2013年04月30日(火)02時52分

(23) ビジネス機の採算性

要     約

1.ビジネス機が如何なる折に、如何に利用されるかは種々の要因により左右されるが、他の競合交通選択肢との定量的・定質的な比較で利用者が「費用対効果」を判断し、如何なる選択を行うかが決定的要素。

2.ビジネス機は「富裕層の道楽」か「ビジネスツ-ル」かの論議も突き詰めれば利用者の選択の問題と成る。金やコストが問題でない超富裕層、セレブ、VIPは大きく分けて「ステ-タスシンボル」「国威、権威発揚」の為か或いは「金で時間や成果を買う」の2点に分けられる。ビジネス機を利用する大きな要因であり今後も変わらない。但し、本サイトで繰り返し述べて居る様に、コストが問題では無い利用者は対象外。

3.本サイトの目的は「費用対効果」の「説明責任」を投資家、「利害関係者-Stake-Holders」に負う日本の一般サラリ-マン(大企業幹部もサラリ-マンであるとの前提)が如何にビジネス機を利用出来るかを読者と共に考えて戴くのが目的。

4.本稿は(23)の番号が頭に振られている通り、既に22本のレポ-トが本サイトに掲載されている。日本の一般サラリマンが如何なる条件下でビジネス機を利用出来るか?その前提を次の様な諸要素に分けて記述を行なって来た。詳細は関連のレポ-トを参照願う。

a.成田-ニュ-ヨ-クの商用便の往復ファーストフルフェア-は200万円飛行距離20,000㎞として¥100/㎞。日本のビジネスマンの大半はビジネスクラスの40~100万円程度で済ませるので¥20~50/㎞。ビジネス機は燃料代で運賃が大きく左右されるが(ビジネス機では運航費実費負担)35~40百万円或いは¥1,750~2,000/㎞と商用便の35~100倍。

b.これだけの「決定的運賃差」を払って「費用対効果」を正当化出来るのは傑出した「カリズマ的経営者」に限られるが、「平均化社会」の日本では一握りの人材に限られる。然も、この様な抜きん出た才能の持主は努力のみではなく、「天賦の才」に恵まれて居る。寧ろ セレブ(天賦のタレント)、VIPの範疇に入れるべきかも知れない。

c.日本の大企業トップ、幹部でさえ過去四半世紀~半世紀、中/遠距離飛行にビジネス機を常習的に使った人はいないと思う。

d.日本の大企業幹部でも中/遠距離飛行は商用便、目的地に近い空港より交通のアクセスが悪い目的地迄、地場のビジネス機を利用するのが確立した慣習。

e.日本の国内でも700㎞以遠の目的地は航空機、それより短距離で有れば地上交通機関を利用するのが一般的。羽田-新千歳のファ-ストフルフェア-が8万円。飛行距離往復2,000㎞とすれば¥40/㎞。東京-新大阪新幹線のぞみグリ-ン車片道2万円、走行距離550㎞として¥36/㎞。タクシ-は場所により多少のバラ付きがあるが¥300/900m或いは¥330/㎞が基本レ-ト。ビジネスジェット機は裸のチャ-タ-料が¥600,000/時、巡航飛行速度700㎞/時と置けば¥860/㎞。実際には諸種の経費が加算されるので、¥1,000/㎞を目標にしているがこのハ-ドルさえクリア出来ない。¥1,000/㎞と商用便ファ-ストフルフェア-(現実にはフルフェア-を払う人はいないが)の¥40/㎞との比較では25倍。実際には数十倍はする。これだけの格差があって、「費用対効果」を正当化せよと言っても無理。Light Jetの巡航速度700㎞/時と商用機900㎞/時と比較しても「時間を金で買う」事は不可能。

