2013年01月20日(日)01時58分

(12 ) ビジネス機の利用空港の実態

要  約

1.首都圏空港のビジネス機への開放は日米双方の悲願であったが、13~14年の歳月を要したが関係者の辛抱強い、真摯な努力で実現した。

2.然し、14年の歳月が流れる中で環境は大きく変わり、アジア地域のビジネス機の増大と、欧米機の相対的な減少で、ビジネス機が利用する空港は首都圏一点集中より地方空港に分散し始めている。

3.一方欧米では、ビジネス機は国の玄関口の主要国際空港より二次的な周辺空港やジェネアビ空港を利用するのが慣わし。この辺の基本的な見直しが必要。

4.茨城、横田等の周辺空港をビジネス機が利用するには都心迄のヘリサ-ビスによるシ-ムレスサ-ビスが必須。その為の都心の離着陸点のヘリポ-トの設置許可が必要だが、周辺空港より都心迄のヘリコプタ-利用料等は海外から最低1千万円、欧米で有れば4千万円掛けて飛んで来るビジネス機利用者にとってはさしたる出費ではない。

5.後日詳述するが、上記とは別個のテ-マだが、日本国内で将来ビジネス機が利用される為には都心或いは主要都市の中心のビル屋上にヘリポ-トが設置される必要がある。一般ビジネスマンの利用可能なビジネス機は最近出回り始めた低価格帯のヘリコプタ-の様な安価な機材以外は地上交通機関と利用料で競合する事は難しい。

 

JBAAは設立以来首都圏空港のビジネス機への開放が悲願。日本のビジネスは東京一点中心主義で東京に集中して居る為。特に、JBAAの設立には、米国NBAA,とその背後にある、米国の大手グロ-バル企業とビジネス機製造メ-カ-から都市圏空港のビジネス機への開放の強い要望と圧力が有った。

筆者はワシントンで、日本の首都圏空港のビジネス機への開放を求める大手企業77社で結成されたNBAA組織内のJapan Access Committeeの矢面に立った。当時は、首都圏空港にビジネス機が離着陸出来ないので、新千歳で降り日本の商用便で羽田に来るとか、国防省の伝手で三沢、横田に着陸し、軍用ヘリコプタ-で青山のヘリポ-トに降りる等々涙ぐましい努力が続いた。IBMの東京のBoard Meetingがビジネス機が東京にアクセス出来ない故に香港に移されるに及んで、日本企業もその影響の深刻さを痛感、日米財界人会議で日米両国の要望書が時の森首相に手渡された。日本政府も傍観して居た訳では無く、先ずは地方空港の開放、そして首都圏空港は成田空港のB滑走路の延長、茨城空港の開港、羽田沖合のD滑走路の完成により2009~2010年に段階的に実現した。1996年JBAA設立後13~14年の歳月が過ぎた。政府の名誉の為に付言すると、JBAA設立後間もなく、成田に3枠のスロットが割当てられた。何れにせよ、時間が懸ったにしても首都圏空港のビジネス機への開放が実現した事は関係者一同の精力的な努力の成果として内外共に評価されて居る。然し、世界は急速に変動して居り、日本の動きを世界が待っては居る訳ではない。ビジネス機の業界でもこの間大きな環境変化が見られた。

 

日本を取り巻くビジネス機環境の変化

 

(1)2年前、中国がGDPで日本を抜き日本は世界第3位に転落した。2013年第3四半機にはインドが購買力平価で算出した統計では、日本を抜いたとも報じられている。国際的な経済力も含めた諸要素を勘案した競争力評価でも日本はSingapore等と比べても遥かに下位に位置する。尖閣諸島、竹島、北方領土問題でも隣国より見縊られる様に成ったが、政治の混迷は長期化の様相を示し、有効な手立てを打つ可能性は見えて来ない。東日本震災の影響で、日本へのビジネス機の飛来も落ち込んで居るが、国力の衰退による、海外要人の訪日が減少して居る事も否めない。

(2)この間日本国内の各種規制によるビジネス機保有コストの重さに耐え兼ねて、2000年半ばには、日本国籍機で海外に飛行可能なビジネス機は殆ど姿を消した。一部国内で使われているジェット機で航続距離が樺太、ロシア領沿海州、韓国、中国東北地方南部に飛べる機材は有るがその数が限られているだけでなく、国内の規制コストが高く、競争力は無く殆ど海外飛行には利用されない。逆に、韓国、中国、ロシアの近隣諸国のビジネス機の飛来が増えて居り、利用空港も成田、羽田の首都圏空港のシェア-は年々低下の傾向。即ち、「失われた14年」で日本を取り巻く環境は一変。アジアでは、インド、中国のビジネス機が急速に増え、ロシア (アジア領ロシアはロシアの国土面積の90%) も急速に力を付けている。ビジネス機運航に不可欠な法制 (Part 135) の整備も日本では何時に成るか分からないが、中国では以前よりPart 135を準用しており、ロシアも法制整備の最終段階に入っている。筆者は1980年前半にサウディアラビアで勤務して居たが、当時既に同国ではPart 135を導入して居た。一番の問題は、日本への飛来機の半数がアジア諸国の飛来機と成り、利用空港も名古屋以西の西国空港に軸足が移行し、成田、羽田のシェア-が落ち続けて居る。これは欧米よりの飛来機の減少と、アジア諸国よりの飛来機の増加と切り離す事が出来ない構造的変化が進んで居る事を示唆して居る。

