2013年06月23日(日)12時56分

26 「日本に於けるビジネス機の在り方を考える」 要約

要   約

1.本サイトのレポ-トも既に25本を数え、その間新たな情報も入手したので、2012年のグロ-バルなビジネス機の統計をアップデ-トした機会を捉え、日本のビジネス機を取り巻く各種課題の全体像を見失う事が無き様、過去に触れた事項を含め要約を纏めた。

2.2012年末の日本の航空機の保有数は約4,000機(4,387機)内軍事用2,000機(2,390機54.5%)非軍事用2,000機(1,997機45.5%)、公用(海上保安庁、警察、消防、国土交通省、自治体所有機)と商用機、コミュ-タ-機、訓練用機材、レジャ-用を除いた「広義のビジネス機」は1,000機(1,128機25.7%)、更に「双発タ-ボ機+ジェット機}の「狭義のビジネス機}は35機。より詳細は本サイトレポ-ト242012年実績に基くグロ-バルな日本のビジネス機の位置付け参照。

3.細かい数字に捉われず覚え易くすれば、日本の航空機の保有機総数は約4,000機の半分の2.000機が非軍事用、その半分の1,000機(全体の1/4)が「広義のビジネス機」、そして日本のビジネス機は先進国としては少ないとの批判が多い「狭義のビジネス機」は35機と「広義のビジネス機」の0.35%、非軍事用航空機の0.175%、全航空機の0.8%に過ぎない。本サイトはその是非は別として、この様な非常に限定された「狭義のビジネス機」に的を絞り「虫眼鏡」で拡大して論議する事の意味を問うものでもある。

4.業界のマスコミで囃し立てる価格50億円強のHeavy Jetや15億円強のMid-Jetは日本では民間のビジネス機としては1機も存在しないし7~12億円台のLight Jet でさえ24機しか存在せず、これも報道関係や運航業者以外の所有者は中小オ-ナ-企業のみで大手企業の所有機は皆無。運航業者もLight Jetの利用料が高い為「VIP送迎用」として使用。

5.海外の大手ビジネス機の製造メ-カ-からは、世界第3位の経済大国日本の地位に相応しい高級ビジネス機を具備すべきで、特に世界の経済中心地より最も離れた極東の日本はHeavy Jetを利用するのに最適の国。BRIC’s (ブラジル、ロシア、インド、中国)がHeavy, Mid-Jet機を急速に買い増している折に日本は何をしているのか?と言う指摘が行われ、日本の関係者も永年の努力が実らず「忸怩たる」思いに苛い悩まされて来た。

6.本サイトは、日本はビジネス機利用小国では無く、日本固有のビジネス機利用モデルを持って居るとの視点より、更にこの「日本モデル」を深化・発展させる事を目的とする。本サイトのレポ-ト25)日本でのビジネス機利用の実態と秘めたる可能性参照。

a.日本は内外からの指摘の通り、世界の政治・経済中心地より遠く離れ、資源小国として全世界より資源の供給を得るニ-ズもあり、戦後航空機の利用が可能に成った時点より、「国策」として商用便の育成による「大量輸送方式」の発展を推し進めた。世界の「空の自由化」の流れも追い風と成り、世界主要都市に「大量輸送」のメリットを活かし、一般ビジネスマンでも利用可能な運賃を提供する事が可能と成った。過去四半世紀~半世紀、日本の企業マンは全世界で事業展開を行い、日本より海外の主要都市への幹線航路の安い運賃を利用し、訪問先の交通の便が悪い処には地場のビジネス機をニ-ズに応じ利用すると言う巧みな使い分けを行って来た。因みに、成田―ニュ-ヨ-ク間の商用便ファ-ストクラスのフルフェア-は往復2百万円 (¥100/㎞)、ビジネス機では35~40百万円 (¥1,750~2,000/㎞)、大半のビジネス客は40~100万円 (¥20~50/㎞) 程度の商用便ビジネスクラスやそのアップグレ-ドした程度の利用で済ませ、ビジネス機を利用する事は無い。羽田―北京間で有ればファ-スト30万円 (¥50/㎞)、ビジネス20万円 (¥33/㎞)、ビジネス機では1,000~1,500万円 (¥1,667~2,500/㎞)で「費用対効果」の「説明責任」を負うサラリ-マン社員は幹部を含めビジネス機を利用する事は考慮の対象外。敢て利用すれば、会社法の「善管義務の懈怠」「背任行為」の規定に抵触する懼れさえある。それ故に、僅かに導入されたHeavy, Mid-Jetも2000年半ばには全て日本より姿を消し、Light Jetも「費用対効果」を「自己責任」で処理出来る中小オ-ナ-企業か、取材コストとするマスコミ関係、「VIP送迎用」に提供する運航業者に限定される。