f.国内の競合交通機関の利用運賃は¥36~330/㎞。ビジネス機は¥1,000/㎞を将来の目標に置いているが「費用対効果」の「説明責任」を果たせる「価格差」ではない。「解」は海外旅行同様、目的地近く迄商用便、鉄道等を利用、目的地近くの地上交通手段のアクセスが悪く「費用対効果」が正当化出来る事例に限りビジネス機を利用する。此処で留意すべき事は、関東一円を例に挙げれば首都圏周辺の空港から飛んでも着地点が無い事である。この場合は、マイクロジェット機、タ-ボ機、ピストン機を問わず固定翼機は利用出来ない。唯一のビジネス機はヘリコプタ-しかない。ヘリコプタ-も事業目的に利用されるならばれっきとしたビジネス機だが、ビジネス機=エアショ-に並ぶ新鋭のビジネスジェット機と言う眼鏡を通して見れば何も見えない。もっと大きな問題は、そもそも競合する交通手段のコスト¥36~330/㎞に対応するビジネス機運賃等現実的に提供可能かと言う疑問は誰でも持つであろう。

g.過去のデ-タ-を洗って「眼から鱗が落ちた」のは実際には固定翼機で既に上記が可能である事を実証されて居た。単発ピストン機総数503機の中で最も多く使われて来た機材はCessna172 (スカイホ-ク 180機でピストン単発総機数503機の35.8%) の30万ドル前後から、Beech A36 (ボナンザ43機シェア-8.5%) の70万㌦等と機材価格は何れも一億円を大きく切って居る。ピストン機で2番目に多いPiper PA-28 (チェロキ- 59機シェア-11.7%) に至っては中古機で$25~50,000とHeavy Jetの $50,000,000の1/1000~ 1/2000の価格帯迄ある。(米国では一般ビジネスマンが使うビジネス機は中古機が多い)

Cessna 172のチャ-タ-料は¥55,000/時、巡航飛行速度200km/時と置けば¥275/㎞とタクシ-料の¥330/㎞より安いし3人が乗れば¥92/時/人と成る。但し、固定翼機では離着陸に空港が必要で全国に98空港しかない為その利用は限定される。

   

価格

機数

チャ-タ-料

巡航速度

¥/㎞

¥//

Cessna 172

Share %

30万㌦前後

180

35.8%

¥55,000/時

3人乗り

200㎞/時

¥275/㎞

¥92/時/人

h.又、ヘリコプタ-もビジネス機として利用する為の法制整備、計器飛行の可能性、都市部の離発着の為のヘリポ-トの建設等様々な課題はあるが、本サイトの個別レポ-トで取り上げて居るので参照戴くとして、本サイトの核心である一般ビジネスマン或いは一般利用者の手の届く¥36~330/㎞等と言う「利用対効果」を正当化出来るヘリコプタ-の利用料提供は可能なのか、本稿はこれに絞って読者のブレ-ンスト-ミングを試みる。

i.「二律背反」の中で突破口を見出す「地頭力」の必要性が叫ばれる今日、「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も、成らぬは人の、為さざる成り」と米沢藩主上杉鷹山が喝破した事は実現可能か、ビジネス機に関心を持つ人々の「発想の転換」が問われている。全ては工夫次第、中古機を含めた低価格帯の機材、然も全国30,000と言われるヘリポ-ト(申請すれば場外なら都市圏を除き比較的簡単に認可が下りる)の利用が可能、短距離、短時間の利用(片道50~100km 15分~30分),共同所有・利用による機材の稼働率アップと言った様々な要素の組み合わせで「為せば成る」のでは無かろうか。キ-ワ-ドは個々バラバラの努力では何事も実現しない。全てをテ-ブルに乗せオ-プンにして「3人寄れば文殊の知恵」の「協働」が鍵。限られた市場のパイの水面下の切取り争いや「既得権擁護」では何事も成就しないとの「発想の転換」が必須。

