2013年08月15日(木)11時07分

(27) 日本に馴染む低価格帯ビジネス機

 

大手軍用機メ-カ-General Dynamicsは1999年クライスラ-傘下のGulfstream社をクライスラ-社のリストラの折に買収(クライスラ-社は1985年グラマンの仔会社であった同社を買収)したが、Fractional Ownershipのビジネスモデルを世に出したベンチャ-企業NetJetsと90年代に提携、NetJetsに米国の大富豪ウオ-レン・バフェットが資本参加する事で急成長、ビジネス機の需要は爆発的に伸びた。高額な機材を買っても、年500時間利用しないと採算に合わないビジネス機を分割所有する事で「一般の利用者」も購入出来る仕組みが出来上がった。但し、此処で誤解が生ずるのは「一般の利用者」と言っても、分割所有は1/2~1/18迄可能だが、仮に36百万㌦(最上位機種でも無い)を18人が分割所有しても1人2百万ドルは懸る。無論機材を購入しても、毎年多額の保守・整備費、運航実費、更にマネ-ジメントフィ-を取られるので、「一般の利用者」と言っても富裕層か企業が所有する事と成る。企業の場合は、機材の償却は経費で落せるので節税効果がある。米国では(日本でもそうだが)中小企業のオ-ナ-がビジネス機を所有・利用する事が多いが、自己資金が有る上、節税対策としても利用出来る。更に、航空機は安全性第一なので、厳しい保守・整備の縛りがあり、中古機の価格は下がらないか、場合によっては購入価格を上回る、「キャピタルゲイン」さえ望めると言われた。2008年のリ-マンショック以降のグロ-バルな経済低迷で化粧は剥げ落ち、現実が顕わに成った。中古機の「キャピタルゲイン」は砂漠の地方空港が休眠中のビジネス機の駐機場と化し、ビジネス機を換金して資金繰りに用立て様としても買い叩かれ「キャピタルゲイン」の幻想はバブルと共に消え去った。市場は産油国、中国等の超富裕層が「ステ-タスシンボル」として最上位機種を争って買うので、上位機種は売れるが、「一般の利用者」向けの中小機種は売上半減の惨状で、大手Hawker-Beechcraft社は経営破綻、Citation社は赤字転落。Hawker-Beechcraft社は一度中国に買収されたが、国防上の懸念から買収許可が得られずカナダ資本に転売された。この間、「一般利用者」用には、より低価格の1機3~4.5百万㌦のマイクロジェット機が開発されたが、これとて買い筋は富裕層で、現在は1百万㌦(一億円)前後の機材の開発にしのぎを削って居る。

話を日本に戻すと、この様な事態は90年代のビジネス機ブ-ムの遥か以前より日本では経験的に分かって居り、日本のビジネス機市場は90年代半ばには0.3~1.5百万㌦(3千万~1.5億円)の低価格帯の機材が日本のビジネス機の大半を占めた。その後、海外のエア-ショ-に並ぶ高額なぴかぴかの新鋭機が紹介されたが、機材そのものは航空機マニアの垂涎の的であっても、「笛吹けど踊らず」、10数年を経た今日、日本の民間には15~65百万㌦(15~65億円)するビジネス機の上位機種は1機も存在しない。この様な、高額の機材はビジネス機の定義の範疇外の軍用・公用のみと言う皮肉な結果に終わった。高額の機材が必要とされる、海外飛行は「大量輸送」の利を活かした定期商用便がビジネス機の運賃の何十分の一と言うリ-ズナブルなコストで利用可能なのでこれを流用。これを日本の「後進性」と見るか、日本人の「冷静な合理性」の判断の賜物と見るかは読者のご判断に任せる。

