2013年04月20日(土)08時04分

(21)正しいビジネス機の理解

要    約

1.ビジネス機の定義は国際的に「軍用、定期・不定期商用機、コミュ-タ-機、レジャ-用機を除いた全ての事業用目的に供されるGeneral Aviation機」で日本でもこれが準用されている。

2. にも拘らず、日本はジェネアビ (General Aviation) に法制が与えられていない数少ない経済先進国である。言葉を換えれば、ビジネス機は「市民権」が与えられて居ない、「ニ流市民」的存在で様々な不都合、不具合が生ずる。ビジネス機先進国である米国は航空法のPart 135でビジネス機の商業運航を、Part 91で個人オ-ナ-の運航に関する定義や規則を整備している。中国を含めたビジネス機発展途上国はこれを準用或いは参考に自国の法制を整えている。ジェネアビに限れば日本は世界の後進国。

3.日本は戦後壊滅した民間航空をゼロベ-スより再生、国際的にも海外大手航空会社と比肩する自国航空会社の育成に注力した。限られた資源と、「不平等条約」と呼ばれる日米間の航空協定の規制の中で、「大量輸送」によるコスト競争力の強化に努め、それなりの成果を収めたが、ジェネアビ迄手が廻らなかったと言うのが実情であろう。

4.90年代のバブル期、日本の経済力の伸びは目覚ましく、日米間で貿易不均衡が生じた。多様な不均衡是正策が論じられたが、航空部門では米国は他国に一日の長う有する航空業で各国に「オ-プンスカイ」を迫り、日本には金額が嵩む航空機の一層の買い増しを迫った。現在政府専用機として利用されるBoeing 747 2機も「黒字減し」の一環として購入されたが、日本の様な先進国がビジネス機を買わないのは可笑しいとビジネス機売込みの圧力も懸った。他方、自衛隊、海上保安庁、国土交通省等政府機関は積極的にビジネス機を買い上げた為、軍用・公用としてビジネス機の統計より除外される機材が日本では多数存在する。グロ-バル的視点より見れば、通常は民間が90%以上のビジネス機を保有するが、日本に限れば、政府が70%以上の機材を保有し、中/遠距離飛行が可能な高額の機材は政府所有が100%と言う、世界に類例を見ない、異常な現象が見られる。

5.日米間の飛行に耐えるHeavy Jet1機数千万㌦はするので、固定費に加え、燃料、運航諸経費を加算すると成田-ニュ-ヨ-ク間で往復35~40百万円、商用便のファ-ストフルフェア-2百万円の何十倍にも成り、一部日本企業が自家所有した時期もあったが、2000年代半ばには規制コストの高い日本を離れ現在日本には、中/遠距離飛行可能な民間のビジネス機は1機も無い。

6.「費用対効果」の「説明責任」を有する大手企業のサラリ-マン経営者は当然商用便を使い、ビジネス機を利用する事は無かった。但し、海外の到着先で、交通のアクセスが悪く、ビジネス機に頼らざるを得ない場合には、現地でより安価なビジネス機を利用して来た。中/遠距離飛行は商用便、その先現地ではニ-ズに応じビジネス機をチャ-タ

する事は日本のビジネスマンの四半世紀~半世紀に亘る経験則より定着した慣習。日本のビジネスマンもグロ-バル企業として国際的な舞台で活躍している今日、ビジネス機を必要とする地域で、ニ-ズに応じた方法とコスト計算でビジネス機を利用して居り、日本企業はビジネス機を利用しないとの批判は当たらない。(グロ-バルな視座が必要)

7.海外のビジネスマンでも一握りのカリズマ経営者以外は中/遠距離飛行には商用便を利用するのが定番。一握りのカリズマ経営者は人並み外れた能力でビジネス機を駆使して、ビジネス機と商用便の運賃差を遥かに凌駕する成果を産み出す故にビジネス機の利用が正当化される。平均化社会日本ではカリズマ的経営者を輩出させる土壌・風土に乏しい。高額のビジネス機を使いこなすにはそれなりの使い手が必要。