ビジネス機のコスト

/遠距離飛行用機材

価格帯は$15百万㌦のMid-Jetから、$50~60百万㌦のHeavy Jetそして $150~260百万㌦の商用機をビジネス機仕様として流用する最上位機種迄様々であるが、日本では軍用・公用として国家予算で購入される機材以外、民間には1機も存在しない。ビジネス機を所有する為の採算分岐点は500時間/年の利用とされるが、商用便のファ-ストフルフェア-の何十倍の運賃を支払う企業マンはトップ、幹部社員とて居ない。従って、採算分岐点をクリア-する利用は考えられず、国内の高い規制コストも重なり、2000年半ばには全ての機材が海外に拠点を移した。過去5年、中国は急速この種高価格機材を調達、2012年には新規購入96機の多くがこれら最上位機材であった。日本は2000年半ばより、中国の運航業者と各種の提携を結んで居り、国内の超富裕層、セレブ、VIPの利用者の要請があれば何時でも中国より取寄せ可能。国内の短距離輸送にはこの種機材は不要。

Light Jet

国内のビジネスジェット機として2012年24機が登録されている。機材所有/利用者は報道関係(ビジネス機利用コストは取材コストの一部として「費用対効果」が正当化可能)、地方の中小オ-ナ-企業(「費用対効果」は自己責任で処理)、航空機運航会社(大手運航会社でベ-スと成る顧客・貨物を持つ)但し、最近はビジネス機を自己所有からリ-スに切替えるたり、より低価格乍ら性能の良いタ-ボ機、ピストン機、回転翼機を併用している。相対的にコストが安いと言ってもLight Jetは運賃¥1,000/㎞を目標に頑張っているが、競合交通手段のコストは¥35~330/㎞なので、「費用対効果」の自己責任を負う地方のオ-ナ-経営者 (それも僅か10社) 以外の利用は難しい。

VLJ (Very Light Jet – Micro-Jet) タ-ボプロップ機

未だ開発・改良の過程で結論めいた事は言えないが、現況は米国でも所期の期待程の成果は見られない。ホンダジェットは本年半ば頃より出荷が始まるが未だ実績は無い。但し、受注は好調で処女機出荷を持たず、工場の増設を発表している。機材はLight Jetの1/2~1/3位の価格では有るが、仮に¥500/㎞の利用料提供が可能であっても日本の顧客が利用するかは不明。ホンダは埼玉県にホンダ空港を所有、ピストン機、回転翼機を運航、セスナの小型機等競合交通機関と対等のサ-ビスを提供して来たが、利用層は大きく伸びて居ない。一つの事由は、固定翼機の場合利用空港が必要だが、赤字経営で税金の無駄使いが指摘される地方空港の乱立の世上の批判とは裏腹に、関東北部、山梨等の横の移動に必要な空港は存在しない。

ピストン機

日本のビジネス機を双発タ-ボ機、ジェット機に絞ると、機材の大半がビジネス機の定義より外れる官公需と成り、日本は如何にも世界のビジネス機後進国の印象を与えるが、実情は低価格の小型ピストン機がビジネス機の主流で500機前後が存在する。Light Jetが$7~12百万(平均1000万㌦)、VLJ$3~5百万(平均400万㌦)に対して小型ピストン機は$0.35~1百万(人気のある低価格帯機材で30~75万㌦とLight Jetの 1/10~1/50 程度)。コストの問題もあるが、固定翼機は訪問地が空港より離れて居た場合問題に成らない。長野県伊奈を訪問するのに松本空港では利用コストを脇に置いても問題に成らない。岐阜県、奈良県から栃木県に横移動すると言っても両端に空港が無い。逆に空港が有れば、鳥取-松山等低コストの小型ピストン機の利用で「費用対効果」が正当化出来る事例もあろう。