7.逆に1,000機を越えると目される小型ピストン機や回転翼機等のHeavy Jet の1/50~1/100のコストの機材は過去何十年各種事業目的に利用され、根付いた商慣行と言える。因みにHeavy JetのGulfstream G-650は65億円以上するが、回転翼機のRobinson R-22はその1/200の3千万円。日本の民間で所有するHeavy Jetは1機も存在しないが、Robinson R-22(25百万円) Robinson R-44 (45百万円)が165機、その上位機種のEurocopter EC-120/EC130/AS-350 (1.5~2.5億円) は91 機、何れも機数は年々増加。

8.「日本モデル」は中/遠距離飛行は「大量輸送」のメリットを活かした商用便を利用する。幸い、LCCの台頭で大手商用便会社は高単価顧客であるビジネス客の取り込みに懸命で、機内サ-ビス内容は既にビジネス機のそれを凌駕している。ビジネス客が商用便の何10倍の利用コストのビジネス機を利用する事由は全く無い。他方海外では日本の1/3~1/10程度でビジネス機がチャ-タ-可能なので、必要が有ればこれを利用して来た。この定着した商慣行を変える合理的理由は見当らない。

9.国内では、低価格帯の機材を利用した「広義のビジネス機」が利用されて来たが、海外のビジネス機メ-カ-より見ればこれらの低価格帯機材は「眼中にはない」。かって。自動車業界のBig 3が日本の小型車等「眼中に」無かったのと同じパタ-ン。(大手ビジネス機メ-カ-は小型機や回転翼機等生産も販売もしていない先が大半で話題にする事さえない)これも幸い、より性能の優れた、低価格帯の機材が次々とお目見得して居るので、日本はこれら新機種を活用、ビジネス機の更新を図れば良く、実際に日本の運航業者はその方向で動いている。

10.「日本モデル」の特色は日本が海外諸国に比し「所得・身分格差」が相対的に少ない事、企業の組織規律が守られ「見栄や」「ステ-タスシンボル」としてのビジネス機の利用は見られない事、日本は世界に冠たる「交通大国」。狭い国土に網目の様に各種交通網が張り巡らされ、海外へは日本を含め世界の凡る航空会社が主要都市への航路を整備している。

11.「日本モデル」は「格差の少ない社会」、「組織の規律を遵守するコンプライアンス精神」、「国策による大量輸送で海外渡航客への低コストのサ-ビス提供の成果」の表れとして世界に堂々と胸を張って説明すれば良い。

12。国内では、低価格帯の機材の高度利用(中小業者が限られた市場で犇き合い機材の低稼働率でコスト高に喘いでいる)、ジェネアビは「ニ流市民」として適切な法制も用意されて居ない、小型機・回転翼機の計器飛行認可の遅れ、これ以上の空港建設は不可能な状況下で都市圏でのヘリポ-トの設置許認可、これらを併用して一般ビジネスマンが利用可能な運賃の提供。

13.諸種の条件を揃える必要は有るが、最優先課題は如何に「広義のビジネス機」の利用料を競合交通機関と太刀打ちさせるか。商用便ファ-ストの¥50/㎞、新幹線のぞみのグリ-ン車の¥35/㎞は暫く脇に置いても、タクシ-料の¥330/㎞との競合は考慮すべき。具体的な方策としては、低格帯機材の利用(1~3億円以内)、運航の統合化による機材の集中購買、稼働率の向上、整備・補修費の引き下げ、対外的な企業信用力の強化、短時間・短距離のAir Taxi的利用等の組み合わせによる創意工夫。