8. 「この道はいつか来た道」。貿易摩擦で米国は経済大国日本がキャデイラック、リ-ンカ-ン等の「身分相応

の高級車を買うべきと日本人の射幸心を煽った。結果は、黒塗りのストレッチリモジンは反社会勢力のボスのステ-タスシンボルと成り、一般利用者はBig 3が鼻も引懸けない国産の小型車を購入した。日本の狭い道路、限られた駐車スペ-スに加え、Gas Gazlerと呼ばれるガソリン多消費型のアメ車は敬遠された。航空機も同じ、日本は狭い国土、に網目の様に張り巡らされた地上交通網が安いコストで国民に提供される、世界でも羨むべき国である。そこを、米国の大手ビジネス機メ-カ-が鼻も引懸けない小型ピストン機や回転翼機が地域航空の補完として利用されている。

9.海外に目を開き先進的な文物を自国に適した形に造り直し自家薬籠中の物にするのが日本文化の優れた特徴。近年、開発が著しい低格帯機材(最高級ビジネス機の千分の一の価格迄ある)を都会より地方への出張、交通のアクセスの悪い地方から地方への横の移動、採算の悪い地方路線廃止に伴う地域航空の補完としてのビジネス機の利用を工夫するのが今後の課題。低価格帯機材と言っても数千万円~億はするので、一般ビジネスマンの手の届く利用料を提供するには大手航空会社のアライアンスに見られる、機材の共同購入、機種と整備の統一、機材の相互利用による稼働率の向上等「3本の矢」の「協働」が不可欠。ジェネアビ法制の整備も関係諸団体の「協働」による政府への働き掛けが事態を促進する最良の「特効薬」。ワシントンでは関係業界の一致したAlliance, Coalitionで団体行動を取り、政府も背後にある民意を悟り、要望されたニ-ズに応える。

日本はビジネス機の一般ビジネスマンへの普及を目指し17年前の19965月、JBAA(日本ビジネス航空協会)が発足、20051月、名古屋の中部国際空港の開港に伴い名古屋空港(小牧)が日本のビジネス機のハブとして整備され、ビジネス機元年の幕開けが力強く宣言された。それから8年、当時に較べ、海外に飛行可能な中/遠距離用の日本国籍のビジネス機は全て海外に拠点を移し姿を消した。ここ数年、JA機の海外飛行は年間7~8回と無きに等しく、飛行先も韓国、中国東北部と日本の極く近か間に限定される。他方、日本を訪問する外国機は韓国、中国を始めアジア諸国のビジネス機が増加している。アジア・オセアニアで、従来圧倒的なビジネス機の多さを誇ったオ-ストラリアに対し、経済成長著しいインド、中国のビジネス機が急増、インドネシア、フィリッピン等の島嶼国は交通手段として空運に依存する度合も大きく、最近は日本共肩を並べ、日本を抜き去るのは時間の問題。多くの努力が払われたにも関わらず、何がこの様な結果を招いたのか多くの論議が交わされて来た。

ビジネス機と言ってもJBAAがビジネス機として挙げるのは、双発タ-ボプロップ機とジェット機計55機(2010年時点)、これより、練習機として日本航空大学やヒラタ学園が所有する機材を除去すると、2011年の時点で44機と成る。他方国交省がビジネス機の飛行統計を取る為拾い出したビジネス機は201043機(双発ピストン機5機、双発タ-ボプロップ機12機、双発ジェット機26機)、201162機。(双発ピストン機19機、双発タ-ボプロップ機16機、双発ジェット機27機)。此処での問題は、何れが正しい正しくないの論議では無く、便宜上どの様な機材を拾ったかにより数字は動く。ビジネス機の国際的な定義は「軍用、定期便、チャ-タ-便に利用される機材を除いたジェネアビ機で事業目的に供される機材」である。これには、小型ピストン機や回転翼機も含まれ、どの程度事業目的に供されているかは不明だが、優に1,000機を越える機材が日本に存在する。又、日本人でも中/遠距離にMid, Heavy Jetを利用する人もいるが、その場合は、近隣諸国より機材を呼び寄せる。海外のビジネス機年鑑はジェット機とタ-ボプロップ機に記載を限定しているが、米国のGAMAや調査機関はピストン機、回転翼機の統計も出して居る。但し、後者は数が多過ぎ統計を取った時点、デ

の精度で大きなばらつきが見られる。こう言った事情を十分踏えた上での論議が欠かせない。最近「歯車が噛合わない」論議を良く聞くが、議論のベ-スを予め摺り合せないと「釦の掛け違い」や「スレ違い」の不毛な論議に陥る。今回は、この辺を中心に記述する。