低価格帯回転翼機

日本では回転翼機の数は横這いだが、内容的には低価格帯回転翼機への代替が進んでいる。

かって、回転翼機でも20~30万円/時の利用料はあると言ったら「事実誤認」で数10万円/時(Light Jetと同じ)と一笑に付された。事実はビジネス機の定義に該当する回転翼機は500機余は存在し、その半数が0.25~2.5百万㌦の低価格帯機材。利用料20万円時として¥1,000/㎞、3人相乗りで¥330/㎞とちょうどタクシ-料金の¥330/㎞と同額。後述する工夫を加えればタクシ-料金以下にも成る。回転翼機で有れば何処でも飛べるので(遠隔地の工場・倉庫・研究施設でも場外で有れば90日程度でヘリパットの設置の許可は得られる)問題はビジネス機として利用するには気象条件に或る程度振り回され無い計器飛行が必要。欧米では、Garmin社のGPS計器を装備すれば計器飛行も認可されるが、最近の小型機、回転翼機の殆どがGarmin器装備で型式証明を取っている。後は都市圏のビジネス街或いは主要鉄道駅近辺のビル屋上等のヘリポ-ト設置の規制緩和(地方自治体認可事項)が行われれば、回転翼機のビジネス機としての利用も大きな弾みが付こう。

回転翼機の上位機種

回転翼機の上位機種にも「上には上が有る」。ドクタ-ヘリに象徴される救急医療、 山岳地帯での人命救助、災害時の要員・機資材の搬送・人員救出等人命が絡むと「費用対コスト」面からも上位機種の利用が正当化される。又地方によっては、大型バス、小型バスに代えて大型の回転翼機が旅客・機資材の搬送に使われる。コミュ-タ-的利用の事例も多いが、コミュ-タ-機、警察、消防、自治体の所有機は公共の機材としてビジネス機の範疇より除かれるがその中間に幅広いグレ-ゾ-ンも存在する。航空機は価格が高い為、機材の価格の多寡も重要だが、今一つ決定的要因としては機材の利用頻度の与える影響は無視出来ない。ビジネス機業界では固定翼機であれば500時間/年、回転翼機で有れば300時間/年が採算分岐点と言われるが(機材の価格で大きく異なるが)年間の平均利用実績は米国では両者共7~800時間/年で此処が日本と根本的に異る。日本で低格帯機材を利用してビジネス機の利用コストを一般利用者の手の届く価格帯に収めるには、機材の利用度の向上が不可欠で機材のコストと「車の両輪」として配慮されねばならない。この為には民間、公共を問わず、機材の共同所有、共同運航、プ-ル制のレンタルと言った「協働」が不可欠。日本の大手航空企業はアライアンスで同業他社との「協働」のメリットが如何なるものか分かっている。ビジネス機は海外ではFractional Ownership, Block   Chartering, Time Charter, On-Demand Charter等凡る便法が提供されている。日本でもゴルフ場、リゾ-トマンションの会員制での共同利用、カ-シェアリング、カ-レンタル等共同所有・利用形態は広く普及して居る。回転翼機も市街地のヘリポ-ト利用等既得権を主張するのではなく共同利用出来るオ-プンなシステム構築が日本でのビジネス機を普及させる鍵。

一般利用者の手の届く利用コスト

一般利用者が高額の航空運賃を払い利用する事が有るかの疑問は四半世紀前迄当たり前の様に提起されて来た。H.I.Sの澤田会長は学生時代海外を旅行し何故日本人が海外で誰でも利用出来る手頃の運賃で「空の旅」を楽しめないのかの素朴な疑問を抱き、自ら誰でも「空の旅」を楽しめる旅行会社を創業大成功した。その海外でさえも、何故もっと安いコストで「空の旅」が愉しめないかの疑問に応える為、LCC(格安航空会社が)が誕生した。米国政府は1978年航空の自由化を実施、世界に名だたる航空会社は統合、連衡合従、アライアンスを組み一般利用者でも一生果たせない夢と思っていた海外旅行を現在は学生でもアルバイトで稼いだ金で手軽に楽しめる時代に成った。航空機による海外旅行等手の届かぬ高嶺の花と思われたが、現在は格安航空券で欧米往復数万円等と言う商品迄ある。欧米で一般ビジネスマンが利用出来るビジネス機を何故日本企業マンは利用出来ないのか、どうすれば利用出来るか共に考えるのが本サイトの目的でこの核心の問題に敢て挑戦を試みた。

