2013年12月12日(木)06時49分
(31) 2013年の回顧
本サイトを開設して1年を経た。当初予測しなかったものの、2013年はビジネス機を含めた航空業界の大きな節目の年と成ったので、年末に際し1年の回顧を試みた。
要 約 1.世界の商用航空業界の最大の出来事は、米国AmericanとUSAir社の統合により、1978年に始った航空業の規制緩和のグロ-バルな業界再編劇が35年を経て集大成された。 2.米国の伝統的大手航空会社 (Legacy Carrier) は2008年United-Continental, 2010年Delta-Northwest,そしてAmericanとUSAirの統合で最終的に3大グル-プに集約。 3.欧州ではBritish Airways, Air France, Lufthansaの英・仏・独の3企業を中核に3大グル-プに集約、更に米国・欧州の3大企業グル-プがその他地域の企業を集約したStar Alliance, One World, Sky Teamのグロ-バルなメガアライアンスが誕生。本年度は、アライアンスに距離を置いて来た中東湾岸の航空会社の内、QatarがOne Worldに参加話題を呼んだ。今後、これらの統合されたグル-プ間での個々の航空会社の離合集散は続こうが、世界的なメガ集約劇は一応完成したと見られる。 4.11月17~21日中東ドバイで開催されたエアショ-は湾岸の3大航空会社Emirates, Etihad, Qatarの驚天動地の新鋭機の発注で業界を震撼とさせた。商用機の最上位機種であるAirbus A-380は未受渡し機材を含め3社の発注機数は147機、Boeing 777機の後継機である777X (2020年初出荷) は本年のパリ-のエアショ-で紹介されたが、3.5億㌦強の機材276機が発注され、Boeing社史上あらゆるエアショ-を通じ最大の受注額。 5.Hub-and-SpokesのビジネスモデルもBoeing 787に象徴されるジャンボ機より小ぶりの新鋭機の航続距離が伸びた為、2点間の直行便への移行が見られる中で、中東をハブとし豊富な石油資源とオイルマネ-を武器に、長距離飛行の顧客を一挙に取り込もうと言う野心的な計画で、リ-マンショック以降経済低迷より抜け出せない欧米諸国には青天の霹靂と成った。トルコがイスタンブ-ルに世界最大の空港建設の構想を打ち出したが、アフリカ・欧州・アジアの3大陸の結節点と言う地政学的な優位性が実現されればそのインパクトは大きく、日本人には無いスケ-ルの大きな発想。 6.視点をビジネス機に転ずれば、リ-マンショック以来5年間世界のビジネス機数の販売は半減と1930年代の世界的不況に匹敵するインパクトを業界に与えた。5年後の今日業界が悟らされた事は、「金持の道楽」と揶揄されて来た超富裕層、セレブ、VIP等の「特権階層」の利用者と「ビジネスツ-ル」の利用を目的として来た一般企業マンの2極分化が誰の目にも見える様に成った。前者は、価格20億円(2千万㌦)以上の上位機種を買い捲るが、後者は1~4億円以下の低価格帯機材が必要との認識も生まれ、中小型ビジネス機メ-カ-やベンチャ-企業が低価格では有るが企業マンでも使える機材の開発を進め一部は市場にお目見えし始め、今後2~3年でその一般普及が期待されて居る。 7.NBAAを始めとする世界のビジネス機協会の使命は日本で充分に理解されていないがビジネス機は「金持ちのステ-タスシンボル」と言う側面は認め乍ら、利用者の絶対数では一般ビジネスマンの利用者の方が多く、然も大企業より中小企業の利用者が多い事実を指摘、ビジネス機の有用性を擁護(Advocacy) する事にあった。今回は、中小型機を利用して来たビジネスマンの利用者が減少、中小型機メ-カ-は破産法の適用申請と言う駆け込み寺への逃避の現実を隠す事は出来なくなった。本夏のEBACEでは、ビジネス機の利用料を出張費として経費処理する一般ビジネスマンは激減、中小企業と言っても私企業として株式公開していない富裕なオ-ナ-企業者の利用者が主体と判明、各国のビジネス機協会は如何なる擁護の論理を再構築するか頭を悩して居る。 8.他方本年のABACEでは、中国が20億円は勿論100億円以上するAirbus,Boeingの最上位機種も買い捲り、一部「特権階層」の「富と権力の象徴」として誇示された。