 

ビジネス機コンセプトの混同・混乱

ビジネス機の定義

1.軍用、公用、定期・不定期商用便、コミュ-タ-便、レジャ-用に利用される機材を除外した全てのジェネアビ機で事業目的に利用される機材。

2.単純化して言えば、日本の航空機総数は2000機、内上記の定義に添い除外される物が半数、尚残り1000機余の内、どの程度が事業目的に利用されているかは不明だが、相当数が程度の差こそあれ事業目的に使われていると推定される。これらの大半は小型ピストン機、回転翼機で占められる。

3.個別企業、個人オ-ナ

が所有する機材の目的別利用方法等の情報は乏しいので、便宜上グロ-バルにはタ-ボプロップ機、ジェット機がビジネス機年鑑等に記載される。但し、小型ピストン機や回転翼機もジェネラルエビエ-ション機として関係諸団体より別個に数値が発表されている。

4.日本で国交省がビジネス機の飛行実績を把握する為に流用する機材は、2011年の時点で62機。(双発ピストン機19機、双発タ-ボプロップ機16機、双発ジェット機27機)仮に、民間の所有するジェネアビ機1000機の内7割が何らかの形で事業目的に利用されて居るとしたら、ビジネス機の飛行実績統計に現れるのは、10%弱。この辺を弁えないと、日本ではビジネス機が余り利用されないと言う誤った結論に陥る。

5.軍用・公用の機材はビジネス機の範疇より除外される為語られる事はないが、日本には代表的なビジネス機の最高級機材が多数存在する。時折マスコミにも登場する政府専用機もそうであるが、自衛隊機、或いは海上保安庁、国土交通省も多数のビジネス機(軍用・公用なのでビジネス機とは呼ばないが)を所有している。Jp Biz-Jet 2012記載のジェット機、タ-ボ機は下記。

 

日本

インド

中国

ドイツ

英国

フランス

ロシア

ジェット

タ-ボ

総機数

90

76

166

153

90

243

194

24

218

410

176

586

206

232

438

300

93

393

119

28

390

軍 用

122

22

50

14

33

129

8

民間比率

29%

91

77

98

92

67

98

 

日本は世界的にも民間所有のジェット・タ-ボ機は突出して低い。但し、ピストン機、回転翼機が実際に使われているビジネス機なのでこの数値如何で結果はかなり変わる。従って、日本の場合、ビジネス機を双発タ-ボ機、ジェット機に絞ると歪められた画像と成るが、この辺の顧慮が重要。尚日本国籍の中/遠距離飛行用のMid-Heavy Jetは皆無であるが、軍/公用には最高機種のラインアップが見られる。日本と海外との比較で最も注意すべきは日本には日本固有の方式が有り、海外との単純比較は必ずしも適切では無い事例が多く存在する事。資料の出典をjp Biz-Jet 2012に統一した場合、軍/公用でビジネス機の範疇からは外れるが、日本政府が代表的なビジネス機として広く利用され所有する機材は下記。

 

自衛隊

Boeing 747-47C 2機(政府専用機)、Gulfstream IV –MPA 5機、Beechjet 400T 13, Learjet 36 4
海上保安庁 Gulfstream G-V 2, Falcon 900 2
国交省航空局 Gulfstream G-IV, G-IV-SP1機、Bombardier Global Express 2

 

尚記載されているタ-ボプロップ機76機の内50機が自衛隊機、10機が海上保安庁機2機が航大訓練機と82%はビジネス機の範疇より外れるが、機材はれっきとしたビジネス機。民間の中/遠距離飛行用のMid-Heavy Jetは「費用対効果」の採算に合わない為皆無であるが、国家予算で購入する機材は相当数存在する。

ビジネス機利用に対する諸種のイメ-ジ

1.ビジネス機は「金持ちの道楽」と言うイメ-ジは一面の真理で海外でも「富と権力のステ-タスシンボル」としてマスコミに問題にされる。。「道楽」の表現は脇に置いても、最近のグロ-バルな不況下、高額な最高機種のビジネス機は売れているし、BRICS’s (Brazil, Russia, India, China) や中東の産油国の富豪は、不況等どこ吹く風とビジネス機の高級種には満足せず、Regional JetAirbus, Boeing等の商用便用超大型機をビジネス機として発注している。「道楽」と言わず、「空飛ぶエグゼキュティブオフィス」等と呼ぶ。何れにせよ、超富豪層、セレブ、VIP等の特権階層に利用されるビジネス機が数多く存在する事は事実である。日本に限れば1機も存在しない。