 

アジア・オセアニアを含めた海外旅行へのビジネス機の利用

ビジネス機の利用料は¥1,500~2,000/㎞、商用機のファ-ストフルフェア-で¥50~100/㎞と単位当たりのコストに大きな格差が有るが、利用料は単価懸ける飛行距離なので、遠距離であればある程コストは雪だるま式に膨れ上がるので、一般ビジネスマンは利用出来ない。日本は世界の経済中心地から最も遠くに位置し「大量輸送方式」と「個人専用」とのコスト格差は構造的なもの。

海外でのビジネス機の利用

日本のビジネスマンは過去四半世紀~半世紀海外の企業進出先、或いは日本からの出張者も交通のアクセスが悪い訪問先には地場のビジネス機を利用して来た。日本と異りコストも大幅に安い上、選択肢も多様でピン錐。人口減少に伴う経済成長の鈍化、国内の高コスト体質、海外特にアジア経済圏の目覚ましい発展と相対的に安いコストで日本の製造業の海外進出は一層拍車が懸ると思われるが、それに伴い日本人の海外でのビジネス機の利用は寧ろ増えるであろう。「空に国境なし」グロ-バルな視座を持つ事が必須。。

日本国内でのビジネス機の利用(固定翼機

Light   Jetでも¥1,000/㎞は目標であっても中々実現出来ない。地上交通で最も高いタクシ-は¥330/㎞故にLight Jetより遥かに安い機材以外一般ビジネスマンは利用出来ない。固定翼機の決定的な限界はアクセスの良い空港が近くに無ければ使えない。日本で一番経済活動が活発な関東経済圏を例に取れば都心周辺空港への交通アクセスは悪く、埼玉県ホンダ空港以北には空港は何処にもない。(関東周辺空港は福島、新潟、富山、松本、静岡)利用料の多寡に関わらず、固定翼ビジネス機の利用は限定的。(米国には商用便が利用する空港は7,500、個人所有の空港を含めると30,000と98空港しかない日本とは雲泥の差)

日本国内でのビジネス機の利用(回転翼機)

一般利用者が汎用的に利用出来るビジネス機としては実質上回転翼機が最も有望。回転翼機の使い勝手向上に不可欠な法制整備、計器飛行の認可、都市圏でのヘリポ-ト設置の規制緩和等多くの課題は残されているが、これはさて置き、先ず一般利用者が手の届く利用料が提供されなければ何も始まらない。最後にこの1点に絞って記述する。

 

一般の利用者の手の届く利用料提供の可能性と方策

 

一般の利用者の手の届く利用料

既存の代替交通手段との比較で格差が大きければ回転翼機と言えども利用されない

利用区間

距離

所要時間

交通手段

利用料金

単価 \/㎞

羽田―伊丹

450㎞

1時間10分

商用便ファ-スト

¥22,900

51

東京-新大阪

552.6㎞

2時間20分

のぞみグリ-ン車

¥19,200

35

タクシ-

900m

タクシ-

¥300

330

幹線は商用便か幹線鉄道、交通アクセスの悪い目的地にはビジネス機の補完利用の原則に従えば、「大量輸送」コスト¥35~51/㎞の「大量輸送交通手段」を利用、補完交通手段はタクシ-との競合する利用料が必要。タクシ-の標準利用料は¥300/900m或いは¥330/㎞。訪問地距離50㎞とすればタクシ-の所要往復時間2時間、回転翼機30分。時間の節減、快適性等定性的メリットはビジネス機としての回転翼機が遥かに勝る。

機材の価格

日本でも小型ピストン機、タ-ボ機、回転翼機が過去四半世紀利用されて来た。事実機材価格が1億円以下で$30~75万の機材が最も多い。回転翼機も1億円以下の機材が増加している。機材価格1億円、5年償却で年間固定費2千万円、年間利用時間500時間として固定費コストを¥40,000/時とすれば、他の経費を加え¥60,000/時、¥1,000/分、回転翼機の巡航速度を200㎞/時と置けば¥330/㎞と地上タクシ-と拮抗する。一つの目標では無かろうか?