2010年外国機飛来実績(機/年)

アジア・大洋州

中国

韓国

ロシア

欧米

北米

欧州

アジア・欧米他

全世界計

1,242

498

324

108

447

357

90

90

1,779

69.8%

28.0

18.2

6.1

25..2

20..2

5.0

5.0

100%

アジア・大洋州 (含む東西アジア、オセアニア、ハワイ、グアム)  北米 (米国、カナダ)

2010年外国機空港別飛来実績(機/年)

首都圏空港

成田

羽田

地方空港

関空

866

633

233

913

249

48.6 %

35.6

13.0

51.4

14.0

対馬

新千歳

中部

名古屋

その他

244

188

61

51

120

13.7%

10.6

3.4

3.0

6.7

首都圏空港の利用度は50%を割り、関空、対馬への飛来機が羽田を上回った

(3)更に当初は予測しなかった茨城空港の開港と横田空港の一部返還の動きもある。既に国交省の平成23年2月の資料にも明記されて居る通り、諸外国では国の玄関口の主要空港はビジネス機に敬遠される。又、主要空港は大手定期商用便へのスロットを提供する為、ビジネス機は二次的空港を利用する事が慣し。これは計画的にそう成った訳では無く、自然に棲み分けが行われた為。ビジネス機は空港利用料が安く離発着の渋滞も少なく、スロット枠も柔軟且つ空港内への自動車の乗り込み、CIQ手続の簡便な空港を好む。ワシントンのダレス国際空港、サウディの世界最大のリヤド空港等は空港の全く別な場所にジェネアビ空港が有り、一般定期商用便とは滑走路もタ-ミナルも全く別個。New YorkではLa Guadia, Kennedy, Newarkの主要空港に対してTeterboro , Westchester, Morristown, Farmingdale ,Islip等周辺の15のジェネアビ空港がビジネス機により利用されているし、Londonも玄関口のHeathrowに代えてFarnborough, Stansted, Luton等がビジネス機の利用先。因みにロンドンオリンピック開催時3週間のビジネス機の利用実績はLuton 2,285機, Farnborough 1,800, Biggin Hill 1,231, Stansted 770, Oxford 600で有った.Heathrowは選手団、関係者、海外オリンピック観客の受け入れで手一杯。ビジネス機も大混雑が予測されるHeathrowを態々利用する事は無い。Parisも Charles de Gaulleの代わりに le Bourgeが使われる等、何処でもビジネス機は二次的周辺空港やジェネアビ空港を主に利用する。成田、羽田も拡張後の現在は余力も有ろうが早晩又容量不足に悩む事は目に見えている。然も、現在余裕が有ると言っても、使い勝手の良い時間帯は大手航空会社が手放す筈もないので、羽田の様に深夜/早朝と言った使い勝手が悪い時間帯しか利用出来ない。茨城、横田は交通のアクセスが悪いと考えられ勝ちだが、ヘリサ-ビスの提供で事態の改善は可能。ヘリコプタ-代が高いと言っても欧米より35~40百万円費やす、セレブ、VIPにはさしたるコストではない。茨城-都心間は85㎞、横田-都心は32㎞、時速200㎞/時のヘリで有れば25分、10分の距離である。問題は都心の着地点で、新木場、芝浦、六本木ヒルズ以外に前より建設計画の有る、三井物産本社屋上(大手町)、ペニンシュラホテル屋上(日比谷)、伊藤忠本社屋上(青山)、更に代々木公園 (渋谷、新宿) 等が考えられる。米国は、青山の軍用ヘリポ-ト、日比谷外国人記者クラブ屋上等が利用可能だが、ビジネス機を一般日本人に普及させるなら、日本人が利用可能な都心ヘリポ-トの整備が急務。日本人の場合、海外出張に空港迄のシ-ムレスサ-ビスの一環と言う使われ方もあろうが、寧ろ交通アクセスの悪い地方出張の足としてのエアハイヤ-、エアタクシ-的な利用分野が有るのではないかと思われるが、後述する。尚都心ヘリポ-トの設置許可は、以前より日本ヘリポ-ト協会、日本ヘリコプタ-事業促進連絡会ヘリポ-ト部会等も熱心に注力して居るが、六本木ヒルズは放送事業会社の要請で許可が取れたと言われている。ワシントンで有れば、間違いなく航空機関連諸団体、ビル屋上を提供する管理企業、日経連、経済同友会、日商等関連経済団体、政治力が有るなら、放送・報道関連企業等の共同提案にすれば(ワシントンではこれをBusiness Coalition, Busuniss Allianceと呼ぶが日常茶飯事)大きな力と成り効果も出よう。都心ビルのヘリポ-ト設置は東京都の認可事項であり、東京オリンピックの招致に熱心な石原元都知事や猪瀬現知事に直接アッピ-ルすれば実現可能ではなかろうか。

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