何れにせよ、「一般利用者へのビジネス機の普及」を旗印とするNBAAを始めとする海外のビジネス航空関連諸団体は低価格帯機材を最早看過する事は出来ず、最近のConventionではこれら低価格帯機材の特別セミナ-も開催、業界誌も大手ビジネス機メ-カ-を伝統的な大手航空機会社(Legacy Carrier) になぞらえ、この種新興低価格帯機材供給メ-カ-をビジネス機LLCと呼んでいる。よそ様の国情は別として、日本は元々低価格帯機材志向の伝統が根付いている。後は、新鋭低価格帯小型機が海外市場にデビュ-した後、その評価を待てば良い。この手の機材は、性能も向上し、特にAvionicsの長足の進歩で小型固定翼機、回転翼機の機器飛行も可能と成り、これを日本が活用しない手は無い。最近の低価格帯機材を簡単に羅列するが、狭い国土で競合交通機関が高度に発達して居る日本に最も馴染み易い機材と考えるのは筆者だけか?

 

マイクロジェット機

 

機種名

現  状

価 格

航続距離

巡航速度

乗客数

Mustang

世界386機日本4機

$3.28MM

2,130㎞

630㎞/時

5人

Phenom 100

世界133機

4.4

2,182

722

4~5

Eclipse 500

世界272機

1.6~2

2,100

685

4~5

Honda Jet

受渡2015年以降

4.50

2,600

778

5~6

SF-50

受渡2015年以降

1.96

2,200

555

5

 

マイクロジェット機の歴史は浅く、ホンダジェットは2013年春の本格出荷がエンジン等の型式証明取得が大幅に遅れ、実際に市場に出るのは2015年に成ると言われる。Eclipse 500はこの種ベンチャ-企業の全てが味ったリ-マンショック以後の金融不安で資金供給が途絶え経営破綻に追い込まれた。同社の最大の需要家で新しいエアタクシ-の旗手と目されたDay Jet も破産した為、生産を2008年10月に中止した。その後Chapter 11より再生し、現在は最大の顧客はカナダのLinear Airで、トルコの運航会社が最近Air Taxiとして検討中と伝えられる。Linear Airは、米国ボストン郊外の周辺空港を拠点とし、ニュ-ヨ-クやワシントンに商用便のファ-ストクラスより安い運賃でエアハイヤ-的サ-ビスを提供している。郊外の高級住宅地に近く、顧客のニ-ズに合せ、商用便のファ-ストより安い運賃を提供するビジネス機に準ずるサ-ビスを提供するビジネスモデルである。トルコもイスタンブ-ル空港を世界最大の空港とし、中東、北アフリカ、地中海・バルカン諸国、中央アジアの産油・産ガス地域にエアハイヤ-、エアタクシ-的サ-ビスを提供する構想。欧米ではマイクロジェット機はAir Taxi用に注目されたが、未だ試行錯誤中。最も成功して居るのは英国で、ロンドン郊外のHeathrow-Gatwickや他の空港間の移動に利用者が多い。(ロンドンのビジネス機空港はFarnborough, Stansted, Luton等の二次的周辺空港)日本の成田-羽田に類似の事例は有るが、日本の場合、小型機のスロット枠の取得に制約があるので、後述の回転翼機の利用の方が現実的。マイクロジェット機は時期的にも、先行して居たCitation社のMustang が最も多く売れて居り、日本にも4機が輸入されている。マイクロジェット機は未だ揺籃期で後続会社の旗手が出揃う2015年以降迄様々な模索が続くであろう。

小型固定翼機

 

 

現  状

価 格

航続距離

巡航速度

乗客数

Cessna 172

日本179機

$0.3MM

1,250㎞

222㎞/時

3人

Piper   PA-28

日本59機

0.46

1,500

245

3

Cirrus 22

世界169機日本2機

0.72

1,950

339

3

Baron G-58

改装した新型機が市場参入

1.1

1,900

350

4~5

Nextant   400XT

新規参入で世界40機

1.5

3,700

850

8

Corvalis   TTX

市場参入開始

0.65

2,300

435

3

 