それはさて置き、中国は本サイトでも紹介した通り、上位機種・低価格帯機材を含め、機材の自国生産、必要なインフラ、ソフトに至る迄包括的に海外より買い付ける等(企業買収を含め)2-3年内には日本等足元にも及ばない格差が生ずる事は明白。但し、日本は中国と提携、日本が必要とするものは中国より取寄せれば良く「国際分業」で「勝てなければ手を組む」事でニ-ズの充足は可能で、事実日本企業は過去10年そうして来た。 9.翻って日本の現状分析を行うと、日本では20億円以上の機材は民間に1機も存在せず、全て「軍用・公用」の「官公需」のみ。日本にも機材価格が7~18億円程度の中位の機材は3~4機運航業者よりチャ-タ-可能だが、利用料は商用便の50~100倍と桁外れのコストで海外からのビジネス機訪問客の日本国内移動、コストが問題では無い「特権階層」以外利用者は居ない。前者は、10月末からの「カボタ-ジュ制限」緩和で、海外からの訪問客が自己の訪問機を利用すれば日本の国内移動は可能と成った。 10.その一方、日本は過去四半世紀、機材価格0.3~1.5憶円の低格帯機材1,000機以上をビジネス機として利用して来たので海外市場での市場の2分極化の現象は日本では先取り済み。20億円以上の機材はビジネス機の定義外の「官公需」のみ。ビジネス「ジェット機」は数億円以上するので「特権階層」以外利用者が居ない。従って、ビジネス機を「双発タ-ボ機+ジェット機」の「狭義のビジネス機」に絞れば日本に現存する35機は世界に存在する35,000機の0.1%と問題にもされない。 11.その一方、日本は大陸国には存在し得ない網目の如き各種交通機関を持つ「交通大国」で補完的に1,000機の「広義のビジネス機」を持つと考えれば、引目を感じる事は無い。 12.2013年国内の最大の進展は過去17.5年懸案であったビジネス機運航上の段階的規制緩和の一連の諸施策が一応の完結を迎えたが、その「足跡」は本稿の後段に記載した。。 13.今後は、日本に馴染む低価格帯の「広義のビジネス機」に光を当て、これを利用する市場・顧客や運航に関わる現場の当事者を糾合「地に足が付いた」具体策を検討する。 14更に、.同じ思いを抱き志を一にする内外の関係諸団体との「連携」「協働」を図る。 |
中東湾岸3航空会社の現状
11月17~21日のドバイエアショ-は半年前のパリエアショ-で披露されたBoeing 777X 225機とAirbus A-380 50機が発註され大型商談に慣れて居る関係者さえ驚かした。因みに、メ-カ-のリスト価格はBoeing 777-8Xは1機349.8百万㌦、777-9X 377.2百万㌦、Airbus A-380 は仕様により異るが1機300百万㌦以上の物もある。3社の発注残は下記。
Aviation Week 11/18/2013
機 種 |
Emirates |
Etihad Airways |
Qatar Airways |
Boeing 777-300ER/F 発 注 受渡済 |
120 機 59 |
18 17 |
35 27 |
787-8/9 発 注 受渡済 |
|
41 0 |
30 8 |
Airbus A-380 発 注 受渡済 |
90 37 |
10 0 |
10 0 |
A-350s 発 注 受渡済 |
70 0 |
12 0 |
80 0 |
A-330s 発 注 受渡済 |
|
18 15 |
|
A-320s 発 注 受渡済 |
|
18 4 |
82 37 |
Aviation Week 12/02/2013
|
Backlog総計 |
中東 |
中東シェア- |
内訳 |
Total Backlog
|
$628.8 Bil |
$148.4 Bil |
19.1% |
Boeing $82.0 bil Airbus $66.4 bil |
Twin-Aisle |
267.2 |
131.1 |
32.9
|
Boeing $73.7 bil Airbus $57.4 bil |
タ イ ト ル |
サイト公開日 |
2013年の航空業界の課題 |
2013年1月6日公開 |
カタ-ル |
1月12日公開 |
エミレ-ツ航空羽田就航 |
1月30日公開 |
