2012年12月08日(土)12時48分

「事実が語った」日本のビジネス機の利用実態

【PDFでチェック】

 

日本への外国機の飛来は極端に少ない

1.世界のビジネス中心地より遠隔に位置する日本に高額のHeavy Jetで長時間飛行出来る人は限定的(構造的問題)海外の一般ビジネスマンでも利用出来ない。従って、日本の大企業幹部が利用しないとしても当然。

2.欧米等と言わずとも、中東サウディのリヤドジェネアビ空港の2009年の飛来機は134,616機、2010年度の成田空港のビジネス機飛来機数は633機、内北米/欧州の利用先進国からの飛来機は200機前後と物の数に入らない。欧米主要都市のビジネス機が利用する二次的周辺空港でも年10,000回程度の利用が有る。

海外との飛行実績では外国機の比重が圧倒的。日本国籍機は物の数に入らない

1.2010年度の海外機の日本への飛来は3,544機、日本国籍の海外への飛行は僅か8機。

2.日本国籍機の訪問先は韓国、中国の極く近か間、中距離以上飛べる機材は最早1機も無い(構造的問題)

3.日本での規制コストに耐え兼ねて、2000年代半ばに中/遠距離飛行可能な機材は全て海外に本拠を移した。

外国人のビジネス機利用者は訪日ビジネス客の0.1%程度

2009年度の外国人の入国者総数6.8百万人。内商用客1.2百万人。海外機飛来機数3,544機で利用乗客1万人としても0.1%弱。この7割がアジア、太平洋地域の富裕層、特権階層の利用者。海外とて、富裕層、特権階層以外ビジネス機の遠距離飛行をして日本を訪問する事は特殊例を除いて無い。

遠距離飛行可能なビジネス機の保有数、インフラ、法制面での近隣諸国との決定的格差

1.日本は中/遠距離飛行用の機材は1機も保有して居ないので比較の対象にもなら無い。

2.日本の近隣国の中国、インド、極東ロシア、韓国、フィリッピン等は貧富の格差が大きく、富裕層/特権階層はビジネス機を以前より使って居り、それなりのインフラも整っている。

3.特に中国は、2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博に備えてインフラの整備・充実を図った。誇張はあろうが、ビジネス機1,500~3,000機体制を目前の目標に掲げている。

4.何れの国も米国のPart 135を準用。彼我の格差はほぼ決定的。

日本を取巻く環太平洋経済圏の諸国のビジネス機利用体制は日本に比し遥かに充実

日本には、ハワイ迄飛ぶ機材も無いので比較の対象に成らないが、圧倒的優勢を誇る米国を除いても,環太平洋経済圏の主要国のビジネス機の保有数は下記。

国 名

ジェット

タ-ボプロップ

総機数

国 名

ジェット

タ-ボプロップ

総機数

カナダ

480

542

1,022

ロシア

113

24

137

メキシコ

649

271

920

フィリッピン

27

27

54

豪 州

158

257

415

日 本

27

17

44

インド

136

85

221

インドネシア

19

23

42

中 国

167

10

177

       

ロシアの137機は全保有機数。極東ロシアで使われている機数は不明。

成田・羽田の首都圏空港の外国機利用シェア-も飛来機の半数を割った

.日本は首都圏に政治・経済の中枢機能が一点集中して居るので、欧米よりの飛来機が首都圏空港にアクセス出来ないのは由々しい問題との問題提起より日本の空港のビジネス機への開放が焦点とされたが、JBAA設立後16年、諸般の事情、環境も変化し、首都圏空港の重要性は減少の傾向。2010年には、成田・羽田以外の地方空港への外国機の飛来は50%を超えた。これは欧米よりのビジネス機飛来の相対的減少と、これを上回る近隣諸国よりの飛来機の増加が要因と見られる。近隣諸国の場合、直接地方空港に乗り入れる

欧米や最近は近隣諸国も自由にビジネス機を駆使して居るのに日本は何故遅れを取ったのか?