Cessna 172やPiper PA-28等は同レベルの競合機種と共に少なくとも過去四半世紀日本のビジネス機の中心的存在であった。古い機種だけに各種の改良機種等バリエ-ションが多く、2012年に登録されているCessna 172は179機と言っても同シリ-ズの合計なので表示される価格・性能等も大雑把な参考値にしか過ぎない。国内での利用で有れば1,000㎞程度は楽々カバ-可能であり、これ以上の上位機種は必要とされない。こちらも新鋭機が続々と市場に投入されるので海外での評価を待って古い機材の更新を考えれば良い。

 

回転翼機

 

機種名

現  状

価 格

航続距離

巡航速度

乗客数

R-22

世界3,091機日本66機 $0.276MM

480㎞

178㎞/時

R-44

世界3,452機日本99機

0.442

555

215

3

R-66

新規受注380機日本3機

0.83

600

231

5

AS-350

世界2,313機日本87機

2~2.5

686

246

5~6

Bell 206B

世界6,123機日本49機

0.9~1.2

554

219

4

SLS

Heli-Expo   2014で詳細発表

1?未定

未定

未定

未定

 

既存の回転翼機では「一般普及」は図れないとロビンソン氏が25万ドル程度の「価格破壊」的R-22を世に出し業界に大きな衝撃を与えた。2012年初頭、処女機発売以降10,000機出荷の偉業を成し遂げた。流石にR-22では ”Entry Level” で最近はR-44に切替っているがこれとてレシプロ機。2010年暮れにタ-ビン機のR-66を世に出して、100万ドルを切るタ-ビン機が出現、競合メ-カ-のEurocopter社、Bell社は安閑としては居られなくなった。いつ100万ドルを切る対抗機種を発表するか周囲に迫られている。Eurocopter社はEC-120を出したが割高で、本年末から生産コストの安い中国ハルピンで生産を開始する。Bell社は先月パリ-のエアショ-で206Bの後継機SLSをHeli-Expo 2014で詳細発表すると言うに留まった。何れにせよ, 1百万ドルの大台を挟んだ攻防戦が熱気を帯びて来た。R-66の2012年の出荷機数は88機。市場の強い需要に応えRobinson社は2013年度の生産計画を265機と大幅に増加、2013~2012年の生産予定機数を2,760機とこちらも大幅アップした。2013年の生産機数はこの数字に近付こうが、寧ろ型式証明取得の事務手続がネックで、本年はこれの改善に注力している。2013年初頭、380機の受注残を抱えて居た。3月のカナダ、5月のロシアに続き日本でも待望の型式証明が本年6月に取れ、型式証明が取れた国は20ヶ国に達した。その間その3倍近い価格のEurocopter AS-350が毎月日本で新規に登録されている。日本の業界は低格帯回転翼機が日本の土壌に馴染む事はつとに認識して居り、その方向で動いている。

蛇足に成るが、1億円台の攻防と言っても、実際の市場では小型中古機の取引も多く安いものであれば1千万円を切る機材も出回っている事も念頭に置くべき。米国では繰り返し述べるが、「一般の利用者」が利用するのはエアショ-に並ぶぴかぴかの新鋭機では無く、中古の小型ジェネアビ機が多い。企業の「一般利用者」も「蟻部隊-Rank-and-File」では無く、管理層のスタッフ(費用対効果が正当化出来れば社費での旅費精算が可能)やプロフェッショナル(医師、弁護士、会計士、コンサルタント、学者等は費用の一部としてビジネス機の利用料を顧客に転嫁可能)。コスト切り詰めに諸外国以上に厳しい目が光る日本では、ビジネス機利用による時間節減を人件費節減に換算した上で、競合交通機関の利用コストに対して比較優位性が実証されなければ「ビジネス機の一般普及」は実現しない。「地に足が付いた」企画には海外で次々に登場する低価格帯新鋭機への目配りが欠かせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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