エミレ-ツ航空6月より羽田就航 |
3月7日公開 |
トルコの航空事情 |
5月9日公開 |
2012年のトップ10航空会社 |
7月31日公開 |
中国・ブラジルのビジネス機事情
大陸国である中国、ブラジルは広大な領土に日本の如く網目の様な交通網を張り巡らせる事は出来ないので空運への依存度が大きく、「富の偏在」も大きいので富裕層は高額の「狭義のビジネス機」を自家所有する。日本はあらゆる交通手段が高度に発達している上に「広義のビジネス機」も多く使われて居るので「ビジネスジェット機」数の単純比較で一喜一憂する事は意味が無い。ブラジルのビジネス機数を仮に700機と置き、中国は年末に400機強2015年末には500機と置けば、日本は2012年末で24機で問題に成らない。然も一般ビジネスマンがチャ-タ-可能なビジネス機」は僅か3~4機、利用料は商用便の50~100倍する為利用は事実上不可能。何れにせよ、本サイトの下記記述を参照されたい。
ビジネス機規制緩和の足跡
足跡の要約 1.1989年Gulfstream社モス会長日本をビジネス機の有望市場として販売活動開始。 2.NBAA,米国大使館、商工会議所等が働き掛け、1996年5月JBAA(日本ビジネス航空協会)発足。 3.同年秋成田空港にビジネス機用離発着枠3枠が割当てられその後12枠に増加。 4.2000年前半地方空港のビジネス機利用への開放、2005年名古屋空港が基地として整備された。 5.2009秋~2010春成田/羽田の容量増大、百里基地の民間機共用で首都圏空港の整備も実現 6.羽田も深夜~早朝の時間帯にビジネス機用離発着枠3枠が割当てられた。 7.2013年、成田/羽田利用料値下げ、カボタ-ジュ機規制緩和、ジェネアビ法制の整備も実現。 |
ビジネス機離発着枠 1.JBAA設立時最大の課題は海外機が最も訪問を望む首都圏受入れ空港が無い事。 2.国交省も海外からの要望に応え1996年秋、成田空港にビジネス機用離発着枠3枠を割当てた。 3.その後も離発着枠は12枠に増枠されたが、17年後、当初割り当てられた3枠も未消化。 4.JA(日本国籍)ビジネス機は、ここ数年成田より海外向けに出発した実績は無い。 5.羽田の深夜~早朝時間帯の離発着枠も未消化。JA機の海外向け出発は年間1~2機に止まる。 6.便利な時間帯が利用出来ない事に問題が転嫁されたが、商用便が自社枠を譲り渡す事はない 7.海外とて同じ事。従ってビジネス機は周辺二次空港を利用するが茨城空港利用検討は進まない。 |
昨今の規制緩和措置 1.成田/羽田の空港利用料の値下げも発表されたが、周辺二次空港の茨城空港は元々安い。 2.この間、空港の事前利用通告時間、駐機問題、成田での専用施設の設置等多くの改善策が実現。 3.成田/羽田に改善の余地が残るにしても先進国の玄関口幹線空港は何処でも同様問題を抱える。 4.従って、周辺二次空港の利用が常識で、国交省も茨城空港の利用を2010年より示唆している。 5.最後の障壁のジェネアビ機用法制の整備 (FAR Part 135の準用)も年内完成が期待される。 |
ビジネス機の利用コスト 1.ビジネス機の所有・利用コストが高い事は、2000年初頭関係者間でもかなり認識が深まった。 2.その結果、JBAAの中核の一部商社は退会自らの道を歩むなり、或いは近隣諸国の業者と提携した。 3.2000年半ばにはトヨタ、ソニ-を含め全ての日本企業は海外に拠点を移転した。 4.此処10年、中/遠距離用Mid~Heavy Jetの民間による購入・所有実績は皆無、「官公需」のみ。 5.国内用のLight Jetも海外ビジネス機訪問客の国内移動か、「特権階層」の利用者が主体。 6.理由は単純・明快。利用コストが商用便を含め競合交通機関の50~100倍と利用検討対象外。 |
総 括 1.公的規制の制約も緩和された事でもあり、後は市場・顧客の評価と選択に委ねる。 2.「広義のビジネス機」を含め如何なる形でビジネス機が使われるかは利用者が最終的に判断する。 3.「顧客が王様-”Customer is King”」の参画・意向を尊重顧客不在の「不毛の論議」は避ける。 |
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