集中購買・整備・管理

日本の航空会社はアライアンスに参加する事で同業他社とのコ-ドシェアリング、相互の知見交換、部品の共同調達・管理等統合・「協働」のベネフィットを味った。LCCは機種を統一する事で整備・管理コストの節減を図った。Fractional Ownershipの最大手NetJetsは一度に200機以上のビジネス機を一括発注する事で機材の大幅な値引きを獲得した。日本も共同保有機構を結成、機材の統一・共同購買・整備・管理等で思い切ったコスト削減を図らねば競合交通機関との競争には勝てない。現在は、海外から見れば日本は関連企業は小規模経営で個々別々に行動をしているがこれでは何時迄も低迷からの脱却は望めない。

機材の利用頻度

機材の価格と同等或いはそれ以上にコストインパクトが有るのが利用頻度。回転翼機の場合米国では300時間/年の利用が採算分岐点と言われ、業界平均は700時間/年を越えると言われる。日本は高コスト体質の国故、採算的には500時間/年或いはそれ以上必要かも知れないが、業界平均は200時間程度で業者の多くは100時間/年さえ割り込む処が有る。簡便法で計算すれば、仮に1億円の機材の固定費を年間20% 2千万円と置けば100時間/年利用で¥200,000/時、200時間で¥100,000/時、400時間で¥50,000/時、800時間で¥25,000/時と利用率の向上でコストは劇的に下る。

短時間・短距離利用

地上交通で最も割高なタクシ-は一般的には短時間、短距離利用と成る。回転翼機の巡航速度を200㎞/時と置けば、50㎞15分、100km30分と成る。関東一円で有れば150km 45分程度でカバ-可能。米国のビジネス機の平均利用時間は往復1.8時間片道50分程度。固定翼機の巡航速度を500km/時と置けば450km(東京から東北の盛岡以南、近畿一円迄カバ-可能)。日本で有れば、遠隔地は商用便で地方空港、或いは幹線鉄道で近隣幹線駅から50㎞範囲内で訪問先をカバ-出来るのではないか?海外出張では主要空港迄商用便、その先交通のアクセスが悪ければビジネス機と言う補完手段が従来より取られているが、ならば国内でも商用便、コミュ-タ-便、幹線鉄道で訪問地近くに行き、そこから補完手段として回転翼機を利用すれば良い。仮に回転翼機の利用料が¥60,000‣時とすれば50㎞往復で¥30,000,3人乗りで¥10,000/人、5人乗りであれば¥6,000/人でこの程度であれば企業、職位により異ろうが、一般ビジネスマンが出張旅費として社費で経費を落せるのではないか?

総   括

1.全ての出発点はビジネス機とは小型ピストン機や回転翼機を含めたジェネアビ機で事業目的に利用される物と言うビジネス機の定義の原点に戻る事。この定義に該当する航空機は日本には950機程度存在すると推定される。一方ビジネス機として関係業界で話題となるのは双発タ-ボ機10機+ジェット機24機 (機材の拾い方で多少の増減はあるが)と僅か2.5%。これのみに焦点を当てると「木を見て森を見ず」と全体像を見失う。