14.最後に、然し最も重要な課題は利用者の参画。顧客抜きの事業の成功例等常識でも考えられない。もし過去への最大の反省点が有るとすれば、サプライサイドは

ビジネス機は高価なもので利用コストをあからさまにすれば顧客は誰も集まらない。顧客側は端よりビジネス機は「高嶺の花」と考慮の対象外に置き、サ-ビス提供者と顧客の対話が為されなかった事。「日本モデル」は条件により、工夫次第で「広義のビジネス機」の出番を行政、自治体、地域航空提供業者、ビジネス機運航業者、関連業界団体、経済諸団体、海外ビジネス機関連諸団体、そして実際の顧客である企業の利用者を含めた「3本の矢」を束ねた「協働」「チ-ムワ-ク」で実現可能。「日本モデル」は正に日本の特色である「官民一体」「川上・川下のコンセンサス醸成」「チ-ムワ-クによる団結力」の結集で「夢の実現」が可能と成る。日本は高額のHeavy Jetを有さない「ビジネス機後進国」との「現状否認」やコンプレックスより脱却し、低コストの機材の「広義のビジネス機」をあまた駆使して来た「日本モデル」のビジネス機社会との矜持と「現状是認」をすれば良い。本サイトはその一助として提供されている。

/遠距離飛行

1.戦後日本は航空産業への遅れを取り戻す為、国策で「大量輸送」による運賃の引き下げの努力を払った。日本経済の急成長、それに伴う内外企業間の人員の交流、日本が世界の経済中心地より遠距離にあり内外主要航空会社も日本航路はドル箱と言う認識も重なり、日本と海外の主要都市は網目の様な航空路線で確り結ばれた。

2.経済成長と強い経済に支えられた「強い円」は日本の海外進出と「円換算」にすれば、飛行運賃の引下げ効果として商用便利用の一層の発展に繋がった。

3.日本の海外事業展開は60年代半ばに始まり、「石油危機」が直接の引金と成った「円の変動相場制」への移行が実施された70年代半ばには本格化し、日米間の「貿易摩擦」解消の為の80年代全般の「プラザ合意」の齎した急激な円高で競争力を失った多くの日本産業はその後の10年間、好む好まずに関わらず海外に拠点を移さざるを得なかった。1950年代円/㌦の闇相場は¥400/$、90年代初頭には¥80/$と米ドルは円貨に対して80%切下げと成る、主要国際通貨間の変動幅としては異例の事態を招いた。逆に見れば、日本人が利用する航空運賃は80%安くなった。

4.1978年に米国で始まった「空の自由化」は航空業界を揺るがし、自然淘汰とグロ-バルな航空企業間の統合・連衡合従に発展、更に自由化が切掛けと成りLCCの誕生と自由競争による運賃の大幅な低落を招いた。

5.航空会社の視点よりは、東日本大震災を遥かに上回る「業界の大激震」と成り、日本のフラッグキャリア-JALもまさかの経営破綻に陥るとは誰が予測したであろうか?

6.他方、ビジネス利用客の目線に立てば、経済成長に伴う利用者の激増で下がった航空機の利用コストが円高、「空の自由化」により運賃の実質的な大幅な値下げ、反対に利用コスト負担が不釣り合いに多い、ビジネス、ファ-ストクラスのサ-ビス内容の充実で同じ運賃レベルでもビジネス客にと取っては大幅な品質向上に繋がった。

7.これをビジネス機利用客の観点より考察すると;

a.遠距離飛行の利用料は日本-米国東岸で商用便ファ-ストフルフェア-で2百万円(競争激化で一般ビジネス利用者は40~100万円程度で済ませる)、ビジネス機で35~40百万円(燃料代の高騰で大きく変動するが)と両者の運賃差は比較検討対象にも成らない。

b.航空会社は遠距離飛行にはビジネスクラスでも座席が180度リクライニンするとか、A-380のジャンボ機の投入で座席スペ-スの大幅な拡張、シャワ-付き、ラウンジ付き、一流レストラン並みの機内食の提供等高単価顧客のビジネス客の取り込みに注力、最早商用便のサ-ビス内容はビジネス機を上回るレベルに達した。然も、「金で時間を買う」ビジネス機の利点も商用機とHeavy Jet間では飛行速度に差異は無くビジネス機利用のメリットは活かされない。

