2014年03月22日(土)02時44分

(14-08) ビジネス機統計の精度

 

毎年桜の開花予報が流れる頃、ビジネス機業界でも前年の各種統計の集計が終わり刊行物として出版される。最近は、インタ-ネットでリアルタイム(と言っても月遅れ)で統計が発表され関係者は市場動向を的確に把握出来る様になったが、本サイト開設後1年以上が過ぎ、デ-タ-の正確性を期す為複数のデ-タ-ベ-スや業界情報を収集・分析・比較し、改めて関係者が一様に信用して居る統計数値の精度の粗さを認識した。

ビジネス機の統計は日本は国交省の航空機の登録/抹消記録が月遅れで公表され、年間の集計は民間の出版社が刊行する「日本航空機全集」に纏められ、本サイトもこれを流用している。海外でも無論航空機の登録記録は有る。他方、海外の一流調査機関のデ-タ-で35,000機程度が収録されて居るものもあれば、7~80,000機が記載されて居るものもある。後者の場合、デ-タ-間に10,000機位の差も見られる。極め付けは、本年2月11~16日開催されたシンガポ-ルエアショ-(本サイト14-04シンガポ-ルエアショ-2014参照)で事前にアジアのプライベ-トジェット機数の数値が発表された。この種統計の最も権威あるデ-タ-は供給メ-カ-の出荷実績の集計値でアジアの既存機数は900~1,500機とされた。当のメ-カ-でもこの程度のラフな幅でしか推定出来ないのかと思われる向きは、シンガポ-ル、香港、マカオ等で実際にビジネスジェット機を運航している欧米の一流運航業者の推定値750~1,500機を見て倍の幅があるのかと驚かされる。民間のデ-タ-ベ-スで最も利用される業界誌Flightglobal 社のデ-タ-ベ-スより類推した既存機数は1,200~1,500機。又、2月24~27日にカリフォルニアで開催されたHeli-Expo2014(本サイト14-07 Heli-Expo2014参照)に間に合せた、GAMA (General Aviation Manufacturers Association) の2月19日集計値はExpoの主題でもある回転翼機のデ-タ-も包含している。GAMAは名が示す通り、「ジェネアビ機」の世界の主要製造メ-カ-20数社が正会員でありメ-カ-の出荷統計として最も権威ある統計として関係者間で利用される。「ジェネアビ機」の業界団体なので軍用と商用の航空機は除外される。夫々のデ-タ-ベ-スの日本の数値を比較すると「日本航空機全集」記載の数値とも異る何れの数値が正しいかと言う設問は実態を見誤る事と成り、特に日本では過去十数年何故ビジネス機が利用されないのかとの疑問の基本問題に触れるので今回敢てトピックスとして取り上げた。

(1)    ビジネス機とは何かと言う法的定義の欠如(本サイトライブラリ-4.「ビジネス機のコンセプト」参照):GAMAの統計は「ジェネアビ機」の統計で「ジェネアビ機」=「ビジネス機」では無い。「事業の営利目的」に利用されない機材は除外される。日本では単発ピストン機や低価格帯回転翼機は飛行機愛好家が趣味・レジャ-として利用するものは除外される。より難しいのは自家用機が事業目的にもレジャ-にも共用されている事例で線引きは事実上不可能。

(2)    「軍用機」は無論除外されているが、民間機の筈のビジネス機仕様」の機材が海外ではビジネス機統計として記載される。日本の自衛隊機で有っても統計に現れる。又、官公庁(警察、消防を含む)、自治体の公用機も含まれるので拾い出して除外する作業が必要。日本ではビジネス機の20億円以上の上位機種は全て防衛省を含む「官公需」と世界に類例を見ない特殊国なので海外統計との食い違いも大きい。

(3)    ビジネス機の機数が桁違いに多い海外では登録・運航・休眠・中古市場での販売待ち機数迄細かくデ-タ-ベ-ス化されているがこれをどの様に表示するかで全く違う数値が示される。

(4)    アジアの場合、ビジネス機の所有者は地場の財閥、超富裕層、権力者等の「特権階層」の為、世論の反発を避け、或いは節税の為海外例えばTax Havenでの登録が為されるが、当該国の統計には現れない。東南ア諸国では欧米の国別保有機のデ-タ-ベ-スに現れない、日本を上回るビジネス機数を保有して居ると推測される。

(5)    日本に限定すれば、「日本航空機全集」記載の数値が最も信頼性の高い統計だがこれでも次の諸点に留意が必要

a.暦年の統計では有るが次年度の登録も原稿(3月下旬)作成時に間に合えば加算されるが抹消もどの点で拾うかにより数値が振れる。日本のビジネス機の保有機数は過去10年近くほぼ横這い、誤差範囲内なので神経質に成る必要は無い。

b.それよりも、双発タ-ボ機、双/多発ジェット機と双発回転翼機の大半が商用機、コミュ-タ-機、「軍用」「公用」なのでビジネス機の定義に該当する機材を拾い出さなければ成らない。2012年末の実績では双発タ-ボ機97機の内11機、双/多発ジェット機530機の内24機、多発回転翼機431機の内110機がビジネス機と目されるが、全体に占める比率は極めて小さい。

c.その一方、1,000機を優に超える低価格帯の小型固定翼機、回転翼機が「広義のビジネス機」として存在し、一部は事業目的か、レジャ-かの線引きは難しいが実在し、本サイトもこの種「広義のビジネス機」の推定機数を掲載している。

d.「広義のビジネス機」を考慮しなければ、日本は「ビジネス機小国」とのイメ-ジを抱かせるが、日本の98空港全てに商用機、コミュ-タ-機がビジネス機の1/50~1/100の運賃でサ-ビスを提供して居り、米国の様に、30,000の空港の内商用便が就航して居るのは2,500空港それ以外はビジネス機を中心としたジェネアビ機を利用する以外選択肢はないと言う実態とは根本的に異る。

e.日本では、空港さえない離島等に回転翼機によるコミュ-タ-便が運航している。生活の足として自治体等の補助もあるが海外では採算に合わない便は飛ばさないので自家用機による「自力本願」以外に選択肢は無い。

f.斯かる諸点が全て勘案されねば成らず、本サイトは単なる統計上の単純な保有機数の多寡で一喜一憂する愚を避ける為に敢て情報提供を行っている。

 

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