2.海外より見ると日本人は「賢い人種」と評価されている。日本に居ると国政の乱れを始め多くのアラが見えるが、日本人の持つ「賢明さ」に信を置く必要がある。「賢明な日本人」が試行錯誤を重ねて行き着いた「経験則」を総括してみよう。

a.資源の乏しい島国で1億3千万人近い人口を養うには「貿易立国」が不可欠。然も欧米の先進経済国とは最も離れた極東に位置する為、交通手段として航空インフラ整備が不可欠と認識し、「大量輸送」による航空運賃の引下げ、グロ-バルな主要都市へのアクセスに全力を傾注した。その成果として、世界の何処にでもファ-ストフルフェア-で¥100/㎞以下の単価で飛べる迄に成った。一般ビジネスマンが利用するビジネスクラスやビジネスプレミアムではこの約半分以下。

b.90年代後半から経済大国としてのビジネス機の利用が叫ばれたが、コストは¥1,800~2,000/㎞と商用機とは全く桁違いの単価。利用料は単価懸ける飛行距離故、日本から欧米迄往復20,000kmと成れば、「費用対効果」の「説明責任」を負うサラリマン企業マンは企業トップ、幹部と言えども高額のビジネス機を利用する事は出来ない。New York, Londonへの往復運賃が35~40百万円と聞いて利用する日本人ビジネスマンが居るであろうか?日本のビジネスマンは60年代から海外出張を始め、60年代後半には当り前の事と成った。70年代半ばには米国ではビジネス機が使われ始め、三菱重工も70年代半ばには米国でMU-2の生産を始めた。又、海外進出を始めた日本企業は、60年代半ばには交通のアクセスが悪い海外の現場に行くには現地でビジネス機を使って来た。従って、90年代には、日本から海外の主要都市には「大量輸送」によるコストが安い商用便を利用し、現地で交通のアクセスが悪い目的地には必要が有ればビジネス機を現地調達すると言った「使い分け」を行って来た。90年後半から日本企業へのビジネス機の売込みが海外のビジネス機製造メ-カ-により組織的に行われたが20年近い今日でも中/遠距離に飛行可能なビジネス機の上位機種は1機として日本に存在しないし、日本の大手企業の幹部と言えども中/遠距離飛行にビジネス機を利用する事は無い。それを日本の「後進性」と言うのは海外ビジネス機製造メ-カ-の論理であるが、日本企業が永年の経験により行き着いた「合理的」判断に基くニ-ズに応じた「使い分け」をする事は「賢い日本人」の証左であり、コンプレックスを感じたり恥じる事は何一つない。寧ろ、半世紀に亘る経験の蓄積と「賢い日本人」の冷静且つ合理的な判断の結果で有り、「費用対効果」の「説明責任」を全うしていると胸を張って言える立場にある。日本人も欧米ビジネス機製造メ-カ-の高級ビジネス機を利用しなければ「人に非ず」と言う「呪縛」から脱却すべき時期。同じ事が過去自動車業界でも起きた。黒塗りのデトロイト製のキャディラックのストレッチリモジンに乗らなければ「人に非ず」と煽ったが、利用者は反社会的組織のボスのステ-タスシンボルに終わり大手企業幹部は使う事無くその「賢さ」を示した。

c.話を国内に転じた場合、国内では1872年新橋―横浜間の鉄道が開通して以来日本は交通インフラの構築を精力的に進め戦後は民間航空の育成に注力、現在は700㎞程度を境に鉄道と空運の時間・費用を考慮した棲み分けが行われて居る。国内でもビジネスジェット機の利用料は¥1,000/㎞を割る事を目標に置いているが、実際はこれより遥かに高い。一方、商用便は「大量輸送」によりファ-ストフルフェア-で¥50/㎞だが国内1~2時間の飛行にファ-ストフルフェア-を払う企業マンは居ないのでその半値以下と成る。一方鉄道は新幹線のぞみのグリ-ン車で¥35/㎞なので日本人の大手企業幹部と言えども特殊事例を除いてはビジネスジェット機を利用しない。これも「経験則」に基く「合理的」判断の結果。無論、日本にも24機のビジネス機は存在するが、報道関係、運航会社の所有機で、地方のオ-ナ-企業が所有して居るジェット機は10機と国内にあるビジネス機の1%程度。東証一部上場の大手企業の所有機は皆無。

