2016年02月03日(水)02時42分

(16-02) 海外業界誌が注目する2016年度の課題

 

 

年の初めに、内外の定期刊行誌にその年の関連業界の各種課題に就いての予測記事が記載されるが、ビジネス機或いは関連航空機業界記載の話題の幾つかを拾い出して見た。

中東の湾岸航空会社より今年航空機のメガ発注が在るか?

湾岸のEmirates, Ethihad, Qatar各社は確実に航空便市場での存在感を増しEUとは真っ向から対立、米国の航空会社も警戒の度を高めている。湾岸各国は何れ石油資源が枯渇する事を予測、オイルマネ-の投資先として航空サ-ビス業の育成に注力して来た。欧米が殊更神経質に成るのはこれが国家的戦略である事、育成に必要な巨額の資金は豊富なオイルマネ-で賄える事、航空機の大きなコスト要因である燃料は自国生産で賄い原油として輸出するより自国の航空機の燃料として競争力のある運賃を提供し乍らも石油に付加価値を付けられる事、更に欧州、アジア、アフリカの結節点と言う地政学上の優位性を活かせる事、そして最後にユダヤ・キリスト・イスラムの3大宗教の誕生地として演繹的な世界観で遠大な戦略を持てる事等の複数要因が存在し、然もこれらの諸要素を束ね現実に既存の航空便会社と対等以上に競合市場での実績を挙げている。従って、既存の航空便会社としては脅威と映るが、航空機供給メ-カ-としては魅力的な市場と言う事に成る。不安定な中東の状況の中で中東各国が争って軍用機を購入するので、表立っては言わないが、航空機供給メ-カ-には「金の卵」で米・英・仏・ロシア・中国等が軍用機を含む武器の売込みをトップセ-ルズを行って来た。その「善悪是非」の評価は脇に置き、中東は航空機供給メ-カ-には最重要な市場である。今では、ドバイのエアショ-は国際的なエアショ-の中でも重要な地位を占めるに至ったが、2015年11月のドバイのエアショ-は航空機供給メ-カ-の期待を完全に裏切り冷や水を浴びせられる結果と成った。前年の2014年は記録的な「驚天動地」の1,700億㌦の成約を記録した。Airbusの最上位機種A-380はシンガポ-ルやタイ等の買い手はあったがその後ふるわず、Emiratesが救世主として大量発注しなければ異った運命を辿ったであろうし、今でもEmirates依存から脱却出来ない。2014年の大量発注で湾岸航空会社の2020年迄の需要は粗方充足されたと見られ2016年は不安な幕開けと成ったが、Emiratesは2016年中にAirbus A-350-900或いはBoeing 787-10シリ-ズの発注をすると期待されて居る。

 

Airbus A-380neoは商業化されるか?

EmiratesはA-380の圧倒的な顧客として、運航している機材の改良型のA-380neoの生産に期待している。Airbusは将来年間30機の需要を見込むが、事実このレベルに達しなければ事業採算割れに成ると見られが、2015年の販売実績はゼロでAirbusの「希望的観測」と見られて居る。その一方、A-350-1000の代替機種の検討も進められていると報じられているが、対抗機種のBoeing 777-X (日本も深く関わっている) の出方も見極める必要もあり、早急にA-350-1000 の開発に踏み切る環境にもない。この間、Airbusは「隠れた買手」が居る事を匂わせていたが、此処に来て「隠れた買手」がANAである事が判明した。ANAはBoeing 787のラウンチカストマ-でありJALを含めてA-380の購入には関心を示さず唯一スカイマ-クが発注したが、業界関連者なら衆知の通りこれがスカイマ-クの命取りと成り経営破綻したがANA HDが再生スポンサ-と成った。これより先は当事者以外窺い知る由もないが、Airbusの巨額な違約金とこれの救済の衝に当るANAとの間に各種の交渉が持たれて居る事は想像に難くない。本サイトの目的である1機1億円の低価格帯ヘリコプタ-でもAir Taxiとして利用し得る運賃の提供には年間300時間稼働するだけの顧客が必要。これにリ-スファイナンス、所有・運行の「協働化」、パイロット養成等様々な工夫策を詰めなければ成らない。確かにA-380はジャンボ機として「大量輸送」によるコスト低減のメリットはあるが、機材価格は現在の円安相場では1機500億円と低価格帯ヘリコプタ-の500倍、規模は桁違いに異るが、Air Taxi同様、事業採算性をカバ-出来るだけの集客が可能か、Emiratesの様な長期ビジョンや戦略を支える資金力があるか、多くの課題が横たわっており、AirbusもANAを「隠れた買手」として持ち出さねば成らない苦しい立場も見え隠れする。

 