c.この程度の知見は80年代海外で活躍した企業マンで有れば常識で中/遠距離飛行にビジネス機を利用する大手企業のビジネスマンは過去四半性~半世紀、特殊事例を除き皆無に近い。即ち中/遠距離飛行に商用便を利用する事は「確立された商慣習」

d.この背景には日本は「一億総中流」と海外と比較して相対的に「所得格差」が少ない社会。海外での事業展開で活躍する大手・中堅企業の幹部と言えども「サラリ-マン従業員」で企業の所有者である株主への「費用対効果」の「説明責任」を負い、「社内規定」に忠実に従う「コンプライアンス」義務の遵守をする必要があり、商用便とビジネス機の格段の利用運賃差の現実を踏まえビジネス機の利用を正当化する事は不能。

e.2000年代半ばには、数少ない日本の民間の中/遠距離飛行に必要なHeavy, Mid-Jetも海外に拠点を移し、民間に現存する日本国籍のHeavy, Mid-Jet は1機と言えどもない。但し、国防その他官需と言う経済性とは異次元のHeavy, Mid-Jet機利用の為、自衛隊、海上保安庁、国土交通省が55機 (Light Jet と双発タ-ボ機を加えると145機) 保有して居り、海外に比較しても決して遜色はない。

f.更に、遠距離飛行のHeavy Jet では18人程度の乗客を乗せる事で、運賃単価は下げ得るが、これもコミュ-タ-機を含めた商用便各社が「不定期チャ-タ-便」を提供するので日本ではその方がコスト的に安い。各社が競って「何々旅行パッケ-ジ」、「学校の海外団体旅行」、「北京オリンピック参加ツア-」、「正月初日の出や金環食の空よりの鑑賞」、ビジネス業界ではIMF,世界銀行の年次総会には日本の高級官僚、金融界トップにファ-スト座席を拡張したワシントンの直行便が提供され、政治家や、業界の団体視察旅行にも特別チャ-タ-便が用意される等あの手この手と顧客の取込みが行われ、こう言った相対的に割安な航空運賃にビジネス機が対抗する手立ては無い。日本人の「団体行動好み」の対極にある、ペライバシ-を強調するビジネス機の利用も文化風土的にしっくり噛合わない側面もある。

g.一番大きく見落とされている事は欧米よりのビジネス機の飛来は年間数百機程度。利用者はVIP, セレブ等の特殊階層者で一般ビジネスマンは大手企業の幹部でも定期商用便の利用者が圧倒的。「欧米のビジネスマンがビジネス機で世界を股に懸け飛び回っている」のは「事実誤認」。利用して居るのは一握りのカリズマ経営者。日本でもゴ-ンズ日産会長は居るが例外中の例外。

8.諸種の事由は有ろうが、少なくとも過去四半世紀、日本の大手・中堅企業の幹部が中/遠距離の海外旅行にビジネス機の内外の国籍を問わず利用する事は殆どなかったし、況して上級管理社員、スタッフや専門職がビジネス機を利用する事は無かったが、それ故に不都合や不便が生じた共考えられない。欧米先進国でも、一般企業マンが中/遠距離飛行にビジネス機を利用する事は無い。米国内でも、一般ビジネスマンが1回に利用するビジ円隙の利用時間は1.8時間。片道54分に過ぎないが、これより短い利用も多い。

近隣諸国へのビジネス機の利用

1.ビジネスジェット機と言っても日本にはLight Jetしかなく、行動半径も3,000㎞Max。実際には、韓国、中国旧満州南部、ロシア領沿海州程度しか飛べず、2012年にも年間12回程度の飛行実績で、日本全土より1カ月に1機飛ぶ程度の無きに等しい話。

2.他方韓国、中国からの訪問機は年間何千機あるが、これの復路を日本人が利用すると言う選択は有るが、商用便で羽田-北京往復のファ-ストフルフェア-30万円、ビジネス20万円に対してビジネス機で有れば1,000~1,500万円位はするので「ステ-タスシンボル」として利用する「新興企業客」を除けば一般ビジネス客が利用する事は無い。