1.日本は戦後国際社会に復帰した時点で、民間商用便利用のゲ-ムル-ルは既に確立し、日本は敷かれたレ-ルの上で戦中/戦後の空白を取り戻す以外選択肢は無かった。限りある航空インフラと資金を投入するには大量輸送方式に集中せざるを得ず、ジェネアビ育成に資源や精力を傾ける余裕は無かった。

2.当時はビジネス機は超富裕層、特権階層の専有物で国としても一部特権階層の為の施策は講じられなかった。

3.戦後の復興、高度成長期の果実は一億総中流階級として富の分配は他国に比し相対的に平均化された。明治維新の「四民平等」、占領軍下に於ける残余の階級隔差の撤廃により、他国では見られない無階級社会が出現した。ビジネス機の利用は当時階級格差の上に成り立って居た。現在もアジア近隣諸国では階級隔差に立脚している。

4.日本列島のユニ-クな地勢は、狭い平野部に人口を集中させた。人口が集中して居ると言う事はこの点を地上交通機関で繋げれば線と成り、更に四方に繋げば面と成る。日本人の勤勉さ、技術力で日本は世界でも指折りの交通大国と成った。新幹線がそのシンボルとして良く挙げられるが、京浜、中京、近畿、中国、北九州を繋ぐ海岸線は人口が集中して居るだけでなく、日本の工業の大動脈である。新幹線を建設して採算線に載せるにはこのユニ-クな地形が大きく与って居る。比較的狭い国土で臨海都市や中央山岳地帯の盆地を繋ぐ高度な地上交通網は世界屈指のもの。加えて、バブル期には新たな新幹線、ハイウエイそして98の空港が建設された。(地図の上にコンパスで半径25㎞の円を空港中心に描けば、中部山岳地帯を除き日本全土がカバ

されるが、日本人は25㎞範囲内に空港が存在するとは考えていない。米国の大陸的視点では25㎞等目と鼻の先)

5.空の便が新幹線と競争出来るのは700㎞以上の距離と言われているが、新幹線が通る、福島、仙台、山形、新潟、松本、静岡、名古屋の航空便には大きな影響が出た。東北新幹線の開通で青森、上越新幹線の延長で富山、小松空港にも大きな影響が出る。航空便に利がある北海道、九州、四国、沖縄には定期商用便が飛びそこから先も地域航空網が用意されている。

視点・発想の転換

1.戦後必要に迫られて大量輸送に傾斜した国策は寧ろ日本に福を齎した。国際線を繋ぐ主要空港には世界中の航空会社が長蛇の列を作り参入を試みた。大量輸送による運賃の低下で、一度も海外旅行を夢見無かった一般国民も気軽に海外を訪れる事が可能と成ったが、戦前は一部の富豪かエリ-トビジネスマンにしか許されない特権である。大手航空会社のアライアンスにより日本は海外の主要都市と網目の様に繋がった。遠い欧米の経済の中心地にもビジネス、ファ-ストで70140万円 ファ-ストのフルフェア-でも200万円で飛べる時に何でそのウン10倍の運賃を払ってビジネス機を利用する企業マンが居るであろうか?過去25~50年、日本の大企業の幹部社員でも海外の主要空港迄定期商用便を利用し続けて来たのは、検討し尽くした合理的判断に基くもので、過去15年のビジネス機利用の広報活動にも関わらず、事態は些かも変わらなかった事を「事実が語って」居る。日本の企業幹部が冷静な合理的判断に基き定期商用便を利用する事は賞賛に値いしても批難されるべきいわれは無い

最近は、LCCの追い上げに対処し、定期商用便は高単価利用者の繋ぎ止め、囲い込みを図る為、ビジネス、ファ-ストのサ-ビス向上に注力し、最早定期商用便のサ-ビスはビジネス機のそれを凌駕する段階に達して来た。

2.日本では所得格差が拡ったと言っても諸外国に較べればその比ではない。欧州は完全な階級社会。英国等会話をすれば瞬時に発音、言葉使いで出自が分かる。フランスは依然「聖なる200家族」の支配下。米国は10%の富裕層が富の60%を握っている。ゴルバチョフは日本が「資本主義、自由経済下で最も共産主義の理想に近付いた国」と賛嘆の辞を洩らしたが、プ-チン大統領は僅か7人がロシアの富の2/3を握って居ると嘆いた。共産党一党独裁の中国では1%の富豪が中国の富の40%を抑える超格差国家社会主義国。2010年のNBAAConventionで中国は純資産1.5憶㌦(120億円)の超富裕者が35,000人居ると発表した。純金融資産5億円以上の超富裕層が5.2万世帯と全所帯数に占める比率は0.11%と比較的平等社会の日本が「ステ-タスシンボル」としてのHeavy Jetを遠距離飛行に利用しなかったからと何ら恥じる事も劣等感を感じる事も無い。寧ろ平等社会を胸を張って謳歌出来る立場。