2.但し、過去トヨタ、ソニ-等が自社所有機を有したが、日本での規制コストが高い事もあり2000年代半ばに全ての機材を海外拠点に移した。

3. 超富豪層、セレブ、VIP等の利用者は現在も日本に居るが、その場合は必要な機材を近隣諸国より呼び寄せる。韓国、特に中国では中/遠距離飛行用の機材の大幅な買い増しが行われ、コストが一義的な問題では無い特権階層の利用ニ-ズには近隣諸国よりの呼び寄せで充分対応可能。

4.他方、日本の大手企業の幹部も、中/遠距離飛行にビジネス機を利用する事は殆どない。日本の企業マンも70年代より海外に出張する事は当り前に成って来たが、高度成長期、80年代のバブル最盛期と言えどもビジネス機を利用する事は無かった。

5.海外の企業マンが自由にビジネス機を駆使して居る時に、独り日本がビジネス機を利用しないのは如何か?と言う論調は良く聞かれるが、海外では企業幹部以外の一般上級管理者、スタッフ、プロフェッショナルがビジネス機を利用する事は事実。市場調査機関のレポ-トでも、大手企業より中小企業、企業幹部より実務レベルの従業員の方が遥かにビジネス機を利用していると言う結果も出ている。

6.但し、此処より一歩踏み込んだ検討が必要。

  • 米国のビジネス機の平均利用時間は往復で11.8時間。一般社員が中/遠距離の出張にビジネス機を利用する事は有り得ない。(日本米国東岸・欧州の往復には25時間位要する。米国東岸-西岸の飛行でも片道数時間を要する)
  • 欧米の大手企業のトップ幹部でも中/遠距離飛行に定期商用便を利用するのが常識。一握りのカリズマ的トップ経営者、超富豪、タレント、スポ-ツマン、VIPが利用者。況して殆どの幹部社員は定期商用便を利用する。
  • 欧米の域内短距離飛行であれば、安い機材と、短時間利用でコストも大幅に軽減される。機材の多くは高機能で格好良い新鋭機では無く、中古機で、タ-ボプロップ機、ピストン機、回転翼機である事は語られない。広い国土に鉄道やバス等の公共機関を網目の様に張り巡らす事は出来ないので、地方空港よりAir Taxiを利用すると言った事例も多い。
  • 日本で一番討議されないのがビジネス機の利用コスト。日本より米国東岸・欧州迄ビジネス機で往復35~40百万円、定期商用便のファ-ストフルフェア-で2百万円。ファ-ストフルフェア-さえ払う企業マンは少なかろう。飛行距離は往復20,000㎞なので、㎞当りのコストは商用便ファ-ストフルフェア-で\100/㎞、ビジネス機で\1,750~2,000/㎞。 最近は中東のエミレ-ツ航空が成田-欧州と同距離の成田-ドバイ間をファ-ストフルフェア-往復で百万円とした。㎞当りで僅か\50/㎞。(成田、羽田、関空からほぼ同額の運賃)ファ-ストは従来の商用便より遥かにスペ-スが 広く、パ-ティションで扉を閉めれば個室仕様、180度倒れる座席とテレビ付き、シャワ
  • 付き、会話・商談が楽しめるラウンジ付きと至れり尽くせりのサ-ビス。飛行時間は商用便とビジネス機でも変わらないので、ビジネス機が売物にする「時間を金で買う」メリットは無い。これだけの圧倒的なコストとサ-ビス差でビジネス機を利用する日本人のサラリ-マン企業幹部が居るであろうか?
  • 最近は、タイ航空がバンコック-成田-サンフランシスコ路線にAirbus  A-380を投入、Delta航空は片道12時間以上の飛行のビジネクラスでも、座席は180度倒れベッドとして利用可能なサ-ビスの提供を発表した。成田-米国東岸のビジネスクラスのフルフェア
  • は往復80万円程度なのでビジネス機と定期商用便のサ-ビス内容も踏まえた、運賃格差は開く僅り。(ビジネス機を利用すれば3,000万円程度)定期商用便は安値航空の追い上げで、高単価顧客のビジネマンの取り込みに機内サ-ビスの高品質化に懸命。
  • 最近のグロ-バルな景気低迷でも特権階層が利用する高額のビジネス新鋭機は益々大型化、豪華さを競い購買意欲にも衰えは見られないが、逆に、一般企業マンが利用する中小機材は大きな打撃を受け、寧ろ、マイクロジェット機の様な超小型機や低価格帯の回転翼機も市場に出回り始めた。機材のコストもAirbus A-380から、低価格の回転翼機では後者の1000倍のコスト差が生じ、一口にビジネス機と言っても、両極への分化が年々益々顕著に成りつつある。
  • 日本で一番語られないのは「費用対効果」。一握りにせよ、何故海外のカリズマ的経営者がビジネス機を利用出来るのか?次項で解説を試みる。