3.中/遠距離飛行同様近隣諸国でも商用便やチャ-タ-便がビジネス機の利用料とは桁違いの安さで幾らでもあるので、一般ビジネス客がビジネス機を利用する事が無い事は過去10~15年の歴史を洗えば「事実」がこれを実証している。

海外現地でのビジネス機の利用

1.日本は60年代より海外企業進出を果し現在もその延長線上のプロジェクトも多いが、最初に染手したのが「資源開発」。穀物・油脂・塩・食肉・農産物・水産物等の食料資源、鉄鉱石・銅鉱石・ボ-キサイト・石油・天燃ガス・石炭等の鉱物資源、木材・パルプ・羊毛/綿花等の製紙・衣料原料、その他工業諸原料の輸入。これを加工し製品輸出で稼ぐ「貿易立国」を戦後国是として来た為、海外渡航規制が緩和された50年代末~60年代初期、これら海外進出が真っ先に開始された。この種資源は都市圏より遠隔の地域で事業化されるので、交通アクセスは難しく、商用便も運航して居ない場所が大半。移動には、ビジネス機を含むジェネアビ機の利用が不可欠。

2.日本人の食卓に欠かせないマグロやウナギが、60年代初頭より地中海・大西洋より冷凍マグロで輸入され、ウナギの稚魚がフランスのセ-ヌ河や米国ミシシッピの河口で捕獲され日本に空輸され浜松等の国内産地で養殖された歴史を知る人は少ない。衣食住に事欠かない現在、その原料の大半が世界の遠隔地から来る事はス-パ-で買物をして原産地を確かめない限り自覚は無い。TPPで畜産物の輸入自由化は「聖域」として触らないとの提案もあるが、日本は「食料の安全保障」を期する為60年代より海外で大規模牧場を日本企業が自社リスクで経営して来た事は語られる事は少い。養豚等は何百万頭も一牧場で飼育されるが、疫病の蔓延は事業的に致命傷。故に、最も人里離れた遠隔地に牧場が存在し、ビジネス機を含めたジェネアビ以外アクセス手段は無い。同様に日本の畜産を支える畜産飼料は、穀物メジャ-との提携で日本企業が穀物用サイロを所有し、米国中西部、カナダ西部より安定供給を図っている。この様な農畜産原料は主要都市より遥かな遠隔地で生産・集荷される。

3.日本の先駆的企業は、60年代後半~70年半ばには、日本から海外の主要空港迄商用便、そこから先は、地域航空か、補完的にビジネス機を利用すると言うパタ-ンが定着し今日迄続いて居るし、これを覆す合理的事由もない。グロ-バル時代、「空に国境なし」を先取り実践して来たのが日本企業の実像。日本がビジネス機の利用で世界に遅れて来た等と俯く事等は全く不要。日本は過去半世紀、中/遠隔飛行は国策による「大量輸送方式」による商用便の低価格運賃を利用、現地でニ-ズに応じビジネス機を補完的に利用する「経済合理性」に基く賢い使い分けを行って来た事を胸を張って誇れる立場にある。

4.敢て必要な事項を挙げれば、海外の事業展開でニ-ズに応じビジネス機を含むジェネアビ機を利用して来た企業も「知る人ぞ知る」でビジネス機の知見は利用経験のある一握りの社員に限定される。世界を股に懸け雄飛するとのイメ-ジがある日本の商社マンでも半数以上の社員は「ドメセン」と呼ばれる国内取引専任。海外駐在経験のある社員は多数いるが、殆どが海外の主要都市での駐在経験者ではあるが、ビジネス機等利用した人は数える程しかいない。(遠隔地での事業出向者に限定される) ビジネス機を話題にしても、「その様な高価な乗物の利用とは無縁で考えた事もない」と言うのが一般的コメント。従って今後益々海外事業展開のニ-ズも規模も拡大する事が予測される中で、実際の利用例を汲み上げ「事例集」として纏めて如何なる環境下で如何にして利用するかの広報活動の必要性はある。中には30~40年の利用歴史を持つものもあり、永い経験に基いた貴重な知見の蓄積は参考にすべき点も多々あろう。

