2013年04月26日(金)03時42分

ABACE  II

ABACE (Asian Business Aviation Conference & Exhibition) 2013 (II)

本サイトの前号のトピックスで4月中旬上海で開催されたABACE 2013を取り上げたが、本稿はその追記。世界経済低迷の中、ビジネス機業界も深刻な打撃を受けたが、中国が産油国と並んで不況を「何処吹く風」とビジネス機を買い、業界も「地獄で仏」と手放しで歓迎したが、ABACEの場で改めて「中国パワ-」が再認識された。

1.中国は19世紀より「眠れる巨象」視されて来たが、此処10年眠りより醒め目覚ましい躍進を遂げて居る事は周知の事実。ビジネス機の世界より見れば、香港、マカオ等旧欧州植民地を除き目立った動きは見られなかったが、北京オリンピック、上海万博を機に一気にビジネス機ブ-ムに火が付いた。「僅か5年で景色は一変」と言うのが欧米訪問客の偽りのない驚きであった。

2.超富裕層を除き欧米で一番打撃を受けたのが一般ビジネスマンを顧客とする中/小型ビジネス機メ-カ-で、Hawker-Beechcraft社は経営破綻しビジネスジェット機より撤退、Citation社も最近2013年の業績見通しを下方修正した。この様な環境下、中国を訪問したビジネス機製造メ-カ-は、「最上位」「ぴかぴかの新鋭機で中古等見向きもしない」「どんどん新鋭機に買い替える」と最新鋭のビジネスジェット機を買い捲るこれ以上は望めない中国の超富裕顧客と出会った。最上位、最高価格、最先端の新鋭機を所有しなければ「人に非ず」は欧米でもその様な超富豪やセレブも多いが、一般には世間の批判に晒されぬ様目立たぬ行動を取るが、中国では最上位のビジネス機は「ステ-タスシンボル」と敢て誇示する風潮を目撃した。

3.香港ベ-スのコンサルタントAsian Sky Group の下記デ-タ-は改めて「中国パワ-」全開の現状を印象付けた。

 

機  種

シェア-%

Ultra Long-Range

23

Super-Large

13

Large

18

Super Mid-Size

12

Mid Size

10

Super-Light

8

Light

8

VLJ (Very Light)

1

Corporate

7

 

  •   上記の数字を足すと100%を越えて多少辻褄が合わないが、中国が所有するビジネス機の84%以上が$15~60百万㌦以上、2/3近くが上限の価格なので、正に「神様」に見える顧客。
  •   日本は$7~12百万㌦程度のLight Jetが2012年度24機、それも此処10年やや減少傾向なので、2000年半ばより日本はグロ-バルレ-ダ-スクリ-ンより姿を消した。2012年の全世界のビジネス機の受渡機数は約700機、最盛期の2008年の1200機より大幅にダウンしているが、中国は96機を購入、それも最上位機種が多いので正に「救世主」
  •   但し日本も、軍用・公用に双発タ-ボ機の上位機種を含め133機を所有し(中国は36機)それ以上に950機近いピストン機、回転翼機を含めた小型機を事業目的に使用して居ると見られる(中国はこの種低価格帯の航空機は未だ揺籃期)
  • l 下記の様に、中国と日本はビジネス機の取組み姿勢が対極にありどちらが善い悪いの評価は別として夫々の道を歩めば良い。「ステ-タスシンボル」を批判的に見る事は容易だが、日本も天下統一を果した秀吉は聚楽第、大阪城を構築し、徳川家は政権基盤が固まった3代将軍家光の時代に「日光を見る迄は結構と言うな」と言う日光の霊廟を完成させた。但し、「超格差社会」に立脚した現在の中国のビジネス機ブ-ムは「ベルリンの壁崩壊」のリスクは内在する。中国と日本の取組姿勢の相違は下記。

 

所得、権力格差に基くビジネス機の普及

中国:「超格差社会主義国」1%の富裕層が世界第2位の経済国の国富の60%を抑える

日本:「1億総中流」。明治維新、進駐軍による改革で身分、所得格差は相対的に平均化。

一部新興企業等の富裕層は存在するも海外との比較では富裕の度合いが違う

カリズマ的リ-ダ-の存在

中国:「共産党一党独裁」、14億の国民を統べる為には想像を絶する権力闘争に打ち克つカリズマ的リ-ダ-でなければ生き残れない。権力の頂点に立つ超富豪は百戦錬磨の士。トップダウン、即断、即決出来る人達で高額のビジネス機を乗りこなせる

日本 : 意思決定が「ボトムアップ」「コンセンサス方式」。強いリ-ダ-は必ずしも好まれ無い(ワンマン、独裁者)。戦乱の世に清盛、信長、家康等のリ-ダ-は現れるが、人気は今一つ。戦後は「エリ-ト」は「差別用語化」視され、総理大臣は毎年回転ドアの如く変り、企業トップも「お神輿経営」で海外のカリズマ的リ-ダ-と太刀打ち出来ず、高いビジネス機運賃を正当化するだけの成果は挙げ難い。

国土と交通インフラ

中国:広い国土、地上交通のインフラも日本に遥かに劣る。人口密度も日本より低いので、米国、欧州、カナダ、豪州、ブラジル、ロシアの大陸国同様、空運に依存する必要あり

日本:国土は小さく、人口は平野部に密集するので鉄道、道路等の地上インフラは網目の様に張り廻らされ、利用者も多く、運賃も安い。九州、北海道当の遠隔地を除き、大陸国の様に空運に大きく依存する必然性は無い。

航空機産業の成熟度

中国 : 此処10年の経済成長と都市部の所得増加で航空機の利用者は急増。北京オリンピック、上海万博に備え空港等のインフラも整備されたので、航空機利用者も激増。民間航空産業も成長期に入った。南方航空等世界ランキング上位に顔を出し始めた。

日本:「貿易立国」を国策として、世界の経済中心地より最も遠い極東の島国として海外との人的交流には航空機利用は不可欠。「国策」として国際線、国内線の育成に注力し現在は航空機産業の「成熟国」。グロ-バルアライアンスの恩恵で世界の主要都市に路線が繋がり、運賃はファ-ストフルフェア-でもビジネス機の何十分の1。

自由化

中国 : 国の「権力と富」を握る特権階層がビジネス機の利用開発に目覚めた。「国」、「富裕層」、「企業集団」、「金融グル-プ」、「ビジネス機関連の外国企業」が一致団結した「5本の矢」で瞬く間に「中国パワ-」の実力を世界に見せ付けた。

日本 : 航空産業は永年「規制産業」で各種自由化の施策は後手後手。ビジネス機に至ってはジェネアビが「市民権」さえ得て居ない。中国の様に個々の企業、関連業界団体、「国」との「3本の矢」の団結が不可欠。中国を真似するのではなく、日本は日本の地理、風土、文化に合ったビジネス機の育成を図れば良い。

 

 

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