海外との比較

1.飛行距離 - 日本は極東に位置する国。「極東」とは欧州より見て東の最果てと言う事に成るが、距離的には欧州、米国東岸、中東産油国迄10,000㎞、比較的近い様に思える豪州でさえ7~8,000㎞はある。ビジネス機的な言い方をすれば、これだけの距離を無着陸で飛ぶにはHeavy Jetと言うビジネス機の最高機種の利用が不可欠。又、10,000㎞を往復するにはニ十数時間を要する。飛行コストは、単位時間当りのチャ-タ

料 x 利用時間 + 運航費だが、日本の様に遠距離に位置すると、最も高いチャ-タ

料の機材を長時間使用しなければ成らない。更に運航費の一番大きな要素は燃料費故、長距離飛行で今日の様に石油価格が高止まりして居ると石油価格の僅かな振れでもコストを大きく左右する。加えて運航費の人件費はパイロット、機内添乗員のコストでこれも勤務時間に比例するので飛行時間が長い日本の場合、負担は大きい。ビジネス機が最も使われている米国でのビジネス機の1回当りの平均利用時間が1.8時間で日本から欧米に行くにはその14~5倍の時間を要する。日本で良く米国で一般ビジネスマンがビジネス機を利用するのに、何故日本人はビジネス機を利用しないのか?という議論を聞くが、欧米人でも一般ビジネスマンが10,000kmの距離をビジネス機を利用する事は無いし、企業トップでも一握りの人間に限定される。この認識を欠くと、「机上の空論」に堕して仕舞う。

2.以上は当初より分かって居た事で、日本はこのハンディ-を乗り越える為「大量輸送方式」に資源を傾斜投入し、世界的にも大手航空会社と肩を並べられる、日本の航空会社を育成して来た。グロ

バルな航空企業の再編劇の中でJALOne WorldANA Star Allianceに加入、コ-ドシェア-で実質的な路線及び、訪問先都市の多角化を実現した。 「大量輸送方式」とは1回の飛行の際多人数によるコスト分坦で、利用者一人当りのコスト負担の大幅軽減を図る。ビジネス機を利用すると言う事は、逆に機材を少人数で独占的に利用する代りに、費用は全て自己負担する事に成る。コストが問題に成らない、超富豪、セレブ、VIPが利用する理由だが、日本の様に飛行距離が長く、飛行時間が長い場合はコスト格差が輪を掛けて大きく成る。

3.日本の国策としての「大量輸送方式」の重点志向はその意味からも日本としての最も合理的選択であった。日本の企業トップがビジネス機を利用しないのは、冷徹な合理的判断に基くもので、褒められるとしても何も恥ずべき事は無い。

4.商用便とビジネス機の間に桁違いな運賃格差があるので、日本の大手企業のサラリ-マン経営者は、社内規定の縛りや、それ以上に企業オ-ナ-の株主への「費用対効果」の「説明責任」が有るので、ビジネス機を利用する事は出来ない。過去四半世紀~半世紀、日本の企業幹部は中/遠距離の飛行にビジネス機を利用しなかった事で批難されるいわれは全くない。