国内でのビジネス機の利用

1.拾い方にもよるが、本サイトで記載した「双発タ-ボ機+ジェット機」の「狭義のビジネス機」は2012年の時点で35機。然も中/遠距離飛行用のHeavy, Mid-Jetが 1機も無いのは世界第3位の経済国には不釣合いとの指摘が行なわれて来た。

2.現実は、「費用対効果」対「説明責任」を株主に負う民間企業はHeavy, Mid-Jetを1機も保有していないが、自衛隊、海上保安庁、国土交通省の「官」の保有機は55機有り、然もBoeing 747, Gulfstream   G-550,G-V,G-IV Bombardier Global Express等ビジネス機の最上位機種が綺羅星の様に並び、諸外国に比して何の遜色も無い。寧ろ、日本は国策で「大量輸送方式」の育成に注力する事で、世界の政治・経済中心地より最も離れて居ても、比較的安い運賃で長距離の海外渡航が可能と成り、民間企業は「費用対効果」の観点よりHeavy, Mid-Jetは保有せず、国内用のLight Jet,マイクロジェット機でさえ、「費用対効果」は「自己責任」処理可能な中小のオ-ナ-企業10社強のみが利用し、大手企業は1機も保有していない。「費用対効果」の評価を徹底・実践化した模範的な国家と言える。

3.それではビジネス機は日本国内で利用されないかと言えば、日本は空疎な「虚栄や外聞」を排し、「費用対効果」の評価に基く小型ピストン機や回転翼機と言った「広義のビジネス機」を1,000機近く利用して来た。これも堂々と胸を張って内外に発信出来る現実。

4.さはさり乍ら、Heavy, Mid-Jet機の1/50~1/100 の機材でも交通大国日本の安価な地上交通機関の利用料との相対的比較では競合出来ず、その利用も限定的で、過去20年、利用は頭打ちよりやや減少傾向。

5.幸い、欧米とて一般利用者を掴むにはより安く、より高性能の機材提供、より機材の利用効果を挙げる為、個人や個別企業が高度の専門的知見を有する運航業者よりon-demand charterを始め各種の運航委託(アウトソ-シング)をする事が世界的なトレンド。日本も安価、高性能な機材の入替え、利用率向上、整備・運航等の効率を高める保有・整備・運航の業務集中・統合を行う仕組みを整備しなければ地上交通機関との競合は果し得ない。但し、この様なインフラ整備の地合いは整って居り、工夫と努力次第で今日でも実行可能。

内外の業界関連団体との連携

1.本サイトでもご紹介した通り、過去十数年ビジネス機関連の多くの団体が誕生し、或いはそれ以前の遥か昔より存在する内外の関連団体との関係も構築されたが、成果を産む機能は発揮されて居ない。一例として、1996年5月海外の大手ビジネス機製造メ-カ-の代理店を努める大手商社、企業がJBAA (日本ビジネス機協会)を設立、2001年NBAA (全米ビジネス航空協会)、EBAA (欧州ビジネス航空機協会‐傘下に英・独・仏・伊各国のビジネス航空協会が個別に存在する)、IBAC (国際ビジネス航空協会評議会-上記) NBAA,EBAAに加え、カナダ、豪州、ブラジル、中国、ロシア、中東等計15ヵ国のビジネス航空協会により構成) 等との関係も構築、年次総会に日本も出席するが、それ以上の関係には発展しない。ジェネアビ航空ではGAMA (ジェネアビ航空機製造業者協会) 回転翼機でも米国ヘリコプタ-協会、米国ヘリポ-ト協会と日本側の関連団体との関係はJBAA設立遥か以前より続いている。日本の最大の課題はビジネス機を含むジェネアビ機の「市民権」が確立して居らず、従って、先進国では唯一米国のFAR Part 135に相当する様な運航ル-ルさえ整備されて居ない国である。これ等、GAMAを始めとする諸団体に頼めば即米国運輸省、FAA (米国連邦航空局) が外交ル-トや関連諸団体を動員して日本の法制整備に手を貸そう。海外の先進的な知見の蓄積とそれ以上に「空に国境なし」の時代に日本を訪問する外国機との法制・運航上の整合性   (Harmonization) の重要性は欠かせない。中東は地理的にも近いアフリカ諸国とのビジネス機運用の統一ル-ル確立にGAMAに援助を求め、GAMAは無論快諾した。ヘリコプタ-の運航に就いても、Garmin社の機器を搭載した機材は計器飛行の認可が下りるので、最近は小型機を含め型式証明取得の段階でGarmin器を搭載して計器飛行可能な機材として型式証明を取り付けている。無論依頼さえすれば、Garmin社、FAA等悦んで日本の計器飛行の認可プロセス構築に援助の手を差し延べ様。「求めよさらば与えられん」。グロ-バル時代特に「空に国境なし」の業界で、国際的な関わり合いを積極的に求めなければ何事も進まないが、こちらが「求めれば」「与えられる」時代である。逆に海外で生活すれば直ぐ分かるがこちらから「求めなければ」何事も起きない。