d.国内のビジネス機による人員・資機材の移動には高価な機材は用いられず、単発ピストン機、タ-ボ機、回転翼機950機以上が利用されている。これも優に四半世紀を越える「賢い日本人」の「経験則」に基いた「合理的判断」の成果。国内で利用される数少ないジェット機は7~12百万㌦するが、日本で圧倒的に利用される小型ピストン機は0.3~0.75百万㌦とLight Jetの1/10~1/20 のコスト。回転翼機も0.25~2.3百万㌦程度の低価格帯機材が400機以上もある。地上交通機関で最も高いのはタクシ-で単価は¥330/㎞でこの競合する価格に単発ピストン機は合せている。これも永年の「経験則」の成果。「賢い日本人」は欧米のビジネス機製造メ-カ-の“Desk Top Thinking-机上のお勉強”ではなく現場の「汗と埃に塗れた」試行錯誤の実地体験で克ち取った成果の「経験則」を拠り処としている。欧米のビジネス機製造メ-カ-の状況判断の誤りは、日本は米国の様な「格差社会」では無く「平均化社会」である事(階級社会では身分に応じた行動を取る事が求められビジネス機を特権階層が用いる事は身分に相応しい振舞いと射幸心を仰ぐ商法が盛ん)、日本は世界に冠たる鉄道、公共交通機関の最先進国、「恥の文化」「横並び社会」で「人の目を気にする」社会との認識が欠如して居た。「富と権力」の顕わな誇示は日本では「慎み」「奥床しさ」に欠ける行為と憚れる。4月中旬上海で開催されたABACEでの中国特権階層の「恥も外聞もない」「富と権力」を誇示したビジネス機の最上位機種の買い捲りは欧米のビジネス機製造メ-カ-でさえ目を見張った。その善悪是非を論じるのが本サイトの目的ではないが、国境を越えた文化・価値観の相違は認識する必要がある。日本人は日本人としての「賢さ」に信を置けば、世界より尊敬される民族と成れる。

e.残るは、固定翼機の持つ構造的限界である滑走路を持つ空港の必要性とこれに伴う諸種の制約を如何に克服するかで。日本に現存する98空港の9割以上が赤字垂れ流しで、用地確保の難しさを含めこれ以上の空港の建設は難しい。米国の様に、個人所有の空港(農家は裏庭に滑走路を持つ)も含め30,000の空港を持つ等は「夢の又夢」。然し日本には30,000と言われるヘリポ-トがあり、地方の工場、研究施設、配送センタ-、工業団地等は場外へリポ-トなら簡単に許可が取れる。但し、市街地でのヘリポ-ト建設を始め、計器飛行、ジェネアビ法制の整備等関係諸団体の行政への「協働」による働き掛けは不可欠。それ以上に、日本のビジネスマンが地方の出張の補完交通手段として回転翼機を利用するにしても経団連、経済同友会、日商等の経済団体の後押しとこれを可能とする信頼出来る共同所有・運航システムの構築が不可欠。海外の機材メ-カ-、日本の大手企業を巻き込むには個別の中小の企業では誰も経営・金融・運航・安全面への配慮から自社従業員の交通の足を任せる訳には行かない。「賢い」企業を相手にするのであれば「賢い」インフラ・システムの整備が必要。これは一企業や一業界団体では実現不可能。関連業界、企業、専門家の「3本の矢」の力を結集した「協働」が必要。誰も反対する者は居ない事項であり、誰もが必要と認め、凡る基盤は水面下に現存するので、これを組織化、持てる潜在能力を結集・顕在化し「3人寄れば文殊の知恵」の故知に従えば「為さぬは人の為さざる成り」の垣根も乗り越えられると思うのは筆者だけか?

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