5.最近仮釈放された堀江ライブドア元社長が出版した書籍の中で、社長時代、高校の女子学生2~3名をビジネス機に乗せグアム島に連れて行った事がマスコミで騒がれた事に触れ、自分の金で楽しんだ事に他人がとやかく口出しするのは「大きなお世話だ」と切り捨てた。社会通念に反するとしても、自分の金を使ったのであれば他人が容喙する事は無いプラ-ベ-トマタ-かも知れない。事実日本のビジネス機の利用先駆者であるトヨタは豊田章一郎会長、ソニ-は盛田会長、エプソンは服部社長(エプソンの親会社服部時計店の一族)等はオ-ナ-経営者。現在日本国内で運航されているビジネス機の多くは地方のオ-ナ-経営者。ビジネス機を利用する事による「費用対効果」の裁量判断に柔軟性がある。東証一部企業のサラリ-マン経営者はオ-ナ-ではなくオ-ナ-である株主への「説明責任」を負うだけでなく、サラリ-マン従業員として社内規定の縛りもある。

6.上記に関連し、日本は戦後「一億総中流化」と言う快挙を成し遂げた。明治維新により「四民平等」を実現、戦後更に「爵位の廃止」、「農地改革」、「財閥解体」等で階級格差は無く成り、戦後米国でも信奉者が多かった社会主義的政策が進駐軍と日本側施政者により進められた結果、日本は民主主義、自由経済を標榜しながら「理想的な共産主義社会に最も近付いた国家」と社会主義国家のリ-ダ-からも賞賛された。皮肉にも、ロシア、中国等代表的な社会主義国家は最も所得格差が大きい国と成った。高額なビジネス機を所有するには格差社会が必要。欧米の戦勝国では歴史的な階級社会が厳然として存続し、米国の様な若い国でも「自由経済」を謳歌する事で、大きな所得格差が生まれている。所得格差の善悪是非を論ずるのが本稿の目的では無いので脇に置き、平均化社会の日本にはMid-Heavy Jetは一機も存在せず、共産党一党独裁の中国はグロ-バルな経済不況等何処吹く風と、最新鋭のMid-Heavy Jetを相次いで発注、欧米のビジネス機製造メ-カ-でさえ瞳目する現実が存在する事を認識すべき。

7.然し、日本で中/遠距離飛行にビジネス機が利用され無い理由は商用便とビジネス機の隔絶した運賃差だけではない。日本でも日産のゴ-ンズ会長は4億円強の年俸を貰い、日産所有のHeavy Jetがゴ-ンズと共に動くと言われる。超多忙のゴ-ンズ氏が米国、日本、中国、インド、フランスをビジネス機で飛び回れるのは何故か?この問題への理解が無い限り、ビジネス機の利用を語る資格は無い。理由はゴ-ンズ氏の傑出したカリズマ経営者としての資質。日本から一歩外に出れば、日本の「終身雇用」「年功序列」とは全く無縁の「競争社会」。近代社会はダ-ウインが指摘した「適者生存」「弱肉強食」の「自然淘汰」の世界。企業トップに行き着くには「天賦の才」と「人並み外れた努力」「不屈の闘志」が不可欠。中/遠距離飛行にビジネス機を自由自在に駆使するには企業間競争の「メダリスト」で無ければならない。高額の新鋭機と言う名馬を乗りこなすにはそれ相当の名騎手が必要。日本にも多少はその様な人材も居るであろうが、「年功序列」「微温湯経営」「ボトムアップ」の「お神輿経営」では「天賦の才」はあっても磨かれない。況して「出る釘は打たれる」「能ある鷹は爪を隠す」文化風土からは「カリズマ的経営者」は生まれない。「星の潰し合い」が無く「八百長相撲」と「年功序列」が仮に横行すれば名横綱は生まれない。華僑、印僑、アラブの富豪、欧米のトップ経営者は明確な信念、これに基いた長期ビジョン・戦略、更に即断即決が出来る。故にビジネス機を駆使してトップ同士の ”Golden Hand Shake” が可能と成る。世界最大のFractional Ownership運営会社のNetJets創業者のRichard Santulliが資金繰りに窮し、大富豪のウォ-レン・バッフェトに20分の説明で自社の買収を決断させたのは業界では誰も知る逸話。日本の国政に見られる「決めない」「先送りする」「ブレる」「迷走する」では高額のビジネス機を乗り廻す資格は全くない。これが日本と海外の最大の相違。商用便とビジネス機の利用コスト差を正当化出来るだけの人材が日本に居ないと言うのが、中/遠距離のビジネス機が日本で利用されない最大の要因。

日本人はビジネス機を利用しないのか?