2.国際的な関り合いの重要性を強調し過ぎる事は無いが、「グロ-バル」を主権国家の国境を越えると言う以上に「己が生きる小さな世界より」外の世界に関わりを求めると言う自覚を持つ事が肝要。ビジネス機促進の議員連盟は自民党、民主党と別々に存在し、立法府とは別に国交省の様な行政府、地域航空促進の機構もあれば、地方空港活性化の諸機構があり、東京都も都市整備局が横田空港利用の企画を練り都心のヘリポ-ト建設の許認可権を握る。ヘリコプタ-関連の諸団体は永年都心ヘリポ-トの建設を嘆願しているが実現に至らず、報道関係企業が依頼すれば、六本木ヒルズ屋上にヘリポ-トが建設される。航空機関連の諸団体の名はインタ-ネット上溢れる程公開されているが横の連携に見るべきものが無い。その一方、ビジネス機の一般利用者への普及を望む声は多いが、反対する声は聞かれない。皆の望みを誰かが求心力を発揮し「3本の矢」として収斂、結束する事が日本に残された最大・最後の課題。

3.「縦割り社会」の日本では個々の分散・孤立した努力が中々成果に繋がらない状況を「蛸壺に入る」と表現するが、ワシントンではサイロ(穀物のサイロが並立し相互に関わり合わない状況)と呼び万国共通の問題。故にNBAA (全米ビジネス航空協会)は年一度世界中より関係者が集う場を提供し、共通の問題を語り合い、米国はもとより各国の参加者より自国政府や関係者に働き掛けるのがConvention開催の目的。本総括にも述べた通り全ての問題は過去半世紀の間に洗い出し尽くされ、民間の商慣行としてビジネス機と商用便の使い分けも確立・定着して居るので、残された課題は国内での地上幹線交通機関との補完的な小型機・回転翼機の利用の工夫で、これもコスト問題と必要インフラの整備と問題点を絞り込み対応策を工夫、実行に移せば解決可能な課題と考えられる

実需家、潜在的利用者の声の汲み上げ

1.日本で小型機、回転翼機を含めた広義のビジネス機の普及が今一なのは、利用者の声や、ニ-ズが反映されて居ない為。各種の業界や業界のイベントも開催されて来たが、参加者は政府、自治体、空港関係者、ビジネス機メ-カ-の代理店、運航業者、ハンドリング会社、整備会社、保険会社等ビジネス機の利用拡大を望む供給者側のサプライサイド。一番肝心の実需家、利用者の声を汲み上げ俎上に乗せる事は避けられて来た。故にデマンドサイドは関心を示さず、歯車は全く噛み合って来なかった。

2.「身も蓋もない」と言われるかも知れないが利用者側にも様々な要望はあろうが、玉葱の皮を剝いて芯を探れば、既存の各種交通手段に比較してビジネス機の利用コストは競合可能なのか?と言う一点に絞られる。現在日本で運航しているLight Jetの利用料は¥1,000~1,800/㎞で目標は¥1,000/㎞でこれを切るのが夢。他方、商用便のファストフルフェア-で¥50/㎞、新幹線のぞみのグリ-ン車で¥35/㎞、一番高いタクシ-代でも¥330/㎞。国交省の最近の統計では商用便の国内線の「輸送人キロ当りの旅客収入」は商用便で¥12.1~18.0/㎞、LLCで\5.8~7.5/㎞。企業マンがLLCの運賃を参考にする事は無かろうが、少なくともタクシ代の¥330/㎞は一つの目安と成ろう。試しにビジネス機でその様な運賃が提供可能か洗った処、なんと小型ピストン機で¥275/㎞が昔から提供されて来た。