石油価格の動向と業界への影響

石油価格は一時期$200/bblを窺う時期もあったが、今度はその1/10の$20/bblに成る可能性が取沙汰されている。但し、今回は世界に遍在する余剰資金を操作、市況を乱高下させ鞘取りをする金融工学的な錬金術の動きもあろうが、構造的な変革である事を認識する必要がある。これが、どの様な影響を与えるかは相手によって異る。エネルギ-資源国に対する影響は深刻であり、中東の諸国はまともに影響を受けるが、ロシア、ブラジル、ベネズエラを始め資源国でも財政的に深刻な事態に直面する。ロシアはプ-チン大統領の権力基盤が石油・ガス産業であるだけでなく、国家予算も$50/bblを基準に組まれ貿易収支も甚大な影響を受ける。その反面、航空機運航会社は燃料価格の激減で記録的な高利潤を享受する可能性もあり、オイルサ-チャ-ジの撤廃で利用者の増加も見込まれる。資源少国の日本は原発の停止で貿易収支も記録的な赤字に転落したが、石油価格の下落で「神風」が吹いた様に事態は改善されている。一方、資源国の深刻な経済的打撃で市場が縮小すれば輸出産業への影響は免れない等と様々な角度からの影響が考えられる。「構造的変革」とは、1973年の石油危機に端を発したOPECに象徴される産油国と石油多消費国との宿年の対立が米国の「オイルシェ-ル革命」により異次元の展開に発展したとの認識が必要。石油生産国のオイルパワ-の増大で米国やオイルメジャ-はエネルギ-供給のヘゲモニ-を失ったが、40年ぶりにヘゲモニ-を取り返したとの見方も出来る。世界銀行も石油価格の中長期的な回復を見込んではいるが、2016年は更なる価格の下落を予測している、日本も業界毎に得失は異るが、国全体で見れば最も恩恵を享受する国として世界銀行も名を挙げているが、株式市場はNew York市場と相場が連動して動くので、石油価格の低落は株式市場の相場を押し下げると言う逆な動きを示している。OPECの盟主サウディアラビアは米国がオイルシェ-ルの本格稼働で最大の産油国に躍り出た為、採算分岐点と言われる$60~80/bbl 以下に値を下げたが、さしたる効果は見られず、既に$30/bblを割り込む水準に迄下ったが当面我慢比べと成ろう。長期的には$50/bbl程度に収まると言うのが世界銀行の予測。蛇足乍ら、中国の南・東シナ海の海上掘削への影響、シェ-ルオイルの世界最大の埋蔵量は中国である事も頭の片隅に置く必要がある。

 

石油の洋上掘削はの活況は再度復活するか?

「戻らない」と言うのが大方の見解。米国、北海の海上油田開発は大型ヘリコプタ-の最大市場で、多くの新鋭機の開発が進められて来たが、最近迄の活況は戻らない事が明確化するとの認識が深まれば規模縮小は避けられない。日本は海上油田開発のニ-ズは無くヘリコプタ-の用途としては取るに足らない事が幸いし、殆ど影響は受けまい。逆に、中国、東南アジアの海上油田開発には影響も出て同地へのヘリコプタ-の販売は鈍ろうが、Air Taxi用にヘリの購入を検討している日本には却って追い風。

 

ASEANLCC巨人の成長プランは実現可能か?

 

海外のデ-タ-ベ-スではLion グル-プの現有機数は232機、発注残491機、AirAsiaグル-プの現有機数は185機で発注残387機.A-320・A320neo 307機とA-330/A-330neo 80機。2016年の受渡はLionの場合 A-320 31機, Boeing 737 39機, ATR 720⁻600 4機、AirAsiaは引取計画を繰り延べA-320 7機。資源価格の急落と金利の上昇で両社共厳しい環境下に置かれると言うのが大方の見方。

 

Comac C919 と三菱重工のMRJの行方

 

2015年の第4四半期に入り中国と日本と言う東アジアの2国が二つの話題を提供した。一つは中国が長い間開発の努力を傾けて来た国産商用機C919が11月招待客や開発に関わった大勢の技術者達の前に姿を現した。但し、処女飛行は本年中に完了、2018年より市場に投入される予定と成っている。一方、中国版リ-ジョナルジェットのARJ21は年末に最初の受渡しが完了した。他方、日本では三菱重工のMRJが11月、初飛行に成功した。初飛行の酔いが醒めやらない中で処女機の受渡しが又1年繰り延べと成った。MRJの度重なる完成機の受渡しの延期はMRJの先行メリットを喪失させ、それ以上に既に同機の購入を予定して居た客離れに繋がると心配されたが、ラウンチカストマ-のANAも、最大の顧客であるSky Westも発注取消し等の挙には出なかった。但し、今後は型式証明取得の為の更なる試験飛行やその間に色々の手直しが必要とされる事態も想定され、内外の業界関係者からも長い厳しい道程が残されて居るとの指摘が為されている。

 

SF 50の様な低価格帯小型ジェット機は市場に旋風を巻き起こすか?

 

2007~2008年低価格の高速小型機を自家用機として所有する事が夢で多くの開発計画が進められた。Diamond Aircraft D-Jet, Piper Altaire, Eclipse Aviation Eclipse 400とStratos 714等々。2008年秋に起きたリ-マンショックで状況は一変した。その中でもCyrrus社のSR-20とその後継機SR-22は単発のピストン機で50万㌦と言う低価格の故に特にAir Taxiとして利用されている。Cyruss社は時間短縮に必要なより高速の単発ジェット機のSF 50の開発を進め、処女機の受渡しも目前に迫って来た。価格的にもVLJのホンダジェット4.5百万㌦の半分以下の2百万㌦で既に500機を受注している。これで自家用機所有熱が再現されるか?業界関係者は疑問視。当のCyrrus社自身も単発ジェットの時代は去り双発ジェットが必要と言い出している。日本でもこの様な低価格帯の小型機への期待は過去にあったが、固定翼機の問題は飛行場が必要な事。東京近辺であれば調布や埼玉のホンダ空港はあるが、茨城北部、栃木、群馬、山梨、神奈川県には飛行場がなく着地点がない。中距離飛行であれば商用機、コミュ-タ-機が小型ジェット機では足元にも及ばない低運賃で運航している。商用機の平均運賃単価は¥19/㎞を割り、コミュ-タ-機は¥30/㎞。小型ジェット機でも¥1,000/㎞を割ることは出来ず、¥1200~1500/㎞はするので実質的には考慮の対象外。

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