1.日本にも日産ゴ-ンズ会長、トヨタの豊田章一郎会長、奥田社長、ソニ

森田・大賀会長等中/遠距離飛行にビジネス機を駆使したカリズマ経営者は存在したが、日本の規制コスト、太平洋間の利用コスト格差を考え拠点を2000年半ばに海外に移転させたので、中/遠距離飛行可能な機材は日本より姿を消した。

2.では日本のビジネスマンがビジネス機を利用しないのかと言えば、実は1960年代より、海外企業進出に伴い、海外の交通のアクセスが悪い地域では地場のビジネス機を利用して来た。日本企業の海外進出は資源に乏しい国故に資源開発が中心。鉄鉱石、石炭・石油・天然ガス、銅鉱石、ボ-キサイト、穀物、肉類(日本企業は海外に大規模牧場を多数経営している)、太平洋、北大西洋の漁業資源、アラスカ・シベリアの北方木材・パルプ資源、南洋諸島の南方木材等枚挙に暇がないが、進出先の現場は都市圏より遥かに離れた遠隔地が多い。この様な地域への交通の便は一般的に悪く、生活必需品さえ手に入れるのに不便が伴い、多くの進出企業が過去半世紀、海外で地場のビジネス機を必要に応じ利用して来たし今後も利用し様。

3.日本企業は半世紀の経験則より、中/遠距離飛行には「大量輸送」による安価な運賃を利用し、目的地近辺の主要空港より更に地方空港に地域路線の商用便、コミュ-タ

便を利用、そこから先は地場のビジネス機、エアタクシ

、レンタカ

等を事情に合わせて利用して来た。日本人がビジネス機を利用しないと言うのは、斯かる遠隔地でのビジネス機利用が目に見え難いからに過ぎない。

4.日本での最大の「思い違え」は日本を中心とした視点で物を見て居る事。「空に国境なし」がビジネス機業界の「合言葉」。ビジネス機の活躍の舞台を世界市場と見れば、日本のビジネスマンは商用便とビジネス機をニ-ズに合わせて最も合理的に使い分けて来た。日本人がビジネス機を使わないのでは無く、世界と言う広いステ-ジで繰り広げられる事業展開を認識して居ないだけ。

5.「灯台下暗し」で実は足元の日本でもビジネス機は幾らでも利用されて来たし、現在も利用され、将来も利用され続ける。ビジネス機とは海外のエアショ-に並ぶ新鋭の恰好良い高級ビジネス機と言う眼鏡を通して見れば何も見えない。日本には現在も1000機を越すタ-ボ機、ピストン機、回転翼機が存在する。その内、どの程度が事業目的で利用されて居るかは不詳だが「飛行機野郎」がレジャ-として飛行を楽しむ機材は除くとして、多くは事業目的として利用されている。回転翼機を例に取れば、山間部の電線敷設、必要資材・要員の輸送、保守・修繕が最大の用途。農薬の空中散布、空撮・測量、報道取材も多い。但し、現段階では斯かる小型機と言えどもコストが高い為、災害・救命(東日本震災では大活躍。冬山の遭難救助等マスコミにも取り上げられる)、救急医療(ドクタ-ヘリも急増)等人命との比較で高いコストを払う業務にウエイトが懸るが、利用料金の多寡に関わらず対価を貰っての事業活動であれば立派にビジネス機の定義に合致する。

5.但し、ヘリコプタ-と言っても利用コストは安くなく、災害救助、救急医療と言ったコストに代えられない人命救助やこの為の地方自治体の補助で成り立っている。多忙なビジネスマン、政治家の選挙運動等瀬戸内でヘリコプタ-で移動するので有ればれっきとしたビジネス機。但し、現段階では未だコストが高く利用は限定的。海外でも同じ制約が有るが、これの打開策として低価格帯の機材が開発・市販され始め、日本にも導入されている。業界としての「協働」による共同買い付け、整備、市場間の融通による稼働率の向上、計器飛行の認可(海外ではGarmin社のGPS計器の出現で事情は一変)、都市圏のヘリポ-トの設置等の工夫と新たな展開が見られれば、一般ビジネスマンでも手の届くビジネス機が商用便或いは地域航空の補完として日本でも普及する公算は大きい。(商用便大手航空会社はグロ-バルアライアンスで先行)

6.今後大きな期待が持てるのは、昨今マスコミを賑わかす海底資源の探索・採集(メタンハイデレ-ト、レアア-ス等)。米国では、回転翼機の最大の用途は海上油田のリグへの資材・要員の輸送。海底資源の探索・回収船には資材・要員輸送のニ-ズがある。日本でも秋田の海上油田に僅かながら、似た業務が有ったが、今後は事態は大きく変わる可能性が秘められている。

