の阻害要因の摘出にも欧米に指導を仰いでいる。日本でも日本の阻害要因は克明に摘出され国交省に詳細な要望書が繰り返し提出されてはいるが、日本国内の内部資料に留まっている。中国の場合、欧米の専門家が包括的に纏めたレポ-トがNBAA Conventionの場で報告され、グロ-バルな専門家のコメントが寄せられる。即ち、問題点の対応に付き広くグロ-バルな関係者より意見を求めその支援も受けられる。本稿も手詰まり状態の日本のビジネス機事業に対し広く利用者の声を募り、日本により適した低価格帯のビジネス機を製造メ-カ-の支援の下に、拘りを捨てて白紙で臨む事を狙いとしている。此処で紹介するのは2010年10月のNBAA Conventionでのプリゼンテ-ション・ペ-パ-である。

 

General Aviation in the Asia Pacific Region

Federal Aviation Administration (米国連邦航空局)

総   論

  •   ジェネアビは一般大衆より富裕層の奢偧と見られている。(中国では奢偧が目的)
  • インフラ不足と未発達
  • l辺鄙な遠隔地への交通アクセスとしての認識普及の必要性
  •   商用便空港の混雑とスロット枠入手難 日本でも全く同じ)
  •   他の交通手段の多様な選択肢 (高速鉄道、高速道路等)との競合 (日本も同じ)

中国での問題点

  •   ジェネアビの定義・コンセプトの確立・定着化 (日本でも市民権を得て居ない)
  •   政治的な支援 (中国では有力政治家の縁戚等の利用者が多いが日本では無縁)
  •   成長、安全、セキュリテイ-の均衡を保つ (現在は成長一本槍)
  •   多様な運航状況への対応 (広大な国土の気象、地形、航路等への対応)
  •   航空路のアクセス(軍事用による規制)
  •   成長と組織改革 (官僚体質の改革と成長のアンバランス)
  •   サポ-トサ-ビスの欠如。操縦士の免許制度、飛行プラン、気象予報、FBO、関連人材の教育訓練施設、コミュニティ-とのコミュニケ-ション

阻 害 要 因

  •   逆風環境。商用便偏重、縦割組織 (日本も全く同じ)、政府・公共業務優先
  •   政府の期待。成長最優先、欧米とのパイプ構築が主眼(国内交通インフラとしての関心薄い)
  •   空港、航路は満杯、地上施設も同様、管制システム・機器の陳腐化

中国の将来予測

  •   航路の振り分け (軍事用最優先の見直し) 特に低い高度の空の開放のニ――ズ
  •   体系的なジェネアビ育成策。ジェネアビ利用の環境造り、段階的成長(成長最重視の見直し)、安全性と効率性重視、コストを抑える(日本ではこれが見過されて来た)、健全なジェネアビコミュニティ-の育成 (日本も同じ)
  •   将来予測は、当初ビジネスと地域航空の発展が先行。
  •  2020年迄にビジネスジェット機は1,500~3,000機に(日本では想像も付かない規模)

Aircraft Charter & Management in Asia

Metrojet(香港 の中国大手ビジネス機運航会社)Mr. Bjorn Naf

アジアにおける困難

  •   限られたチャ-タ-可能な機材
  •   限られたビジネス機運航会社とチャ-タ-業者
  •  運航会社の外部監査は稀
  •  チャ-タ-機材が出発地に無い事が多い。(呼寄せが必要でコストも嵩む)
  •   短時間でのチャ-タ-要請や計画変更への対応が難しい
  •   利用客の最大の関心事で在る安全性に実態が随いて来ない。
  •   チャ-タ-サ-ビスのキャビンサ-ビスの決まりが不在
  •   キャビンの内装、サ-ビスの豪華さが先行して競われる
  •   チャ-タ-料の標準化の遅れ(日本でもチャ-タ-料は企業秘密と捉えられれる)
  •   第三者への業務委託の高コスト
  •   One stop service (総合・完結したサ-ビス提供のニ-ズ)
  •   フリの利用客への差別 (顧客である以上分け隔てない対応が必要)
  •   相対的に高い月間管理費(マネ-ジメント・フィ-)
  •   新しい顧客開拓は「口コミ」が主体
  •   顧客は知り合いが中心 (アジア、日本では個人的繋がりが重要)
  •   キャプテンは顧客とも親密な知り合い
  •   Fractional Ownership制度の欠落。(NetJetsが最近中国に進出)