3.「事実を持って語らしめる」のが現実に密着した企業判断を下す「黄金律」。これに則した洗い直しの結果は;

a.日本で事業目的として利用されている航空機は小型ピストン機と回転翼機が圧倒的。機材コストも殆どが1億円以下。30~50百万円位の機材が多く、数10億円のHeavy Jetや10億円前後のLight Jet も「VIP送迎用」以外出番は少ない。

b.固定翼機は利用料の多寡もあろうが、離発着する空港が必要なので利用は限定的。都心の場合、調布、横田、阿見、大利根、茨城、ホンダの各空港へのアクセス問題に加え関東甲信越経済圏では福島、新潟、富山、松本、静岡位しか着陸地点が無く訪問先にもよるが交通のアクセスの補完手段としては限定的。

c.回転翼機は25~50万円台の低価格帯の機材が増えて居るがビジネス客の2点間輸送に利用するには都市中心部、幹線鉄道駅付近のヘリポ-トの設置、計器飛行による気象に極端に左右され無い交通の足としての信頼性、それ以上に運航の集約化による利用率の向上等課題は未だ多いが、工夫次第で克服可能。

d.今一つ、最も肝心なのはビジネス機の利用コストと既存の交通手段との単純なコスト比較では無く、「時間を金で買う」ビジネス機のメリットを評価する評価方法の確立。これは、NBAAが既に数百㌦程度でソフトを10年以上前から市販して居るのでこれを「日本版」に手直しすれば事足りる。日本は長らく人口過剰と「完全雇用」の呪縛で社員コストは「ただ」と計算して来なかった付けで今日でもキチンとした社員コストを割り出して居ない企業が多い事に繋がる。無論、先進的な企業は70年代後半~80年代前半にTQCを導入、社内のコスト削減に利用したが、努力を継続的に行った処が現在「勝ち組」として評価されている。企業コストは業種や企業形態により大きく異るが、大掴みには大企業で¥30~50,000/時/人と言われる。簡便法では決算期の企業のネット利益を総従業員数で割り、年間2,000時間(250日x8時間/日)で除せば割り出せる。先進的な企業では直接費用及び間接費もキチンと配賦するが、間接費には損金の償却、減価償却、金利、税金、配当コスト等全てを配賦している。従って、所属部局、社内での地位によっても従業員一人のコストも違う。ビジネ機利用のメリットは当然乍ら幹部社員で有れば相対的に大きく成る。1泊2日の出張をビジネス機の利用で日帰りで済ませれば、所要時間の短縮に伴う人件費の節減に加え宿泊費や飲食費も節減出来る。これらの節減費用と他の交通手段利用の利用料の絶対値の比較で「費用対効果」の評価が行なわれる。ビジネス機利用による肉体的負担の軽減、快適性と言った「定性的メリット」も加味される。この様な評価基準無くしてビジネス機利用云々を語る資格はない。欧米では当り前の事ではあるが、日本では未だ充分に理解されて居ない。

e.以上をキチンと勘案すれば、何故日本でHeavy,Mid-Jetが全て官公需で民間に1機も存在しないのか、何故Light Jetが一部中小オ-ナ-の持物か「VIP送迎用」か、何故日本の圧倒的多数の「広義のビジネス機」が1~2億円以下の低価格帯機材なのか、それすらもビジネス客の一般的利用に繋がらないのか理解出来よう。

f.市場、利用者のデマンドサイドの参画無くしてビジネス機の一般的普及は実現しない。市場・顧客のニ-ズを汲まない消費財のマ-ケティング等あり得ない。ビジネス機を「ビジネスツ-ル」として企業マンの足として提供するのであれば立派な「消費財商品」。「消費者が王様」の鉄則に徹する事で始めて道は開ける。

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