ステ-タスシンボルとしてのビジネス機とビジネスマン用ツ-ルとの分化

1.リ-マンショック以後の世界的経済の停滞にも拘らず、高級機種のビジネス機の販売はさして落ち込まず、寧ろ中国、産油国からの発注が活発で在るだけでなく、より大型、より遠距離飛行可能で高性能な機材が求められる。Global Express等のHeavy Jetを製造するBombardier社は中型のRegional Jetのメ-カ

としても知られるが、Regional Jetをビジネス機仕様に代えた注文が殺到している。「大きかろう、高かろう、良かろう」と高額のビジネス機を憧れのステ-タスシンボルとして購入する顧客は後を絶たない。富裕な顧客がどの様な機材を買うかは顧客の自由選択で他人が容喙する問題では無いが、本サイトは日本の一般ビジネスマンが如何にビジネス機を利用出来るかを考えるサイトなのでこれ以上の言及は控える。

2.他方、一般ビジネスマンが利用する、より低廉な機材の販売は半分以下に落ち込み、Hawker-Beech社と言った名門も経営破綻し、ジェット機部門のHawkerは切り捨てと言う運命を辿り、Beech社は一時中国企業が買収したが、国防上の懸念から買収は認可されず、カナダに身売りした。他の雄であるCitation社も苦しい経営を強いられている。大きな要因は、一般ビジネスマンは経済不況下で従来のLight Jetより低廉な機材でより手の届く利用料を求めて居るからである。マイクロジェット機やAir Taxi, 低価格帯ヘリコプタ-が市場を席巻し始めたのは偶然では無く、その様な市場のニ-ズがあるからである。最近の低価格帯機材は、Light Jet1/10以下のコストのものも数多く出回っている。

3.日本の場合、中/長距離飛行は「大量輸送」によるコストメリットが有る定期商用便を利用、ビジネス機はその補完として現地で必要に応じチャ-タ-すると言うパタ-ンが経験則で定着して居り、今後如何に「安かろう、良かろう」の低価格帯の新鋭機を導入、国内での地域航空の補完として利用するかが課題である一方、利用料が下がれば、潜在的な市場が発掘される可能性も高まる。

4.但し、日本ではビジネス機の利用で、欧米の先進国はもとより、発展途上国にも遅れを取り、大勢挽回には個々の企業エゴを抑え一到協力による「3本の矢」の「協働」が必須。団体でのチ-ムワ-クで力を発揮するのが本来の日本の姿。未だ未成熟の小さな市場のパイの奪い合いでは無く、「小異を捨てて大同に付く」発想の転換が求められる。国際競争に耐える為、あらゆる業界に見られる統合による力の結集の理屈は誰にでも理解可能な筈。大手航空会社は業界再編、グロ-バルアライアンスの結成で既に「協働」の成果を享受している。

本稿のタイトルに(21)の番号が振られているが、本サイトの21番目に掲載されたレポ-トを意味する。他に、時折のトピックスも掲載されている。より詳細な記述は下記の夫々のレポ-ト、トピックスを参照されたい。(サイト上段のレポ-ト、トピックスをクリックすれば一覧表が現れ、読みたい物をクリックすれば本文が掲示される。無論、無料でのダウンロ-ドも可能)

  1. ビジネス機の定義

4)ビジネス機のコンセプト

  1. ビジネス機利用に対する諸種のイメ-ジ

9)ビジネス機の利用コストのイメ-ジと実態の乖離

  1. 海外との比較

7)世界・アジアにおける日本のビジネス機の位置付け

3)「事実が語った」日本のビジネス機の利用実態

  1. 日本人はビジネス機を利用しないのか?

9)ビジネス機の利用コストのイメ-ジと実態の乖離

10)ビジネス機の利用実態

  1. ステ-タスシンボルとしてのビジネス機とビジネスマン用ツ-ルとの分化

18)中国のビジネス機事情

20)中東の航空会社

11)マイクロジェット機

13)低価格帯ヘリコプタ-

6JBAAと繋がりがある業界団体

トピックス ビジネス機を利用する超富裕層、富裕層とは(2013/01/04開示)

トピックス エアタクシ- (2013/03/13開示)

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