総   括

  •   アジアでのビジネス機チャ-タ-業はチャレンジング
  •   アジアでのチャ-タ-市場は今後成長する
  •   然し世界的標準(グロ-バルスタンダ-ド)の採用・適用が必須 (日本も同じ)
  •   多様な文化が混在する中での異った文化への理解が不可欠 (日本人には苦手)
  •   オ-ナ-・顧客のリレ-ションが鍵 (欧米文化の合理性より東洋的人的関係重視)

以上は主として中国市場を意識してのプレゼンテ-ションだが日本としても「他山の石」として汲みとるべき点は多々ある。

日本として参考にすべき事項

  •   ビジネス機はジェネアビの一分野で在り、ビジネス機事業の確立には先ずジェネアビの市民権を確立しなければ成らない。ビジネス機の振興を看板に掲げるなら「二流市民」扱いより脱却しなければ何事も始まらない。
  •   日本は東洋の中でもウエットの文化で知られ運航会社或いはチャ-タ-斡旋業者と顧客の肌の触れ合いの重要性を理解する事はさして問題は無いが、一般ビジネスマンへのビジネス機の普及を看板に掲げながら利用客へのアプロ-チや況してそのニ-ズを汲み上げる努力は行われて来なかった。ビジネス機運航業者も高額のビジネス機をVIP送迎用と特権階層を対象にしている一方、利用客は大手企業幹部と言えどもビジネス機は手の届かぬものと認識しその利用は考慮の範疇外に在り、上級管理層では考えた事も無いと言うのが実情。一方、ビジネス機でも最高級のAirbus A-380の千分の一の機材も存在し、米国ではNASAがエアタクシ-の普及には$1.50~3.00/マイル(日本に当て嵌めると¥60,000/時位)と日本のビジネスマンでも地方の出張に利用する事を考える枠内に入り始めこれに見合う低価格帯ビジネス機の開発も進んでいる。どの様な方策でこれを日本で利用出来るかには検討課題が山積しているが、一般利用客が利用可能なチャ-タ-料の提供が出来なければ、如何なる法制・インフラの整備も意味を為さない。
  •   グロ-バル時代、日本のみがグロ-バルスタンダ-ドを逸脱する事は出来ず、グロ-バルHarmonizationのうねりに乗らなければ成らない。(TPPが試金石)
  •   グロ-バルスタンダ-ドと言う事はビジネス機の運航サ-ビス提供者もグロ-バル企業並みの経営陣、組織、金融基盤、機材の品揃え、内部管理、法的コンプライアンス、安全管理に対する認識が無ければ成らず、欧米企業から見れば日本を含むアジアは未だしの感があろう。日本の場合は全てを揃える事は充分可能であるが、現在の如く小規模のオペ-レションを個々の企業が水面下で行っているのでは達成出来ない。日本人の最も得意とする「一致協力」「チ-ムワ-ク」「大同団結」「3本の矢」無くして世界より取り残された「失地回復」は果たし得ない事を自覚すべき。
  •  何よりも、グロ-バル時代日本に比較的馴染みの薄いビジネス機を普及させるには広く先進諸国や先進企業或いは中国等ビジネス機利用の成長著しい近隣諸国との連携、分業を図る事が必要。先ず「開かれた」環境下で日本は勿論、諸外国の「百家争鳴、百花斉放」により広く叡智を求めなければ成らないし、本サイトもそれを期待して立ち上げられた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*