3. 日本では国内でもビジネス機の活用が少ないが、これも視点を変えれば日本の地上交通網が高度に発達している証左。国土面積が広い大陸国では、鉄道を縦横無尽に敷設すること等出来ない。米国でも鉄道は有りコストも安いが、現在は航空機の利用者が圧倒的に多い。これも、航空業界の自由化で運賃が下がり、大陸横断の遠距離でも時間の節減は無論だが、コスト的にもその方が安くなった為。

4. 此処でも、日本が地上交通機関を高度に発達させた地理的な背景や文化も勘案しなければ成らない。平均化社会、横並び文化で日本の津々裏々迄交通網が張り巡らせている。物事には「光と影」が貨幣の表裏の様に存在するが、「弱者保護」「弱者への思い遣り」で経済的には成り立たない地方への交通網が延びているが「影」としてはそのコストをより恵まれている地域の人がサポ-トしている。航空業で言えば、羽田の国際的に高い空港料で多くの地方空港の赤字を補填して居る構図。これを税金の無駄使いとして見るか、弱者に対する優しい心遣いと見るか論が分かれる。ゴルバチョフ大統領が日本を「共産主義社会の理想に最も近付いた国」と賛嘆したのは日本が自由主義経済下、高度成長の恩恵で弱者に優しい手を伸ばす事が出来たから。現在ばら撒きの非が俎上に上るのは「少子高齢化」「低成長経済」下でそこ迄「弱者救済」を行う余裕が無くなったから。ビジネス機の普及に国の補償や支援を期待する「甘い」観測は禁物。自らの努力で経済的に成り立つ方策を考案しなければ成らない。

5.双発タ-ボプロップ機と単発ジェット機で描いた「ビジネス機」の世界では日本はフィリッピン、インドネシアと同等と言うショックな結果と成るが、プロペラ機、回転翼機の遊軍が950機以上と言えば考え方も異る。

6本稿のシリ-ズで一番強調したかった点は、米国でも2つのビジネ機世界が並存して存在すると言う事実。

a./大型の高級感溢れる新鋭のビジネス機は超富裕層、セレブ、特権階層、大手企業幹部、資産家の中小企業トップ、大手企業の社有機として社員の移動に供する機材として広く利用されて居るが、一般ビジネスマンは滅多にお目に懸らないし、況してその利用は「高嶺の花」で手が届かない。

b.今一つは、一般ビジネスマンでも利用可能なLCCビジネス機。小奇麗だが中古の機材を小/零細運航業者の安いオ-バ-ヘッドで一般ビジネスマンでも利用可能な利用料に抑えたもの。「価格破壊」の新兵器として登場して来たのがマイクロジェット機。その中でも、ホンダは低価格、高性能の業界のユニクロ的存在を狙っている。他のダ-クホ-スは価格100万ドル前後の低価格帯ヘリコプタ-。何れも現在デビュ

中で今暫く市場の評価待ちだが、2015年位には日本市場にも姿を見せ様。日本が国内でのビジネス機の一般ビジネスマンへの普及を真剣に考えるなら、日本の格差が少ない平均社会では後者の方が馴染もう。日本の98の空港と30,000と言われるヘリポ-ト(大半は場外で有るが)それに回転翼機にフロ-トを付ければ水面の着陸も可能。(フロ-トはオプションで別途購入)。要は日本では未だ余り知られて居ないLCCビジネス機の世界を探索し、日本人のお手の物の軽小短薄、低コスト・高性能の新たなビジネスモデルを構築すると言う新しい視点と創造的な発想が必要。

7.日本の国内移動に将来ビジネス機が使われるとしても地上交通機関との費用対効果、コストパフォ-マンスの比較でメリットが無ければ利用されない。幾らなら利用者が納得し、その為には如何なる条件下で、如何なる方法でこのニ-ズが充足可能か、実際のユ-ザ-或いはユ

ザ-と密着して居る地域の運航会社を巻き込んだ検討が為さらねば、何事も実現しない。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*